劇場版名探偵コナン・OPテーマの変遷
今回の部員日記は、経済学部3年の松川雄大が担当させていただきます。
『名探偵コナン』は、言わずと知れた日本を代表するアニメです。歴代漫画発行部数ランキングでは、ワンピース・ゴルゴ13・ドラゴンボールに次ぐ4位(ナルトNARUTOと同率)に位置付けるなど、その人気は非常に高いといえます。
そんな名探偵コナンには劇場版があり、1997年『時計じかけの摩天楼』から2021年『緋色の弾丸』まで、コロナが蔓延した2020年を除いて毎年、計24作品+1作品(ルパン三世とのコラボ映画)が映画館で上映されました。
本日は2022年4月7日ですが、この約1週間後である4月15日は、劇場版では第25弾(公式)となる『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の上映開始日でもあります。
そんな劇場版『名探偵コナン』作品ですが、OPテーマ曲のアレンジが毎回違うのはご存じでしょうか? 名探偵コナンのOPテーマ曲は大野克夫氏が作曲されたものですが、劇場版『名探偵コナン』のために毎回違うバージョンが制作されており、これは第1作から最新作に至るまで続いている慣例なのです。ちなみにアレンジは、第1~11・14~20作は大野克夫氏が、第12~13作は原田末秋氏が、第21~24作は宮澤謙氏が担当しており、来週公開の第25(最新)作は菅野祐悟氏が、これまで劇伴すべてを担当してきた大野克夫氏に代わって、メインテーマアレンジを含めた楽曲担当になっています。
今回の部員日記では、歴史ある『名探偵コナン』映画作品のOPテーマ曲を分析し、どのような変遷をたどってきたのかということを、図化・文字化しようと思います。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
1.全作品の構成
まず、アニメ『名探偵コナンテーマ』曲+これまでに上映された全24作品の25曲分について、曲の構成がどのようなものになっているかを可視化したので、ご覧ください。
少し解説を加えます。
基本的に名探偵コナンのOPテーマは4部構成となっています。そのうちの3部はどの作品にも共通しているメロディーで、その3部とは「イントロ部分(黄色)」、「Aメロ部分(水色)」、「Bメロ部分(青色)」です。(アウトロ部分も共通していますが、長さの関係上イントロの延長と考えることで、カウントしていません)
そして特有メロディーである残り1部が、「Aメロ/オリジナルver.(青緑)」もしくは「Cメロ(橙色)」または「Dメロ(紫色)」のどれか、という形になります。(イントロ前のオリジナルメロディー(灰色)も、作品ごとに異なるメロディーの1つですが、長さが短すぎるためカウントしていません)
もっと言えば、例外的に共通3部のみの「3部構成」になっている作品や、逆に共通3部+特有2部の「5部構成」になっている作品も存在しており、このことからも、名探偵コナンのOPテーマ曲がいかにその構成が多岐に異なっているかが分かります。
作品の構成についてだいたいつかめたところで、次は「作品における特徴」について解説していきます。
2.作品における特徴の解説
つづいて、アニメ『名探偵コナンテーマ』曲+これまでに上映された全24作品において、それぞれの曲の特徴について解説します。
⓪『アニメ版メインテーマ』:最も一般的な構成・アレンジで、アニメ放送時にも使用されています。
①『時計じかけの摩天楼』(通称『生レバー』):イントロは繰り返しがなく、最も短くなっています。イントロ・Aメロ・Bメロのみの3部構成です。全体で見ても2番目に短い(同率)構成です。
②『14番目の標的』:イントロは後に最も一般的になる系統で、1巡目が1小節短いのが特徴です。初めてCメロが登場した作品でもあります。
③『世紀末の魔術師』:イントロは管楽器などが相の手に入るのが特徴です。構成は『14番目の標的』よりアウトロが短くなっていること以外は同じです。
④『瞳の中の暗殺者』:イントロは『生レバー』とほぼ同じです。また、構成は『時計じかけの摩天楼』とほぼ同じです。
