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新しいベンチャー投資ファンドのカタチ:レベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)とは?最短24時間で資金調達を決定!

今回はここ数年米国で台頭している新しいベンチャー投資ファンドの形式レベニュー・ベース・ファイナンス(Revenue Based Financing: RBF)について紹介します。

まずはInvestopediaから引用したRevenue Based Financingの定義を日本語化しました。

RBFはロイヤリティ・ベース・ファイナンスとしても知られ、投資家が供給する資金と引き換えに、企業が運営する事業の売上の一定の割合を受け取る資金調達手法です。

一言で表すと上記の表現は正しいと思います。しかしそれ以上に多くの特徴がありますのでいくつか紹介します。

1.RBFの近年の盛り上がり

RBFは1990年代に初めテック業界で使われ始めたと言われており、2012年頃まではテックスタートアップに受け入れられていませんでした。下記は米国のRBFのDealの数を表していますが、2014年に100件以下だった件数はその後Jカーブを描き2018年には500件弱に達しています。

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出典: Lighter Capital

RBFと類似した契約形態としてレベニューシェア・アグリーメントやロイヤリティアグリーメントがありますが、これらは100年前頃にオイル業界で使われ始めたと言われています。今では製薬、音楽、映画業界でも、RBFやその類似契約が使われており、大半の映画がレベニューシェアの形式で作成されているそうです。


2. VCからの資金調達との違い: エクイティ出資を伴わないので既存株主の持分を希釈化せずに資金調達が可能(投資家の求めるリターンが格段に小さい)

VCからの資金調達形式と大きく異なる部分の一つですが、投資家は出資と引換に株式を求めません。その代わりにRBFでは投資した資金と引き換えに毎月売上の数パーセントを投資家に分配する必要があります。投資家は投資した分よりも多く結果的に売上の分配の合計額を集めることによって利益を出します。例えば500万円の投資額を受けた企業は、投資額の大体8%程度を上乗せした総額の支払いが完了するまで毎月売上の約10%程度をロイヤリティとして受け取ります。例えば、毎月の売上が400万円程度で、500万円の投資を受けるとすると、合計額が540万円に達するまで毎月40万円ずつのロイヤリティを支払う必要があるということです。

RBFはVCからの資金調達を代替する資金調達の方法の一つと言われていますが、VCからの出資と異なり既に株主となっている創業者の持分を希釈化することなく資金を調達することが可能です。通常米国のVCは各ラウンドで20%〜30%程度の持分を取得します。VCは将来的に会社の株式価値が上昇したところで株式を売却して利益を得る為、株式を取得する際により低いバリュエーションで多くの株式を取得することで、将来売却時の利益を最大化することが出来ますので、不当な持分を要求することはない(もし要求してくるVCがいたらまともな投資家ではないので投資を受けない方が良いです)ですが、ある程度は多くの持分を取得しようとします。

また、その将来的に高くなった株式価値を創業者が受取るはずだったコストと考えると、VCはその投資金額の大体10倍程度のリターンを5年後に求める為、500万円の投資だと5,000万円のリターンを5年後に求めることとなります。RBFが8%程度(金額にすると540万円)のリターンを求めることを考えると、投資家が保有し続けることが出来た株式の価値(VCに渡した分)を考えると、RBFにかかる資金調達のコストは格段に低いということになります。

3. 銀行からの借入との違い: 営業利益が赤字でも資金調達可能/抵当の考え方の違い

通常のデット・ファイナンス(借金)はPL上の営業利益の後の利益から借りた資金を返却していきますが、RBFはその名の通り売上からロイヤリティとして資金調達した資金を返済していきます。よって、RBFを使ったファンドが資金の提供が可能かどうかを見ているポイントは営業利益ではなく、粗利や売上高の方です。もちろん利益が潤沢に出ている方がビジネスとしてはベターですが、その場合はRBFを必要としない場合があります。このように銀行の貸付とは違い、利益が出ていないシード期、アーリーステージのベンチャー企業でも資金調達が可能です。むしろここ数年で台頭してきているRBFはエンジェル投資後〜シリーズA前までのブリッジとしての資金調達をターゲットとしているファンドが大半です。(なぜブリッジとしての資金調達をターゲットとしているかは後ほど。)

また、銀行の貸付の場合、大企業への貸付であれば別ですが、必ず保証人や抵当が必要になってくるかと思います。また銀行は個人の資産も抵当に入れることを求めることもあるので、もし起業家が借りた資金を返済出来なかった場合は、起業家の個人資産まで返済の担保としておさえられてしまうこともあります。一方で、RBFでは会社の流動資産(売掛債権や在庫)を抵当に求めるケースはありますが、個人資産を抵当として求めることはありません。抵当よりも、いかに安定的に売上を上げているかに焦点を当てて資金提供の検討をします。

4. 投資家がファンドにコンタクトしてから出資までの期間が短い(最短24時間!)

