メールマガジン「教師教育を考える会」第47号(2017年12月)
教師と保護者は「子育てプロジェクト」の仲間
元・愛知県小牧市立小牧中学校PTA会長
斎藤 早苗
http://www.mag2.com/m/0000158144.html
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47号は、斎藤早苗さん(元・愛知県小牧市立小牧中学校PTA会長)。PTAの会長として経験・立場から、精力的な発言と活動を続けて、執筆活動もされてきた方です。 (石川 晋)
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【はじめに】
はじめまして。愛知県小牧市の斎藤早苗と申します。
教師教育がテーマのメルマガですが、私は教師ではありません。3人の子どもの保護者です。
子どもたちが通っていた愛知県小牧市立小牧中学校で、2014年度に開校以来初の女性のPTA会長を務めさせていただきました。それ以前にも、PTA母親代表(副会長)として小牧市PTA連絡協議会の母親委員長を拝命し、小牧市PTAの代表としてさまざまな会議や研修などに参加させていただく機会もあり、長くPTA活動に関わらせていただきました。
自分が関わるまでは、PTAに対して完全に負のイメージ(たいへん、忙しい、面倒)しか持っていませんでした。しかし、2012年に校長として赴任された玉置崇先生(現・岐阜聖徳学園大学教授)との出会いが、私のPTAに対する見方を一変させてくれました。
玉置校長先生(当時)と共に過ごした3年間で、私は、学校のこと、教師のこと、教育行政のこと、保護者のこと、地域のことなど、多岐にわたる知識を得ることができましたし、現状を知ることができました。PTA活動から卒業した今でも、その頃に芽生えた教育への関心は大きくなり続けており、さまざまな教師向けセミナーに参加して学んでいます。
私のように教師ではない立場の者が「教師教育」について思いを述べるのは僭越ではありますが、こうして機会をくださった発行人の石川晋先生に心より感謝を申し上げます。
厳しい現状に置かれている学校や先生方ががんばっておられる様子を見てきて、「ふつうのお母さん」ではありますが応援したい!という思いで、「愛される学校づくり研究会」HPに「お母さんは学校の応援団長」という教育コラムを連載させていただいていますので、よろしければご覧ください。
(http://www2.schoolweb.ne.jp/swas/index.php?id=ai_school&frame=column29)
それでは、私が考える「教師教育への提言」を3点書かせていただきますので、お付き合いください。
1.研修のあり方を考えよう
全国どこの学校でも、名称は違っても「授業研究会」のような研修が行われています。
オーソドックスな方法として、誰かが公開授業を行い、授業後に教職員が集まって、その授業についての検討会を開催し、時には講師をお呼びして講評をいただく、というスタイルで行われていますね。
このような年1~2回の校内研修の他にも、教育委員会が主催する研修会に参加するなど、先生方には研修の機会が多く与えられています。忙しい中でも、こうして研鑽を積まれている先生ってすごいなぁと感心しています。
最近は、各学校において、教職員の年齢層の偏りが指摘され、急激に増えている若年層の教師への「教師教育」が課題だ、という話を聞くようになりました。
これまでのように各年齢層がちょうどよい割合で構成されていた職員室から、ベテランとたくさんの若手ばかりで構成される職員室が増えています。
そうした状況を考えると、校内研修のあり方も、これまでのような形では不十分になってくるでしょう。
校内研修の様子をお聞きしていると、どうも形だけになってしまっているのではないかな、という疑問を持つようになりました。
せっかく研修をやっているのに、形だけになっているのではもったいないな、という思いがあり、私が考えたのは「もっと日常的に、たくさんの授業を見ることができたらいいのに」ということです。
初任者の先生には、初任者指導員がついて指導をしてもらえますが、2年目以降はそれがありません。
2年目になったらもう一人で大丈夫なのか、というと決してそうではないでしょう。いきなり多くのことができるようになるわけではなく、身に付けなければならない技術もまだまだたくさんあるはずです。
