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「変化することは怖くない」子ども食堂、間借りベジカレー店、二拠点生活……。池田園子さんがボーダーレスな挑戦を続ける理由

大人になると、変化を恐れてしまうことがある。それまで努力して積み上げてきた環境が壊れてしまうかも……と考えると、どうしても足がすくんでしまう。もちろん、それは決して悪いことではない。ただし、変化していくなかで得られるものがあるのもたしか。
今回取材した池田園子さんの日常には、この1年でさまざまな変化があった。子ども食堂や間借りカレー店のオープンに奮闘し、東京と大阪を行き来する二拠点生活もスタート。ひとつの場所に留まらず、常に走り続けている。そんな毎日を、池田さんは心の底から楽しんでいるという。
そのモチベーションはなんなのか。そして、その生活を通してなにが見えてきたのか。池田さんに訪れた変化を辿りながら、お話をうかがった。

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「よく食べ、よく笑う」が似合う人

「狭いところですみません。上がってください」

真冬の寒さを吹き飛ばすような温かい笑顔で迎えてくれたのは、池田園子さん。都内で編集プロダクションの代表を務める人物だ。

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手洗い用のタオルを個別に用意したり、人数分の水をペットボトルで配ったりしてくれる様子からは、彼女の気遣いが垣間見える。取材でお邪魔しているはずなのに、どこかもてなされているようだ。案内されるままキッチンに足を踏み入れると、スパイスの香りが鼻腔をくすぐった。大きなフライパンで温められているのは、なにやらスパイス料理……?

「今日のメインは、大豆とカリフラワーのスパイスカレーにしてみました。蒸し大豆とカリフラワーを豆乳ヨーグルトで煮詰めて、そこにマンゴーチャツネとスパイスを加えれば出来上がりです」

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付け合わせとして用意したのは、ほうれん草のターメリック炒め、レンチンしたエリンギのホットソース和え、カブのぬか漬け、トマト。そこに玄米が添えられる。

「玄米はシナモンを入れて炊いてみました。ちょっと甘みがつくので、スパイスカレーに合うんです」

ひとり暮らしの食事というものは、どうしても簡単なものになってしまいがちだ。けれど、池田さんが用意したのは全部で5品。なにもこれは「取材のため」ではなく、普段の食事をそのまま再現したものだというから驚いてしまう。

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「野菜をたくさん摂ることをいつも意識していて、そうするとどうしても品数も増えてしまうんです。でも、そんなに手間はかかっていないんですよ。レンチンで済むものもあるし、ぬか漬けは洗って切るだけ、トマトなんてそのままですし(笑)」

そんな風に笑う池田さんは「いただきます」と手を合わせると、美味しそうにカレーを頬張った。よく食べ、よく笑う。そんな言葉がぴったりな人に見えた。

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“ゆるプラントベース”を取り入れる理由

この日の料理には肉や魚などの動物性タンパク質は使われていない。それは池田さんが“ゆるプラントベース”を意識しているからだという。プラントベースとは、植物由来の原材料から作られた食品や飲料を中心として取り入れる食生活のことである。

「元々、自宅では肉や魚をそんなに食べる方ではなかったんです。スーパーなんかではプラスチックトレーに入れて売られていますよね? あれを洗って乾かして、資源ごみの日まで保管しておくのが億劫で。代わりに豆腐や大豆でタンパク質は補っていたんです。そんな食生活のなか、たまたまプラントベースにまつわる映像作品を目にすることがあって、あらためてプラントベースの良さを知りました」

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「実際に意識し始めたのは、今年の8月くらいから。でも、誰かと食事に行くときに肉や魚を避けるのは難しいし、そもそも嫌いなわけではないので、あくまでもゆるく続けています」

自分の価値観を押し付けることはしたくない。それが池田さんの考え方だ。ただし、“おすそ分け”はしたい。楽しいことを体験したら、美味しいものを食べたら、池田さんはそれを第三者にシェアしたくなってしまう。

