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12本の毒矢

ジェフリー・アーチャー著

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疲弊。
ジワジワと寄せては返し、まあまあ辛い。
少し、心身を止めてみようと、短編集を
本棚から漁る。久しぶりの一冊。

目次をサラッと流し見。
瞬時に、お気に入りの話2つが甦ってきた。
この記憶力、他に有効活用したいものだ…。

一番最後に収録されている話は、今読むと打ちのめされるので、パス。
もう一つのお気に入り、一番最初の話を読む。

"中国の彫像"
オークションにかけられた、とある彫像。
何故、出品されたのか、その謎を追いかける形でストーリーが展開する。

最後の赴任先となる中国に渡った骨董好きの公使が、記念に何か掘り出し物を…と、あちこち訪ね歩いて辿り着いた、ある古びた家。

年老いた職人の家だった。そこで代々伝わり、大切にされている素晴らしい彫像を目にする。

「これが私のものならどんなに嬉しいことか。」

生真面目で謙虚な公使が、おそらく生涯で初めて口を滑らせたひとことだった。
賓客に何か乞われた時、惜しげなく与えるべしという中国の伝統を知りながらの。

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受け取ってもらわなければ、我が家の恥になるという職人に、私の方は既に家名を辱めた、と答えてその彫像を受け取り、公使は帰国した。

それから、長い年月を経て、公使亡き後も大切に引き継がれていく彫像。だが、孫のまた子の手に遺された時、それが途切れようとしていた。
生活に困窮し曽々祖父の宝を競売に出したのだ。

借金で首が回らなくなっていたため、価値を調べようと鑑定を依頼した。ところが、彫像は二足三文、さほど価値はなかった。
拳銃と弾丸を買うには十分か…と。

彫像には、一緒に引き継がれてきたち台座があった。かつて、公使が譲り受けた際に、台座が無いと飾れないからと、職人が一緒に渡してくれたもの。ちぐはぐで公使はあまり気に入らなかったが、ピッタリサイズが合っていたので受け取ったものだった。

借金返済の期待が消え。終わりか…と、帰ろうとした彼を鑑定士が呼び止めた。
「これはどうしますか?この台座は名品で、かなりの値がつきますよ。」と。

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最後にチクリとした落ちで終わる。

公使は、彫像の礼にと、再び職人を訪れ、立派なアトリエを配したこじんまりと、素敵な家を建てて職人に与えていた。


彫像自体には、価値がなかったが、公使にとっては、心奪われたこの上ない価値があった。
断腸の思いで譲った職人の心とそれに報いた公使の心が、時を経ても奇跡を起こしたのかなぁと。

物質的に豊かな今、本当に大切に引き継いでいかなければならないものを垣間見た気がした。

人と人が、心で、魂で交わる事の尊さ。

奇跡でもなんでもない、普通に私達が与えて頂いた素晴らしい能力だと感じる。

忘れないように、離さないように、
大切にしたいと強く感じさせられた。

時を経て私の心に還ってきた一冊。

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