ラスト五十文字だけ読んで、続きを書く。【梯子小説カルガモ】~な怪談話があるんですよ~

な怪談話があるんですよ」と告げてきた。四つ打ちが流れるこの場所は怪談などという言葉が全く似合わない。

 200文字の小説、そのラストの50文字だけがあなたに手渡されました。
「続きを書いてください」
 さあ、あなたならどんな小説にしますか?


カルガモ、つづけます。

日々、文章修練遊戯をする私たち。また楽しそうな遊びを見つけました。懲りないですね。今回のあそびはこちら。

小説のラスト50文字だけ見て続きを書く

 限られた文字数の、小説の断片を手掛かりに、はしご酒のように次から次へ、ふらふら泳ぎの波紋はどんな物語になるのでしょうか。
 名付けましたは「梯子小説カルガモ」。

 前回は散々な結果に終わりました。

でも、めげずにもう一度、楽しくあそびましょう。

カルガモのあそびかた

①ものずきがあつまる
200文字の小説を書き、ラスト50文字だけ次の人に渡す
③次の人は50文字だけを見て続き200文字を書き、また次の人へラスト50文字だけ渡す
④②と③を決められた回数繰り返したら、全部つなげる
⑤できあがりをたのしむ

前回は300文字でしたが今回は200文字に改定

レッツカルガモ

あつまったものずき:みやり立夏
順番:みやり→立夏→みやり→立夏

梯子の50文字

ひとつめの50文字(みやり)

な怪談話があるんですよ」と告げてきた。四つ打ちが流れるこの場所は怪談などという言葉が全く似合わない。


立夏が続き200文字を書き
ラスト50文字をみやりへ

ふたつめの50文字(立夏)

『何処で』首括ったんだって聞いたね」
 たたた・と滴ってくる。
「やっぱ知ってたんだ、あれが死んだ事は」


みやりが続き200文字を書き
ラスト50文字を立夏へ

みっつめの50文字(みやり)

太く長い縄がぶら下がっている。その先には丸い輪。まるで首吊り縄のような。たたた・たたた・という音は。


立夏が続き200文字を書き
ラスト50文字をみやりへ

よっつめの50文字(立夏)

からずっと、まだ上に二人ぶら下がってるみたいですよ。一年に一回だけ、血が落ちてきますからね」
 たん。

ゴール!

みやり ビャー やらかした気がします。大事なことな後ろ50に入ってなかった!! 物語を動かすのと伝えるのがうまく両立できないジレンマ。

立夏 たのしみ。

みやり 怒られるやつ。

さあ、ちゃんとつながっているのか

つなげたカルガモ

梯子の切れ目で空行を入れています。

 アンビエントな音楽が響く暗い店内でわたしはポツネンとしていた。
 友人であるAはさっさと何処かに消えてしまい(おそらく先ほど乾杯をしていた輩だろう)どうしたものかと所在なくぬるめの国産ビールを傾けていると、中肉中背のいやに背中を丸めたスーツの男が近寄ってきた。
 男は、わたしをじっとりと見た後に「特別な怪談話があるんですよ」と告げてきた。四つ打ちが流れるこの場所は怪談などという言葉が全く似合わない。

「一年前、ここが出来たばかりの頃売出し中のバンドがいまして。ファンとデキて、振られて、首括っちゃって」
「何処で」
「ここで。天井に鉄の棒あるでしょ、バトンって言うんだけど。ストラップ引っ掛けて死にました。それ以来命日にこの天井から血が垂れてきます。丁度今日かな。ああ、あんた今……」
 彼女の血が、
「『何処で』首括ったんだって聞いたね」
 たたた・と滴ってくる。
「やっぱ知ってたんだ、あれが死んだ事は」

 わたしが口を開こうとした刹那、照明が突然落ちる。真っ暗闇。したたる音だけが、たたた・たたた。
なんだこれは。あいつはどこにいった。落ち着け。落ち着くんだ。深い呼吸をひとつ。暗闇にも目が慣れてくる。弱々しく光る避難口への誘導灯が見えた。
 その誘導灯に被さるように……待って、あれはいったい。
 天井から、太く長い縄がぶら下がっている。その先には丸い輪。まるで首吊り縄のような。たたた・たたた・という音は。