⑤『天国へのカウントダウン』:「天国系統」の1つ目です。イントロは「天国メロディー」と呼ばれる特徴的なもので、メロディーは階段進行・メイン楽器にストリングスが用いられます。3巡目のAメロにオリジナルメロディーが登場しますが、この形式が初めて現れるのはこの作品からです。
⑥『ベイカー街の亡霊』:天国系統の2つ目です。冒頭の「ドドド」のキレの良さが『天国へのカウントダウン』と異なっています。しかし曲構成は前作と全く同じになっています。Aメロ天国ver.が用いられます。
⑦『迷宮の十字路』:イントロは「ポンポン」という太鼓の音が特徴的です。曲構成は、基本3部+「Cメロ」+「オリジナルAメロ」といった、珍しい5部構成となっています。Aメロ天国ver.が用いられます。
⑧『銀翼の奇術師』:曲のメロディー・構成ともに『迷宮の十字路』とほぼ同じです。イントロの太鼓の音がドラムに置き換わっています。Aメロ天国ver.が用いられます。
⑨『水平線上の陰謀』:天国系統の3つ目です。『ベイカー街の亡霊』とほぼ同じ音色・同じメロディー・全く同じ曲構成といった、最も聞き分けしにくい作品となっています。Aメロ天国ver.が用いられる最後の作品です。
⑩『探偵たちの鎮魂歌』:全体的にテンポがゆったりしています。『14番目の標的』・『世紀末の魔術師』と曲構成が非常に近い作品で、記念となる10作目を節目に、原点回帰といった思惑が垣間見えます。
⑪『紺碧の棺』:イントロの前に独自のメロディーが設定されています。前作と変わってハイテンポとなっており、ピアノの同音連打で疾走感を出しています。Aメロ紺碧ver.が用いられます。全体で見ても2番目に短い(同率)構成です。
⑫『戦慄の楽譜』:イントロはベースラインの下降が独特のリズムを刻んでいます。パイプオルガンを基調としたサウンドは映画に当楽器がメインで登場するためです。Aメロ紺碧ver.が用いられます。全体で見ても3番目に短い構成です。
⑬『漆黒の追跡者』:イントロは『戦慄の楽譜』とほぼ同じですが、冒頭の装飾音やサウンドの電子音感で異なっています。Aメロ漆黒ver.が用いられています。Aメロオリジナルメロディーが2度登場するのは、これと『純黒の悪夢』の2作品だけです。全体で見ると最も長い構成です。
⑭『天空の難破船』:イントロに「他にない唯一の独自メロディーが存在するシリーズ」で最初の作品です。イントロのコードの切り替わりが2小節ごとで1巡しかないのはこれだけです。また、Dメロが登場するのもこれが最初の作品です。Dメロ天空ver.が用いられています。全体で見ると3番目に長い構成です。
⑮『沈黙の15分』:独自イントロ2作目です。イントロは裏の旋律が目立つことから、「太陽にほえろ」のテーマに非常に近くなっています。(編曲者が同じ大野克夫氏)この曲は4/4拍子で始まりますが、70小節目から急に雰囲気が急変する3/4拍子に変わり、86小節目からまた4/4拍子に戻るといった、途中で拍が変化する唯一の作品となっています。Aメロ沈黙ver.とDメロ沈黙ver.が用いられています。
⑯『11人目のストライカー』:今現在、最新作に至るまでの「イントロ前に独自メロディーを用いる」形式は、この作品から始まりました。スタッカート多めの軽やかな雰囲気で、イントロ前に使われた独自メロディーが、中盤でもう一度使用される形式の最初の作品でもあります。Aメロ11人目ver.が用いられています。全体で見ると2番目に長い構成です。
⑰『絶海の探偵』:レーダー音をピアノの高いド(C6)の音で表しています。1巡目のAメロの繰り返しがない部分を除けば、前作と構成が全く同じです。Aメロ11人目ver.が用いられています。
⑱『異次元の狙撃手』:イントロ冒頭に不協和音を構成する2音を連続させるなど、全体的に緊迫感を煽る雰囲気です。Aメロ異次元ver.が用いられています。
⑲『業火の向日葵』:イントロでドの音(C5)を裏で流すなど、『絶海の探偵』に似た節が見られます。構成は『異次元の狙撃手』とほぼ同じで、中盤63小節目で回帰するメロディーが、「イントロ」か「独自イントロ」かという差しかありません。Aメロ業火ver.が用いられています。
