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華々しく始めた「チャレンジ」の顛末(後編)

2018年2月から実作業を始めた「Tilers houseプロジェクト」は、

ひととの関わりの中で、自分らしい“くらし”を試しつづける、そんなシェアハウスをリノベーションで実現するプロジェクトです

と宣言してスタートした。

当時、紫波町の地域おこし協力隊として勤めていた私にとって一世一代のチャレンジ」だったわけだが、結果的に、かなり痛みを伴う経験となってしまった。

その顛末を、前編・後編に分けて記している。

当時のブログでも公開していた「プロジェクト始めます!」のところをまとめた前編に続く後編では、これまでほとんど公開できていなかった「その後どうなった?」「結果、どうだった?」といったところを、勇気を持って綴っていきたいと思う。


「開く」ということを試し始めた春

2018年4月にTilers houseとして最初のイベント(お花見)を開催したのち、コミュニティ担当として動いていた私は何度かイベントを開催することになる。

英語で持ち寄りパーティーを意味するpotluckに因んで「ぽとらく」と名付け、すきなことを持ち寄る会というテーマで開催した不定期開催イベントだった。

マーカーを用意して大きなガラス窓にお絵描きしたり、七夕に合わせて笹を持ってきてくれる人がいたり、スパイスカレーを作って持参してくれる人がいたり。

毎回顔を出してくれる人もいれば、初めて参加しますという方も増えていき、コミュニティとしての繋がりがより深く、そして広くなっていることを実感できたのが嬉しかった。

カレー美味しかったなあ~


共感の裏に隠れてしまった危うさ

一方で、イベント開催と同時進行で、リノベーション&物件担当の仲間が水回りの工事など本格的なリノベーションに向けて準備を進めてくれていた。

それが、私が想定していた以上に難航していたのだと後になって分かった。

今なら言える。
私たちは、もっとコミュニケーションを取るべきだった。

──それいいね!
──わたしもそう思う!
という共感私たちを仲間にしたのだが、その共感の中身を、もっと深掘りしなければいけなかったのだ。


例えば「カレーが好き」なAさんとBさんがいたとする。

──Aさんは、ジャガイモとニンジンがゴロゴロ入ったようなドロッとした日本のカレーが好き。
──Bさんは、複雑なスパイスのハーモニーを感じられるようなサラッとした本場のカレーが好き。

この場合、いくら同じカレー好きでも、この2人がカレーを食べに行く店は全く異なるだろう。

それに気づかないまま、
「カレー好きなら、一緒にお店開かない?
見切り発車してしまったのだった。

だから私たちは、いくつものを前にして、一緒に乗り越えることができなかった


そして、仲間を失った

そんなコミュニケーション不足の一端は、私自身にある。
一世一代のチャレンジをするにはあまりにも、他のタスクを抱えすぎていた

たぶん、当時の私には、ほとんど無意識的に、焦りがあったのだと思う。

町として初めての地域おこし協力隊だった私に、たくさんの人が注目してくれていたし、「なにをしてくれるの?」という目を向けられていると感じていた。

特別な技能があるわけでもない、社会人としての経験すらも少ない私にとって、がむしゃらに動いていることを見せる以外に、私の存在意義を地域に伝える術を知らなかったのだ。

そんな期待に応えたいという気持ちが、もともと好奇心旺盛だった私の感度を極度に高め、ちょっと興味があるくらいのことを
「それ、私が心からやりたかったことだ!!!!」
と感じるようになってしまっていた。


結果、仲間を気遣う余裕もなかった私は、壁にぶつかっているという異変に気付いた時にはもう、時すでに遅しという感じだった。

ついに彼女と連絡が取れなくなり、プロジェクトが開店休業のような状態になって、気づけば1年が経過していた。

そして私は泣く泣く、プロジェクトの中止を決意したのだった。

けれど、挑戦を許してくれた大家さんや、応援して協力してきてくれた皆さんに対して、なんて説明していいのか……。
どうけじめを付けたらいいのか、本当に悩んだ

正直、この時が一番辛かった


意外な救世主が現れる

状況が状況だけに悩みを打ち明けられないでいた私は、ある日、酔いにまかせて全く状況を知らない飲み仲間に愚痴をこぼした。

一番の懸念事項は、これまでの片付けや掃除、小屋解体で一般ごみには捨てられないような大きなごみがたくさん出たこと。
それがそのままになっていたので、プロジェクトを中止する以上は、ごみ処理だけでもやり切って大家さんに返したい、という想いがあった。

すると、その飲み仲間が偶然にも解体業者のような仕事をしており、産業廃棄物のリサイクル業者を紹介してくれることになったのだ。

おかげで話はトントン拍子に進み、予想していたよりもずっと安い金額でごみ処理をしていただける手筈が整った

紫波町に来てから、私には、行きつけの飲み屋さんで偶然出会った肩書きも年齢も関係ない飲みニケーションで仲良くなった人がたくさんいたが、この時ほどお酒に感謝したことは後にも先にもない。

土壇場で救ってくれた飲みニケーション

そうして整った幕引きのシナリオを、やっとの思いで大家さんに打ち明けた

形にできなかったことをお詫びすると、
「気にしないで。うまくいかなかったらやめていいからって言ったでしょ
想定外の言葉が返ってきた。

確かに、プロジェクト開始時に
何かのきっかけになるなら、まず使ってみて
と言ってくれた大家さんだった。

ちなみに、この「まず」は岩手弁で「とりあえず」とか「とにかく」とかいう意味である(と私は解釈している)。

壮大なトライアルを気前よくやらせてくださった大家さんの懐の深さには、感謝してもしきれない。


仲間が転職して違う地域に行く、という話を全く別の人づてに聞いたのは、ちょうどそんなタイミングの出来事だった。

何とか彼女と会う約束を取り付けて、プロジェクトの中止とごみ処理について共有し、承諾してもらうことができた。
遺恨を残したままの別れにならなくて本当に良かったと思っている。

