THE BATMAN.ネタバレ感想。-自分ヒーローじゃないんで。-
コミュ障vs根暗、勝手に戦え!
これは「エイリアンvsアバター」って映画のキャッチコピーをパクった見出し。
バットマンが根暗なのは昔からだけど、今回は表面的な社交性すらない。
アルフレッドとさえ、まともに話せてない。
これまでで、最も不完全で欠落したバットマンだ。
ブルース・ウェインとしては、ベラ・リアルに「あなたは何もしていない」と言われた通り、家に引篭り夜を待つだけの空疎な男。
リドラーは、SNSに暴露動画を投稿する根暗。
現実の、ネットで他人を非難してる人たちに似てる。
二人ともマスクをしてる時だけ本当の自分でいられる。他人とコミュニケーションが取れない奴らだ。
コミュニケーションに問題があると言えば、ゴッサムシティ全体が他人とコミュニケーションをとれなくなっている。善人も悪人も含めて。
なんだか僕たちの世界に共通するものを感じません?
リドラーやバットマンにも共通するところを感じません?
今回は、この映画のディスコミュニケーションと復讐について考えてみた。
過去最高湿度のバットマン
バットマンっていうかゴッサムシティの湿度が高い。街は雨だけでなく、腐敗と怒りで湿ってる。住んでる人々もそうだ。
のっけから、政治家の選挙工作が匂わせる公職の腐敗臭。温厚そうな顔の裏は汚い。そんな市長を執拗に殴打するリドラーの殺人で映画は始まる。
次は、過去最恐なバットマンの登場シーン。闇から現れ、恐怖を操る。
「殺してるんじゃないか?」と思うくらい強盗をぶん殴る。
怒りの連打。正義なんてどうでもいい。リドラーと似てるね。
バットマンの怒りが随所に現れる。この「怒り」が、映画の見どころになってたりする。
特にバットモービルの空ぶかしは、最高。
あの空ぶかしが「……潰してやる。ぶっ潰してやる!」と唸りを上げる。
昼のバイクとは違い、イカついマッスルカーで作ったバットモービルに乗り、ペンギンたちを煽る。「恐怖を武器にする」ってこんなとこまでやるんだね。恐怖与える事が怒りの表現であり復讐でもある。
話は反れるけど、放置されたペンギンが名の通りにヨチヨチ歩くのはこの映画の数少ないのギャグポイントだよね。僕が一番好きなのは、アイスバーグの来店時の「俺を知ってるか」シリーズ。
話を戻そう。
怒りはリドラーにもバットマンにもそしてキャットウーマンにも強く存在する。リドラーとキャットの怒りは、持たざる者の怒りと言ってもいい。でもこの三者の共通点は怒りだけじゃないんだ。
愛情っていう予防接種
この三人の共通点は孤児だった事。キャットはちょっと違うけど。
ブルースにはアルフレッドがいた。でもアルフレッドは「戦い方だけ教えてしまった、貴方は父親を必要としてたのに」と語る。親の愛情、大人の愛情を注げなかったって事だよね。二人の関係がギクシャクしてる原因はこれだ。彼らは愛し合っているのにうまくコミュニケーションが取れてない。
でもブルースは事件前までは両親に愛されていた。
一方、キャットやリドラーは?誰が彼らを愛してくれたんだろう?特にリドラーは。
愛情の欠乏が、彼らを復讐へと走らせる。でもそこで三人の行動に差がでる。
過去に愛されていたかどうかは、復讐の凶悪さに反比例する。
愛されなかったリドラーは躊躇なく殺す。しかも残酷に。
でもバットマンは殺さない。あれだけキレ散らかしてても、殺人は「最後の一線」と言う。
キャットはその中間、最初の半分だけメイクした若者と同じで最後の一線を越える直前だ。リドラーフォロワーは越えちゃった存在だよね。
ブルースとリドラーは表裏一体の関係で、ウェイン家の強盗殺人事件を機に不幸になり、社会を憎んでいく。
ブルースは悲劇の少年として、慈善の象徴とされる。
その陰でリドラーは、孤児院の待遇が悪化し、慈善は偽善だと知る。これが始まりの嘘と言っていい。
互いに成長し、日中は透明人間のように生き、夜は復讐に生きる。
リドラーはブルースがバットマンだと知り影響を受け、リドラーとして活動を始める。陰だからか、バットマンに取って代わりたくなる。バットマンも闇の存在なのに……。
愛されず育ったから、残酷になり、目立ちたいから、刺激的なる。
「バットマンから恐怖を武器にすることを学んだ」はバットマンの言う「意図しない影響」の一つだよね。
ブルース、引きこもりをやめる。
バットマンとしてリドラーやキャットと関わる事で、自分の陰にはもっと多くの不幸が存在した事を知る。彼は、キャットが言った通り「何にも知らない」くせに「選択には結果がともなう」と、選択肢がなかった場合を考慮せず、復讐を繰り返す。結果、市長の息子に自分と同じ不幸を起こしてしまう。「意図しない影響」のせいで。
父親に潔癖さを求めて拗ねたりもした。これは僕達にも言えることだけど「善人=聖人」ではないって事じゃないかな?
誰だって、ミスをする。つまり選択を誤ってしまう事ある。その結果全てを責めるのは苛烈すぎないだろうか?
盲目的に正義を良しとする世界は、他人への理解や愛情を忘れた世界で、これはディスコミュニケーションの仕業だと思う。
じゃあ、復讐が駄目なら、どうやって街に、人に、希望を与えるんだろう。
「俺が闇だ」とカッコつけるように、バットマンは闇の存在だ。
でも、闇に生きるからこそ、人を闇から救い出すことができる。
バットマン的「大いなる責任」
それは、ウェイン家の遺産。トーマス・ウェインは「慈善は義務ではなく、情熱でするもの」と言った。要は「恵まれた者の義務」ノブレス・オブリージュとしての慈善ではない。それをバットマンは理解する。
洪水で崩れ市長と前市長の息子が瓦礫で闇にとらわれた時、バットマンは発煙筒を焚いて助け出す。ためらう市長や他の市民の中、最初に手を取るのが前市長の息子っていうのも象徴的だね。
炎を手に人を導くバットマン。ベラ・リアルの様に表の、光の希望にはなれないが、光へ導くことはできる。
「闇に落ちた人々を救う」それが大いなる力を持つウェイン家の遺産。
復讐の炎が情熱の炎に代わるまでのバットマンオリジンの物語だった。
辛く厳しいバットマン家業はここから始まる。
Tips
1,なぜリドラーは、この街の秘密に気付いたのか?
「法廷会計士」だって言ってたよね。実はすごい職業で、隠された真実を知れたのは、金の流れをたどれば、事の発端に触れれるからだけど、それだけじゃなくて、犯罪や不正の前後にある背景も調査する。しかもそれを知識のない人がいる裁判所で分かるように説明しなくちゃいけない。かなり難易度の高い職業なんだって。パズル好きや綿密な計画は、この職業には欠かせなかったんだろうね。天職だったのに……。
2,日本のバンド「東京事変」の「群青日和」を思い出した。
豪雨じゃないけど、雨が降るゴッサムで人が皮肉にまみれてるのとか似てると思った。ぼくだけ?
3,続編について。
ラストのバリーコーガンで次回作の期待がさらに高まったね。プロデューサーは5年以内の続編を考えてるみたい。
4,リドラーの元ネタ。
監督は現実にいたゾディアックと名乗る連続殺人犯がモデルと言った。トレードマークが似てるね。
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