⑳『純黒の悪夢』:この曲は劇場版20作目となる節目の作品ということもあり、B'zの松本氏がギターの主メロを務めています。構成は『業火の向日葵』とほぼ同じで、中盤65小節目から8小節続くメロディーが、「Aメロ」か「Aメロ純黒ver.」かという差しかありません。Aメロ純黒ver.が用いられています。
㉑『から紅の恋歌』:イントロは「通常メロディー」と「独自メロディー」(Dメロの伏線)を組み合わせる構成になっています。また2巡目のAメロ後にイントロを持ってくる形式は、『水平線上の陰謀』以来12作品ぶりです。Aメロから紅ver.とDメロから紅ver.が用いられています。
㉒『ゼロの執行人』:イントロ前の独自メロディーが4小節ある代わりに、イントロ部分は1巡しかない構成になっています。Dメロゼロver.が用いられています。全体で見ても最も短い構成です。
㉓『紺青の拳』:イントロは1巡目が『時計じかけの摩天楼』のもじり、2巡目が通常メロディーとなっています。Aメロ紺青ver.が用いられています。全体で見ても2番目に短い(同率)構成です。
㉔『緋色の弾丸』:イントロに天国系統を匂わせるメロディーが用いられています。構成自体は前作の『紺青の拳』と非常に似ています。Dメロ緋色ver.が用いられています。全体で見ても3番目に短い(同率)構成です。
㉕『ハロウィンの花嫁』:4月15日公開予定。
ここまで1+24作品の曲構成がだいたい分かったところで、つぎはそれぞれの曲がどのように分類できるのかということについて、「作品のグループ分けとその法則」を紹介します。
3.作品のグループ分けとその法則
ここでは、劇場版名探偵コナンの全24作品のメインテーマ(⓪『アニメ版メインテーマ』は除外)について、グループ分けをした際にどのように分類できるかということについて解説していこうと思います。分類によって、現在までのメインテーマの変遷が見えやすくなるのではないかと考えています。分類は全9種あります。
Ⅰ【初代型】
…『①時計じかけの摩天楼』・『④瞳の中の暗殺者』
→劇場版名探偵コナンのメインテーマの礎ともいえる初代型は、イントロ(I)AABAIIAABAIIアウトロ(O)の形となっており、小節数を考慮せず書くと、「IABAIABAIO」といったように、IABAが2つ続いたのち、IOでフェードアウトするといった構成になっていることが分かります。これがメインテーマの基軸となります。
Ⅱ【Cメロ回帰型】
…『②14番目の標的』・『③世紀末の魔術師』・『⑩探偵たちの鎮魂歌』・『⑦迷宮の十字路』・『⑧銀翼の奇術師』
→構成は「IABACĀBA(CACA)IO」となっていて、IABAのイントロが2巡目ではCメロといったCĀBAに変化し、終盤ではCとAを交互に出現させることで中々終わりづらい締め方になっています。2巡目前半のAが、オリジナルメロディーであることにも注目です。(Āはオリジナルメロディーを示す)
Ⅲ【天国系統型】
…『⑤天国へのカウントダウン』・『⑥ベイカー街の亡霊』・『⑨水平線上の陰謀』
→構成は「IABAIĀBABAIO」となっていて、IABAが2つ続いたのち、BAによる計10小節のおまけ演奏がついてから、IOとフェードアウトしていきます。天国系統型は全3曲においてすべての構成が同じであり、分類別のメインテーマで全ての構成が揃っているのは、天国系統型のみです。
Ⅳ【Cメロ回帰Aオリジナル型】
…『⑪紺碧の棺』・『⑫戦慄の楽譜』・『⑬漆黒の追跡者』
→構成は⑪・⑫が「IABACĀBAIO」、⑬が「IABACĀCĀBAIO」となっています。この構成の一番の特徴としては、「Cメロ後ろにオリジナルAメロがくっついている」というもので、その点で【Cメロ回帰型】とは異なっています。
Ⅴ【天空型】
…『⑭天空の難破船』
→構成は「IABADABAIO」となっていて、IABAのイントロが2巡目ではDメロ構成のDABAに変化しています。2巡目の頭にDメロ(オリジナルメロディー)を挿し込むことで、より”映画の色”を反映できる曲構成であるように感じます。
Ⅵ【沈黙型】
…『⑮沈黙の15分』