しかし、「もう初任者じゃないのだから、なんとか自分でがんばれ」と放り出されてしまうのが、学校の現状ですね。
その、「若手がいきなり放り出されて途方に暮れる」状況への手助けとなる手立てとして、日常的に他の先生の授業を見せてもらう機会が持てるようになるといいのではないか、と考えています。
もちろん見せてもらうだけでなく、自分の授業も見てもらいます。自習にするのが難しければ、合同授業のように一緒に学ぶ機会を作ってもらうのも良いのではないでしょうか。
同じ学年どうしでお互いの授業を見せ合えば、経験の少ない若手の先生でも自分との違いや先輩の工夫がわかりやすいでしょうし、他の先生方からのアドバイスもすぐに自分のクラスで活かせるものになるのではないかと思うのです。
年に何度かの大きな研究授業を担当することも、それまでにかかる準備の苦労や授業を作り上げる過程でたくさんの学びがあるでしょう。
でも、大きな研究授業をやり遂げるには、日々の小さな積み重ねの経験も必要なのではないでしょうか。そのためにも、まわりの先生方も一緒になって、日々の積み重ねを続けていけるといいなと思います。
校内研修のようにみんなで深める場だけでなく、もっと日常的に「授業を見合う」習慣ができるといいなと考えています。
2.フレキシブルなチームになろう
「モンスターピアレント」という言葉が、世の中にすっかり浸透してしまいました。
学校に寄せられるさまざまな問い合わせについて話をうかがっていると、苦情と思われるものが多くあることがわかります。中には、考えられないような理不尽な要求を突き付けてくる例も少なくないようです。
保護者である私は、こうした話を聞くと、先生方に対して申し訳ない気持ちになります。「それは先生の仕事じゃないでしょう」というようなことまで要求されては、先生はたまったものじゃないですよね。そう思うと、同じ保護者としてなんだか申し訳ない気持ちになるのです。
それぞれに個別の事情があるでしょうから、その原因や対応策について、私が言及することはできません。
ただ現状を見聞きするたびに思うのは、「もうこれは担任だけで対応するのはムリだろう」ということです。
若手の先生はとくに、自分と子どもたちとの関係だけで精一杯だろうと思います。そこに保護者との関係まで入り込んでくると、もう手に負えないのは火を見るより明らかです。
さらに私が感じているのは、先生方は「学校という環境に順応してきた人たち」だということです。自分が子どものころは、学校は楽しい場所だったのではないでしょうか。中にはそうじゃないという方もおられるだろうとは思いますが、先生になる人は皆、大学で教育を受けてきた人たちで、一生懸命勉強をしてきた人たちです。つまり、「よくできる人たちの集まり」だということなのです。
しかし現実に目の前にいる子どもたちは、そんな子どもばかりではありません。そして、それは子どもの保護者にも言えることです。保護者には、いろいろな環境で生きてきて、いろいろな考え方を持った人たちがいます。そう考えると、自分自身の人生経験の少ない若手にとっては、大人の世界は未知すぎて、対応する以前に、理解することに苦しむでしょう。
ですから、とくに保護者対応の部分に関しては、学校がチームになってほしいなと思っています。
学年主任や管理職が前面に出て、引き受けてあげられるとよいのではないでしょうか。自分で何とかしなければ、と抱え込んで苦しむ若い先生が生まれないようなシステムを考える必要があると思います。
さらに言えば、私は、学校はもっとフレキシブルなチームになれるといいなと考えています。
現状でも、学校にはいろいろな分掌があり、係ごとにチームになっているはずです。それをもっと動的にして、何か問題が起こったら自分たちで考えて、その時その時で必要なチームが作れるようになるといいですね。
それに、チームは学校の中だけで作る必要はありません。外部の人や地域の人、保護者だってチームに入ってもらう発想があってもいいと思います。
人材育成を考えるとき、若いうちからいろいろな経験を積ませることは大切なことです。
しかし、任せる範囲やかかる負荷の大きさを見誤ると、若手を潰してしまうことになりかねません。
自分で人生を切り開いてきたベテランの方々から見ると、何を甘っちょろいことをやっているんだと不満に思われるかもしれませんが、これから若手がどんどん増えることを考えると、まわりが力を貸しながら丁寧に育てていかなければならないのだろうなと感じています。
3.「教師は尊敬されなくなった」は本当でしょうか?