 ゆったりと。たたた。わたしの首の前に。たたた。誘うように。たたた。下がってきて。たたたたたた。彼女の口が。たたたたた。最期の日のようにたたたたたたたたたた。
「いまさらあなたたがわたたたたしをひちょうにないことまですごくわかりましたたた」
 た、
「こんな怪談話があるんですよ。天井に鉄の棒あるでしょ。あれからずっと、まだ上に二人ぶら下がってるみたいです。一年に一回だけ、血が落ちてきますからね」
 たん。

感想戦(できあがりをたのしむ)

暗転伝達ミス

みやり おっ おお。

立夏 意外と? つながった?

みやり はい、同じです。意外と? ってのがまさに頭にすぐ浮かんだ言葉。

立夏 ちなみにつなげる前に言ってた「やらかし」はなに?

みやり (みっつめで) 暗闇にしてたのを伝え忘れた。

照明が突然落ちる。真っ暗闇。

みやり ここです。暗転を役者に伝え忘れる。かなりやらかしたと思いました。

立夏 大丈夫だったね。(みっつめで)暗闇なのに(よっつめで)見えるというところがそれはそれでホラーっぽくていいかもしれない。

梯子しているとき考えたこと

な怪談話があるんですよ」と告げてきた。四つ打ちが流れるこの場所は怪談などという言葉が全く似合わない。

ひとつめ:みやり作

立夏 ひとつめのラスト50文字で明確に「怪談を書いて」と言うリクエストがみやりさんからあった。起承転結の「起」の部分だ。私はそれを受け取って、自分のふたつめの200文字では起承転結の「承」、つまり怪談の具体的な内容を書こうと思った。あと私は(ひとつめを読んで四つ打ちと書いてあったので)舞台はチャラ箱的なライブハウスだと思ってたけど、違ったね。パーティー会場みたいなとこだった?

みやり いえ、ライブハウスとかのイメージですね。でも何だろう、怖くて詳細書けなかったですね。下手にバンド出したら後ろでずっと演奏したことになるし。とりあえずこう、屋内だよっての、クラブとかライブハウスの喧騒と、怪談。うるさいところから静かなところへのホラーへ……、みたいなところかなぁ。

立夏 私暗いシーンや怖いシーンで、それに似つかわしくない音を舞台で掛けるの好きなんだけど、アンヴィエントずっと掛かってたら好きだなぁ。

『何処で』首括ったんだって聞いたね」
 たたた・と滴ってくる。
「やっぱ知ってたんだ、あれが死んだ事は」

ふたつめ:立夏作

立夏 そして、みっつめのみやりさんは「転」の担当になるから、「それは『お前だー!』にして」というリクエストを私からはしたつもりです。

みやり これは見事に渡ってましたね。わたしにホラーの才能が無いのでアレでしたが……。あー主人公役は怖い目にあうんだなと。

太く長い縄がぶら下がっている。その先には丸い輪。まるで首吊り縄のような。たたた・たたた・という音は。

みっつめ:みやり作

立夏 みやりさんのみっつめを読んで、ああちゃんと渡ったなあと思った。そのあとよっつめ何を書いてオチにすればいいかもすごく分かりやすいみっつめが来た。前回のテストプレイの改善点であがった「次の人の頭まで書いてあげるような気持ちで」を見事に実践してくれたんだと思ったよ。

みやり たたたの滴りが個人的にはよかったですね。「もっと滴らせていいんだよな!?おいおいおい!?信じてるぞ」と言いながらわたしもたたたと垂らしました。

立夏 たたたたは四つ打ちでもあり血でもあり。あっ、川柳読んじゃった。

からずっと、まだ上に二人ぶら下がってるみたいですよ。一年に一回だけ、血が落ちてきますからね」
 たん。

よっつめ:立夏作

みやり オチは割と、エッジが効いてる方がいいんだろうな。明確にオチっぽい方が。

立夏 今回はちゃんとふたりともカードを切れたのでとてもよかったです!