VCの資金調達では投資家がVCや銀行にコンタクトをしてまで資金提供をするかどうかの決定をするまでの期間は最短でも数ヶ月かかり、場合によっては半年から1年程度かかる場合もあるかと思います。一方でRBFは投資家がファンドにコンタクトをしてからの意思決定が早いです。Slack、Box、SurveyMonkeyへの投資で有名なシリコンバレーの投資家Chamath Palihapitiyaが投資するRBFである、Clearbanc24時間で$1,000〜$10mmの資金提供を決定することを打ち出しています。

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短期間での意思決定を可能にするビジネスモデルの秘訣は投資を対象とするビジネスの種類にあります。

5. SaaS / イーコマースなどのオンラインビジネスとの相性が良い

RBFが投資の意思決定に必要としているのは「如何に安定的に売上を上げているかを示す情報」です。その為、SaaSビジネスや月額費用を徴収するサブスクリプションビジネスと相性が良いです。ユーザーが一度サブスクを開始すると、解約するまで自動的に毎月使用料が入ってくる為、事業者は新規のサブスクリプション購読者を増やすこと、サブスクリプションの解約を防ぐことで、売上を安定的に上昇させることができます。その為、RBFはサブスクリプションモデルに好んで資金提供をします。

また、イーコマース等のオンラインビジネスにも好んで投資をします。これはイーコマースやSaaSなどのオンラインビジネスは、ネット上で事業を展開する為、マーケティングやトラクションに関する情報が全てデータで取得することができる為です。RBFは投資の意思決定を、どのようなビジネスモデルなのか、なぜ投資家がそのビジネスを始めたのか、どのような課題を解決しようとしているのか、創業チームの構成等の「定性的な情報」に加えて、どの程度売上を上げているか(MRR)、一人あたりの顧客を獲得する為に使うコスト、オンライン上でどのようなマーケティングを行っているか、マーケティングのキャンペーンの結果をもとに、売上を含めたトラクションを定量的にデータで分析することによって、いかに将来的に安定的に売上を上げることができるかを見極めます。SaaSを含むイーコマース等のオンラインビジネスはこのトラクションデータが既にFacebookやGoogleアナリティクスの中に蓄積されている為、そのデータをRBFに提供することによってスピーディな意思決定を可能にします。

6.エンジェル投資、シード投資完了後〜シリーズA手前でさらにトラクションを伸ばしたいオンラインビジネスを営むスタートアップがベストフィット

RBFは上記のようなシードやエンジェル投資が完了し、プロダクトが既に売上を上げている状況ではあるが、希望の調達額をシリーズAで調達するにはまだ十分なトラクションを稼げていないビジネスへの投資を最も得意としています。例えばシリーズAの投資を見据えてVCとの会話を開始するも、ビジネスはマッチするものの「売上が●●に達したらもう一度コンタクトして欲しい」「このビジネスがしっかりとトラクションを生み出すのかもう少し様子を見たい」などと保留になるケースがあるかと思います。その状況で他のVCとの会話を進めても、他のVCが躊躇している中他のVCからの資金調達を得られたとしても、起業家にとって良くない条件での資金調達となってしまう可能性があります。

その状況を打破する為にRBFでまとまったマーケティング費用をまず調達し、オンライン上での集客に資金を投入し、6ヶ月程度のブースト期間を得て十分なトラクションを確保した後、再度VCにコンタクトすることによって、より高い評価を受けることができるようにする戦略が最も理想的なRBFの使い方の一つとして認知されています。

このようにマーケティング費用の強化でトラクションが伸びるという特徴を持っているビジネスモデルはSaaS、イーコマース、D2Cアパレルを含む、その他オンラインビジネスであり、それらのビジネスで且つ売上を上げているスタートアップへの投資を最も得意とします。

7.投資して終わりではない

RBFでは資金を提供するだけでなく、プラスの価値を提供します。具体的にはRBFは他のVCともネットワークを構築している為、ポートフォリオ企業とVCを繋げることができますし、オンライン領域に特化して資金提供をしている為、ポートフォリオ企業を通じてこの領域のナレッジを持っています、それらのナレッジを共有するだけでなく、ポートフォリオ企業同士を繋げてネットワークを構築すること、業界で経験を積んだ人材へのアクセスの窓口となったりポートフォリオ企業のビジネスにプラスに働く付加価値を提供することはVCと同様です。

日本のRBFの可能性: ポストコロナのRBF

日本におけるRFBは聞いたことがありませんが、今の経済状況にもフィットすると考えています。一つは今後ポストコロナにおけるイーコマースのビジネスはより重要になっていくからです。今後も多くの事業者が生鮮食品、パッケージ食品を始めとする物販を強化する時代が既に始まっています。アーリーステージのVCが大資本を投入するまでのブリッジの資金調達としてRBFのようなレンディング機能を持った資金提供者の存在はフィットすると考えてます。

日本のRBFの可能性: インフルエンサーとD2CアパレルとRBF

また、ユーチューブ、インスタグラム、ツイッター、イチナナ、トゥイッチをホームのインフラとして活躍するインフルエンサーが自分のアパレルを立上げて物販をする流れが最近多く見られます。インフルエンサーのヒカルが上場企業のロコンドと靴を売り出し、売上を伸ばすことでロコンドの株価にも影響を与えるたこともありましたが、他にも事例が出てくると思います。インフルエンサーが台頭することによって発生するD2CアパレルのブームもRBFのビジネスモデルとのフィットを考えると追い風になるビジネスモデルです。

次回の更新では代表的な米国のRBFを紹介したいと思います。

【2021年10月追記】お問い合わせ

RBFとは異なりますが将来債権売買のプラットフォームであるPipeの台頭や日本におけるフィンテックの盛り上がりを受けて、米国におけるレベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)についての問い合わせをよく受けるようになってきました。2019年から米国企業のRBFのオペレーションを担当していて、日米の業界をフォローしていたので、新規事業としてRBFのお考えの際には、何かしらご相談に乗ることが可能かと思います。よければツイッターにDMいただければと思います。


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