「プラントベースを押し付けることはしません。ただ、興味を持ってくれた人には『それならプラントベースのお店に行ってみませんか?』と提案しています。今日作ったスパイスカレーもそうですが、肉や魚の代わりに豆や野菜を主役にしても、思いのほかいろいろな料理を作れるんですよ。そんな食事をひとりで楽しんでいたら、徐々にみんなにも食べてもらいたいという気持ちが強くなっていって」

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その想いが結実し生まれたのが、おすそ分け食堂「おまめ食堂」(子ども食堂)。これは10月からスタートした、池田さんが運営する子ども食堂の名称だ。月に1、2度開催し、手作りのプラントベース弁当を地域の子どもたちや保護者に配っている。

「コロナ禍になってから、貧困家庭についての報道が目につくようになりました。そこで『食事にお金を出せず、困っている人たちがいる』と聞いて。そのとき、ふと思い浮かんだのが子ども食堂という言葉だったんです」

池田さんは「思い立ったら即行動」の人でもある。8月の終わりには区役所へ連絡し、保健所へ足を運び、「どうすれば子ども食堂の運営を始められるのか」について熱心に相談した。そして10月、初めての試みである「おまめ食堂」を開催するに至った。

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「本当は自宅のキッチンにお招きして、出来たてのものを食べてもらいたいんです。でも、コロナの影響もありますし、なかなか難しい。だから現時点では、お弁当を配布する方法を選んでいます」

その場で食べてもらえないため、子どもたちが自分の料理にどんな反応を示すのかわからない。野菜だけの料理で満足できるのだろうか――。それは杞憂だった。

「まだ数回しか開催していませんが、すでにリピーターさんがいるんです。5歳のお子さんがいるご家庭なんですけど、カブのぬか漬けも玄米も美味しいと言いながら完食してくれたそうで、その感想がとても励みになりました。お子さんはわたしのことを“おまめのお姉ちゃん”と呼んでくれているみたいで、『今度はこんなのが食べたい』ってリクエストもくれるんです。それがすごくうれしくて」

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新しい発見を得たら、それを糧にする

もうひとつ、池田さんが料理の腕を振るっている場所がある。それが「Curry&Cafe mame.」だ。東京都板橋区に位置する志村坂上駅近くにある「㐧1カフェ」を間借りし、そこで定期的にベジスパイスカレー店を開いている。

「オーナーが友人で、3年ほど前にその物件を購入し、カフェをオープンしたんです。でも、コロナになってからお店を開けられなくなって、ずっと『勿体ない……』とボヤいていて。そうしたら、『園ちゃん、店出さない?』って冗談半分で言われて、わたしも『出したい!』とノリで返したんです。なにをやるかは、わたしの好きにしていい、と。それなら、と思って、プラントベースのスパイスカレーを出すことにしました」

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もちろん、初めての体験には失敗や苦労もついてまわる。

「慣れない場所で調理することに一生懸命だったので、わたしは汗ばんでいたくらいで。でもお客さんが途中でコートを羽織り始めたんです。どうやら寒かったみたいなんですけど、そこまで気が回らなかった。そういう小さな反省点はたくさんあります。ただ、それも含めてやっぱり楽しいんです。

発見もたくさんあります。ご飯はいらないというお客さんがいて、話を聞いてみると、カレーと付け合わせでお酒を堪能したい、と。なるほど、“スパイス飲み”みたいなものもあるのか、と素敵な気づきを得ました

そんな発見があるたび、池田さんはそれを糧にする。それが成長につながっていくからだ。だから池田さんは「経験すること」に貪欲なのかもしれない。

「子ども食堂も間借りカレー店も、やってみると気づくことがたくさんあります。頭のなかでイメージしてみるのと、たとえ小規模であっても実際にやってみるのとでは大きく異なる。やはり、実際に行動してみないとわからないことだらけですよね」

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池田さんは現在、二拠点生活も実践している。これもまた、持ち前の行動力があったからこそ実現できた新しいライフスタイルなのだろう。