後日、予定していたごみ処理も無事完了して、Tilers houseプロジェクトは「失敗」という形で幕を下ろしたのだった。


ただの失敗なんてない

プロジェクトは情けないほどに見事な「失敗」だったが、一方で、これによって得たものがたくさんあったということもまた、紛れもない事実である。

私は、大学生が長期休みの期間を利用して地域の企業などに入る「実践型インターンシップ」の受け入れ先として、手を挙げさせてもらう機会に恵まれた。
それは、Tilers houseプロジェクトの期間限定メンバーのような形でインターン生を募集してみたらどうか、と言っていただいたからである。

結果、3度に渡ってインターン生を受け入れ、4人の優秀な学生と巡り合った。

プロジェクトを通じて出会ったたくさんの人とのご縁の中でも、この学生たちとの出会いは私にとってかけがえのないものだったと思っている。


特に、最初のインターン生として来てくれた南條亜依ちゃんは、解体作業を始めた当初から2か月間、心強いメンバーとしてがっつり関わってくれた一人だ。

当時東京の大学生だった彼女は、リノベーションに興味があるということでインターンシップに応募してきてくれた。
初めて訪れた紫波町の地で、2か月間、頼りない私と一緒にさまざまなチャレンジをしてくれたことに心から感謝している。

特技を活かしてお試しカフェも開催した彼女

そして、驚くべきことに今、彼女は紫波町へ移住し、地域おこし協力隊として「日詰リノベーションまちづくり」を担っている。

みずから会社も立ち上げ、日詰商店街の空き家リノベーションして「YOKOSAWA CAMPUS」という拠点をつくったのだ。

すでにワカモノが集まる場所として機能し始めており、来たる春にはいよいよカフェとしてのオープンも控えているそう。

仲間を集めて拠点づくりを進めながらどんどん逞しくなっていく彼女の姿を見ていると、(おこがましいけれど)親心のような嬉しさがこみ上げてくる。

カフェオープンに向けてリニューアル中です!とのこと。


私なりの「場づくり」の答え

また、プロジェクトに期待してくれた皆さんへ向けて、けじめとして書いたFacebookの投稿に、私は以下のように書き添えていた。

大家さんはもちろん、これまで支えてくださった方、お手伝いくださった方、信じて応援してくださったたくさんの皆さんには、本当に申し訳ないという他ないです。
が、私の「居場所づくり」への想いは微塵も揺るいでいません。
いつか、絶対に、実現させます。
そう思って、今も一歩ずつ歩いているつもりです。
関わってくださったみなさま、本当に、ありがとうございました。
あそびCOMや、今後の活動で、この恩もしっかりと返せるように、頑張りますので、どうか懲りずに、また宜しくお願いします。

2019年12月8日

当時、Tilers houseプロジェクトと並行して進めていた「あそびCOM」では、こども向け・親子向けのイベントを企画して開催していた私。

地域おこし協力隊の業務というよりは、余暇時間のライフワークとして取り組んでいた活動だったが、結果的には現在、その活動を継続する形で「あそびこむ」と表記を変え、2021年4月より個人事業主として開業するという道を選んでいる。

──こどもたちが集い、地域の面白い大人たちと出会うことの出来る居場所をつくりたい
という私の想いからスタートしたTilers houseプロジェクトと同じ想いで、こどもの居場所づくりを目的としたイベント開催に取り組んでいるところだ。

ちなみに「あそびこむ」は、2回目のインターン生として来てくれた吉田彩花ちゃんと一緒に企画した日詰商店街でのイベントが大きなきっかけとなった。

現在も、彩花ちゃんは言わばあそびこむ公式デザイナーとして、パンフレットやグッズの制作に力を貸してくれている。


そんな「あそびこむ」で、2021年10月から3か月間、日詰商店街のメインストリートに固定の場(拠点)を持つことができた。

お試し開催という位置づけではあったが、「まちのあそび場」と題して誰でも来られる居場所としてのあそび場を、定期開催することができたのは本当に嬉しかった。

開催にこぎつけた「まちのあそび場」

手芸用品などを扱っていた空き店舗をお借りしたのだが、とても状態が良いきれいな建物で、修理などは全く必要なかった
商店会にご協力いただいて什器の撤去などを手伝ってもらった他は、ほとんど手をかけることなく、自前の家具やおもちゃを搬入して場をつくることができた。

もともと日詰商店街の朝市に合わせて「ひづめプレイデイ」と題した屋外のあそび場を毎月開催していたことが今回のきっかけとなったのだが、やはりTilers houseプロジェクトでの学びがあったからこそ、信念を持って活動できているのだと思う。

とりあえず始めてみることが大事だという一方で、自分の軸を持つことや、それをちゃんと言語化して、一緒に動いてくれる仲間にきちんと理解してもらうということの重要性は、絶対に忘れないようにしたい。


だからやっぱり、Tilers houseプロジェクトは始めて良かったのだ。
失敗して、迷惑を掛けたことは事実だし、反省もしているけれど、これを糧として次に進んでいくことが、私にできる唯一の贖罪なのだと思っている。


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