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コールドムーンに照らされて【短編小説】

 気づけば、12月。厚手のコートのポケットに両手をつっこみ、背中を丸めて帰路を急ぐ。
 しんしんと冷える夜の空気を肌に感じながら、私はため息をついた。

「なんで、あんなこと、言ったのかな…」

 つぶやいた言葉と白い息が暗闇にそっと溶ける。残るのは、後悔。
視界がぼんやりとかすむ。

 ――まっすぐ家に帰りたくない。

 そう思った私は、家の近くの公園へ立ち寄った。
自販機で温かい缶コーヒーを購入し、自分の頬にそっと缶をくっつける。
あたたかさに、ほっと心ほぐれる。

 薄暗い公園には、色の禿げた水色のベンチ。座るとひんやりとした。

 夜空を見上げると、澄み渡る真っ暗な夜空に丸い月が浮かんでいる。

 今年最後の満月。コールドムーンって朝のニュースで言ってたっけ。
その名前を聞くと冷たい印象がしたけど、実際に見上げた月はロウソクの炎のようなあたたかな色を放っている。
 黄金色に輝く月がやさしく私を見下ろす。

 深く、深く、冷たい空気を吸ってみる。

 頭の先まで澄み渡り、さみしさも後悔も少しだけ、消えた気がした。

「冬、だなぁ」

 明るい12月の月が私を照らす。
清らかで尊い、そんな美しい月を眺めながら。深く、深く、深呼吸をして。

 月が、私の背中を押す。
心に火をともす。あたたかな、満月。


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