→構成は「IABAĀBADIO」となっていて、【天空型】と1巡目は同じものの、2巡目の初めにĀ(Aのオリジナルメロディー)を持っていき、またラストにDメロを持ってくることで、Dメロがより印象に残りやすい曲構成なのではないかと考えました。わざと途中を3/4拍子にしたことも、その構想の表れではないかと考えます。
Ⅶ【独自イントロ回帰型】
…『⑯11人目のストライカー』・『⑰絶海の探偵』・『⑱異次元の狙撃手』・『⑲業火の向日葵』・『⑳純黒の悪夢』
→構成は⑯・⑰が「IABAĀBACĪABAIO」、⑱・⑲・⑳がおおよそで「IABAĀBAĪABAIO」となっています。注目すべきはIABAで1巡目を終えた後、2巡目のIの部分がĀ(独自イントロ)となって回帰してくるといった点にあります。
Ⅷ【から紅系統型】
…『㉑から紅の恋歌』
→構成は「IABAIDIĀBABAIO」となっています。この構成はかなり独特で、ほかの分類型からは一線を画していると考えてよいと思います。記念すべき20周年映画の翌年として公開された、21作品目・『から紅の恋歌』、新しい構成を切り拓きたかったのかもしれません。
Ⅸ【初代継承型】
…『㉒ゼロの執行人』・『㉓紺青の拳』・『㉔緋色の弾丸』
→構成は、「IABAIDBAIO」(㉓は2巡目最初のDがĀ)となっています。公開された映画で新しい順に並べた過去3作品は、この型を採用しています。これは【初代型】である「IABAIABAIO」に非常に似ており、シンプルながらも映画の特色を2巡目のD(またはĀ)に組み込みたいという考えが伝わってきます。初代の構成は継承しながらも、DメロやオリジナルAメロを用いる形が、現在まで続く”最も新しい型”であるといえます。
4.変遷してきたOPテーマ
良くも悪くも、劇場版名探偵コナンのメインテーマは、その周辺作品ごとに様々なアレンジが施されてきました。分かりやすいところで取り上げると、曲の長さが最も長いもので113小節、最も短いもので74小節と、同じメインテーマでも長さに35ptほどの差があったりします。
よく考えると、メインテーマのアレンジは「安定期」と「改革期」が交互にやってきていた気がします。ずっと安定していれば大してそのアレンジは面白くならないですが、かといってずっと改革期であれば、基本となる本来の構成の良さに気づけなくなったりすると考えます。
このように考えると今現在は「安定期」であるといえるので、2020年のオリンピックイヤー映画『緋色の弾丸』(2021年公開) を終えた翌年となる今年のメインテーマは、「改革期」に入るのではないかと予想しています。
みなさんの好きな映画に、毎回使用される主題歌やメインテーマはありますでしょうか?それは毎度毎度アレンジが変わったりするでしょうか?
もしアレンジが毎回異なっているのであれば、その映画ごとにどのような変化があるのかを確かめてみるのも面白いと思いますし、そのアレンジがないのであれば、大野克夫氏含めた名探偵コナンの音楽制作陣を尊敬していただければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
追記
今回noteを執筆するにあたり、こちらの動画を参考にいたしました。ありがとうございました。
追々記
「ハロウィンの花嫁」、これまでにない構成でした。
このnoteでの方式になぞらえて書くなら、IABACIDIACO(I) となるでしょうか。イントロ前のオリジナルメロディーの部分を、もはや「オリジナルイントロ」として格上げしないと、この構成を示せないほど存在感がありましたし、コナンと言えばこれ、と誰もが思う「イントロ(黄色)」のメロディー(ドーシ♭ーラ♭ーソファー、シ♭ーラ♭ーソーファミ···)が使われないとは、思わなかったです。また、曲が全体を通して4/4拍子なのにも関わらず、このオリジナルイントロだけ拍数が3/4拍子と、まるで『沈黙の15分』のようなアレンジもされており、リズムが独特なのも特徴的でした。
無事、改革期に突入して行ったなという感想です。
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