昨今、「学校や先生が尊敬されなくなった」という話をよく聞きます。
一般の人々の間でも言われていますが、他でもない先生方から聞くこと
もとても多いです。
以前、こんな話を聞きました。ある小学校の入学式で、校長先生が保護者にこんなことを言ったそうです。「お父さん、お母さんにお願いがあります。おうちで、学校の先生の悪口を言わないでください。」
子どもはどうしても親の意見に流されるので、親が先生のことを批判的に見ていると、子どもも先生の言うことを聞かなくなる、ということのようです。
たしかにそういう一面はあるでしょう。でも私は、校長先生の言葉として、これはどうなのだろうかと違和感を持ちました。それは、校長先生が「先生が尊敬されていないということを認めている。うちには悪口を言われてしまうような先生がいる。」と言っているのと同じことだと思うからです。
今、先生自身が自信や自負を失っているのでしょう。
学力向上、ICTや多様性への対応・・・多くのことが、学校に求められています。
加えて、消費者マインド全開で理不尽な要求をしてくる保護者や、人間関係をうまくつなげない子どもたちにも対応していかなくてはなりません。本当に学校の置かれている状況は厳しいと思います。
でも、そういう保護者を育ててきたのは、これまでの「教育」です。そして、そういう保護者が、今子どもを育てているのです。ということは、このままいけば、理不尽な保護者の大量生産になってしまうかもしれません。
しかし私は、この流れを変えることができるのも「教育」だと思うのです。
私は、教師というのは尊敬に値する仕事だと思っています。教師は、子どもたちにとって、人生に大きな影響を与える存在です。そして、保護者にとっても、「子どもを育てる」という一大プロジェクトを一緒に担う仲間だと思っています。
教師や保護者が「将来はこんな世の中になってほしい」という未来像に真摯に向き合って、仲間として思いを共有することで、未来は変えられるのではないかと思うのです。
ですから、先生方には、もっと教師という仕事に誇りを持っていただきたいです。
尊敬されていないと感じるのであれば、「どうせ自分は尊敬されていないから」と自分を卑下するのではなく、尊敬されるように努力をすればいいのです。
今でも、子どもや保護者から尊敬される教師はたくさんいます。そういう先生方は、いつでも努力をされています。
新しい技術を学んだり、他の先生と交流したり、本を読んだりして、新しい情報に触れる努力をされています。またインプットするだけでなく、学級通信やレポートなど、機会あるごとにさまざまな文章を書いてアウトプットもされています。
こうした努力をされている先生の姿を、子どもや保護者は見ているのです。それが尊敬の気持ちにつながっていくのではないでしょうか。
「教師の多忙化」が言われるようになり、とにかく忙しくて時間に追われている学校の現状を考えると、もっと学べ、もっと本を読め、もっと文章を書け、というのは酷な話だと思います。
しかし「どうせ先生は尊敬されていないから」と、何かのせいにしてあきらめてしまっている先生方が、どんどん疲弊していく様子を見るのは本当につらいし、残念なことです。
先生方が自信を取り戻して、尊敬される教師(仲間)が増えることを願っています。
【おわりに】
私はこれまで一度も教師の仕事をしたことはありません。ですから、学校や先生とは、保護者の立場での関わりしかありません。
ただ、他のお母さんと少し違うのは、私自身が小さな町工場の経営者であることです。PTAとして関わっていく中で、「学校経営」や「学級経営」に、企業の経営者として共感できることや参考になる部分が多くあることを実感しました。
とくに【はじめに】でご紹介させていただいた玉置崇先生との3年間は、組織をマネジメントすることや、人材育成のことなど、多くの気づきがありました。
その貴重な経験の中から、2冊の本が生まれました。
●愛される学校の作り方/玉置崇、斎藤早苗(プラネクサス)
●思いを届ける学校ホームページ/平林哲也、玉置崇、斎藤早苗、堀田敦
士(プラネクサス)
どちらも管理職向けの内容ですが、根底にある「立場を超えて協働することで、こんなにいろいろなことができるんだよ」という思いは、学級経営のヒントにもなるのではないかと思っています。
よろしければ、お手に取っていただけるとうれしいです。
これからも、お母さんとして、学校や先生を応援していきたいと思っています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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斎藤さんに書いていただき、保護者の立場から、「教師の育ち」に目を向けてくださっているたくさんの方々の存在に改めて気づかされ、胸が熱くなりました。振り返ってみれば私も新卒の頃から本当にたくさんの保護者に四方八方から支えていただいて、なんとか立ってきたように思います。
PTAの立場から、精力的に学校教員との協働を生み、教職員研修の場づくりにも関わってこられた斎藤さんのような存在は本当に貴重ですね。三つの提案も教師自身の提案よりも、むしろシンプルで力強いもので、依頼の内容に正対していただいたことに、感謝しています。
次号は、12月8日金曜日。宇都宮美和子さん(帯広市立稲田小学校栄養教諭/十勝清水食育ネットワーク事務局長)。日本の食糧生産の中心地の一つでもある北海道十勝地区の学校から栄養教諭として精力的にご発言を続ける方です。
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メールマガジン「教師教育を考える会」
47号(読者数2555)2017年12月5日発行
編集長:石川晋(zvn06113@nifty.com)
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2,500名以上の購読者を誇る著名なメールマガジン「教師教育を考える会」に寄稿した原稿です。編集長のありがたいコメントも、そのまま掲載します。
常々思っているのですが、学校は「閉じた世界」ですね。もっと「開かれた学校」になってほしいと思います。
そのためにも、「学校の中の人」だけでなく、保護者や地域の人などの「学校の外の人」の意識も変えていかなければならないなと感じています。
これからも「中と外をつなぐ」ために、できることを考えていきたいと思います。
当メールマガジンは連載終了していますが、こちらのブログにアーカイブされています。
文中にある共著はこちらです。
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