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セミ。

先日なんとなく本屋さんを覗いていたときふと目にとまって、連れて帰った絵本がある。

セミ。

セミの写真があればよかったのだけれど。
ヘッダーは、近所の雑草の写真です。


セミが人間と一緒に会社で働いている。誰からも認めらず昇進もせず、それでも17年間コツコツと……。 静かで過激な問題作。


作品紹介の一節(原文ママ)。
表紙を見ると、セミがスーツを着て立っている。
草のような緑色の頭に大きなふたつの黒い眼。表情、と言えるのかわからないけれど、その顔はどこか悲哀を感じさせる空気をまとっているように見えた。
スーツも壁も床も、床に散らばっている書類もグレーだからよけいにそう感じたのかもしれない。

絵本だし、30ページちょっとだからパラパラとめくってみれば話のオチはわかる。
実際その場でだいたい読んでしまったのだけれど、ぼくはどうしても、この絵本を連れて帰らなければならないような気がした。
読むための時間をちゃんととって、ゆっくりと向き合う必要があると思ったからだ。


(※すこしネタバレ要素があるので、先を知りたくない方はここで止めてください。ぜひ味わって読んでいただきたいです。
いつも見にきてくださり、ありがとうございます。)



セミは会社で働いている。真面目にコツコツと。
誰にも認められない。尊重もされない。なぜなら彼は、セミだから。
ときに差別的な扱いさえ受けてきた、17年間。
そんな長い長い時間を、しかしながら彼はしっかりとさいごまで勤めあげた。
そんな彼が、会社を去ったとき。
さいごに見せたその感情の、意味するところは。



人はだれもがいろんな組織に属していて、その中での役割や立場があると思う。
どこかの組織ではリーダー格でも、別の組織では新米だったりする。
経験、年齢、性別。親子。それがいいか悪いかは別にして、何らかの力関係や序列がそこには存在する。
人種、宗教など、人のアイデンティティにかかわることさえ影響がある場合があることだろう。
その中で自分が優位に立てる対象を見つけたとき、その対象を虐げることで自分の優位性を保とうとする人がいる。
自分の安全を、精神的安定を、担保するため。

会社はきっと、第二のセミを探す。
それは、セミを虐げていたうちのひとりかもしれない。



醜い組織を抜け出し、セミは空高く飛びたった。
森へ帰ったセミは、ときどき彼らのことを考える。
そして。



<おわりに>
引用した作品紹介の一節に、「静かで過激な問題作」とありますが、セミがさいごに見せた感情こそが、まさにそれを指すのだと思います。
それが何を意味するのか、人によっては解釈が分かれるかもしれません。
非常に短いストーリーながら、さいごに胸にずしんと重くのしかかる何かが残りました。
これほど静かな問題提起を、ぼくは知りません。

レビューというものを書いたことがほぼないので探り探りでしたが、途中でこれを読むのを止められた方にも、ここまで読んでいただいた方にも、手に取ってみようかな、とすこしでも思っていただけたら幸いです。

本日もさいごまでお付き合いいただきありがとうございました。
これからも機会があれば、読んだ本のご紹介にもチャレンジしたいと思っています。

それでは、また。





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