カルガモの「欠損」

みやり そもそもなんですが、カルガモってどういう狙いというかコンセプトになるのだろう。ハヤブサは割と、青空文庫を軸にいろんな角度から、物語を見る?つくる?みたいな。でも、カルガモは何なんでしょうね。なんかある気はするんですけど

立夏 カルガモの軸は「欠損」ではないかな。ハヤブサは、省略や余白はたくさんあるけど、それは決して「欠損」ではない。ハヤブサで落ちた情報は少なくとも筆者が意図的に落としたもの、あるいは意図せず落としてしまったもので、いずれにしても小説も短歌も、次の人は完成した形で渡される。カルガモはそうではなくて、完成品が欠損した状態で渡っていく。

みやり なるほど。ルール作っていくような感じもした。書き手同士の考えている物語の形に摺り寄せていく感覚がありました。今回はホラーというジャンルの共通項が早めに渡ったので、個人的にはここが前回との違いですね。ただ(ホラーというジャンルですよと、伝えたことが)ちよっとズルい技な気もしたんですが、型を宣言させていただいた感じ。

立夏 ズルいこたぁないんじゃない? 型宣言を元に、欠損にどんな展開があるか予想するというか、カルガモは「ジャンルを推理する力」を問われているのだと思う。

みやり そうですかね。難しいなぁ。でも怪談ってワードはそうですね、強くない程度に方向性を出してくれるかなと。

立夏 どれだけ本を読んでいるか、セオリー的なものをどれだけ分かっているかが、キモだと思った。この単語が出てきたら推理ものだな、とか。この文体なら意外な展開が来そうだな、とか。ここがサビっぽいな、とか。

みやり あーそうね、そうよね、読書力だわ。欠損に当てはまる言葉を選びなさいですよ。

いつどこで誰がなにしてる?

みやり あとあれだ、物語を動かしすぎるとやっぱ危ないですね当たり前のことですが。たとえば……、

(外に出て、筋トレをする)そして僕は思う。

みやり みたいな構成にすると、後ろ50文字からは筋トレをしたことが伝わらないので。だから物語的に確実に伝えたい煮汁を後半に寄せていく。

立夏 動かしたい方向を50文字で書いて、次の人に委ねる。の繰り返しだね。

みやり 交代で闇鍋してる。前の人が入れた調味料だけわかるという……。醤油入れてるなら砂糖は平気だろうと。

立夏 あと、テストプレイ前回も今回も思ったんだけど、登場人物の人数と性別が分からないの結構地味にドキドキしない?

みやり します。何人いるのか常にわからない恐怖。

立夏 5W1Hも分からない。これは多分ラスト50文字ではどうしようもないんだと思う。自分のターンの間にどこかから誰か追加で新しい人登場させて、自分のターンの間に去らせたら完全犯罪ができるよ。

まあやっぱり祈り

みやり 後ろ50文字だと、どうしても設定的なのは伝わらないですよね意識しないと。二個目のテストプレイのわたしが書いた暗闇もそうだけど、結果的には不要な修飾なのかな。何だろうな、なんか得体が知れなくてこの遊び怖いですね笑。この、わからないところを想像しすぎない、ただし想像しないわけではない、という匙加減が難しい。

立夏 そこはある種信じることがたいせつなのかもしれない。

みやり そうですね。まさに。交代創作は祈りが大事。

立夏 欠損箇所に相手は重要なことは書かないだろうと信じる。信じる。祈り。神はそこにいる。

~私たちは神を探す~

ありがとうございました

 感想戦の中で名前の出てきた「ハヤブサ」は私たちでよく遊んでいるカルガモのような文学遊びです。

 小説を短歌に翻訳して、その短歌から小説を逆翻訳する。文字が変身していく様子をお楽しみいただけます。ぜひ。

 今回のカルガモも、また遊んでいきたいなと思っています。最後まで読んでくださりありがとうございました!

短歌と掌編小説と俳句を書く