小説:「金・金・愛」#2


第4話:オタクと退職


入社して5年が経っていた。


 ある休みの日の午後、暑くもない、寒くもない、何でもない曇りの日だった。珍しく遅く起きた俺は昼飯を買いに近くのコンビニに行った時。コンビニから家までの最後の坂道を上りながらふと考えた。


何の為に働いているんだろうと。


 好きでもないことを永遠と。尊敬できない上司のご機嫌をとり、仕事が終わらなければサービス残業や家に持ち帰ることは当たり前。休みの日に一日中家で作業していることもある。


 実家では年金暮らしの祖父、定年退職をした父と専業主婦の母、フリーターの姉がいて、いつの間にか正社員として働いているのは自分だけになっていた。

 当時、彼女がいなかったのと趣味がなかったのである程度お金は貯まっていた。が、楽しい事もない日々を思った。

 一日休みでショッピングモールに行っても何も欲しい物が無くて、自分にガッカリする。なんて寂しい人間なんだろうと。

 楽しそうにアイドルのグッズを選んでいる男子高校生達の眼は輝いていた。
彼らは童貞に見えた。部活もしている感じはなく、俺の方がお金も持っているし、もちろん童貞でもないし、お金を積めばセックスぐらいできることを自分は知っている。親にお小遣いをもらってその中でやりくりする、彼らと俺は違う。それでも輝いて見えた。

 たった1回好きなものを手放してしまった自分にはすごく羨ましかった。

きっと、クラスで避けられたり、兄弟とかに気持ち悪がられたり、家族に隠れながらアイドルのDVDを見たりしているかもしれない。
隠れながらでも好きなものを手放さなかった。彼ら。
もしかしたら、その活力で学校に行けているかもしれないし。
そんなことを思ったことがあった。



仕事を辞めることを決めた。


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