「二拠点生活を始めたのは4月からなので、半年ほど経ちました。きっかけはパートナーの転職なんです。彼が大阪に引っ越すことになって。いまでは、月の3分の1を大阪で過ごす生活を送っています」

池田さんのパートナーは病院に勤務する医師。それに比べると、会社の経営や編集・ライティングを生業とする池田さんの方がフットワークは軽め。しかも、コロナ禍によってオンラインでのミーティングや取材が当たり前になったため、より一層「どこにいても仕事ができる」状況になった。

けれど、敢えての二拠点。池田さんのなかに、「大阪に移住する」という選択肢はなかった。

「東京でやっていることが多いし、今住んでいる場所も気に入っていて、友人知人もいます。だから、あくまでも拠点は東京なんです。なんだかいいとこ取りをしているような感じですけど、わたしには子どもがいないですし、ひとり暮らしだからこそ自由に動けるそのメリットを目一杯享受してもいいんじゃないかなと思って、二拠点生活をしてみることにしました」

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すべての食卓が、わたしには必要

プラントベースの食生活に、子ども食堂や間借りカレー店、そして二拠点生活。池田さんの生活には、この1年でさまざまな変化が訪れた。いや、「訪れた」というよりも自ら「飛び込んだ」という表現がしっくりくるかもしれない。池田さんは変化を恐れず、とても楽しんでいる

でも、新しいことに踏み出すとき、「怖い」と感じることはないのだろうか?

「怖いと感じたことはないんです。そもそもこの1年でわたしがしてきたチャレンジというのは、すべて日常生活の延長にあるものばかり。おまめ食堂の食事だって自分のご飯を作るついでにできちゃいますし、間借りベジカレー店は場所を無料で貸してもらっているので、ただ料理するだけ。恵まれた環境があって、その上で挑戦させてもらっているんですよ」

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「そこまで大きな冒険はしていないんです」と謙遜する池田さん。けれど、仮に小さなチャレンジだとしても、変化自体を恐れてしまうことはある。現状のままでいたい、なにも変わらなくていい――。

「昔、結婚していたんです。その頃は現状維持を求めるタイプでした。いまが平和であればいいし、慣れていることをやって、ほどほどに稼げればいいと考えるような。でも、新しい生活様式になって、以前よりも時間ができたことで考え方も変わり、もっともっとインプットしていきたくなったんです。

ずっと同じことをしていると、同じ筋肉しか使っていない感覚があって。でも、たまに違う筋トレをすると、筋肉痛になるじゃないですか? それを続けていくと、いろんなところが鍛えられていく。そんな感じで、慣れていないことに敢えてチャレンジすることで、確実に勉強になると思っているんです。それがもしかしたら仕事にもつながるかもしれませんし、そうじゃなくても、出会ったことのない人たちと出会える面白さが味わえますしね」

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いま、池田さんにはいくつかの“食卓”がある。ひとりの食卓、パートナーとの食卓、誰かに食事を振る舞う食卓。その一つひとつがかけがえのない意味を持っている。

「ひとりのときは、そのときの自分が絶対に食べたいと思っているものを作るんです。その方が幸せですし、心が満たされるから。どんなに遅く帰ってきても、玄米とぬか漬け、それと15分で準備できるものを並べて、全力で楽しんでいます。パートナーとの食卓では、思い出が生まれますよね。大阪へ行くとだいたい彼が料理をしてくれるので、初めて食べる料理が出てくることもあるんです。それがちょっと不思議な味だったとしても面白いし、思い出になるかなって。

そして子ども食堂や間借りカレー店での食卓は、わたしが振る舞う側です。来てくれる人たちのためにレシピを考えるのは楽しいし、新しい料理に挑戦できる場所でもあります。なにより、広い世界とつながれる感覚があるんですよ。すべての食卓が、わたしには必要ですね」

日々さまざまなことにチャレンジし、大勢の人と出会うなかで得られたこと。池田さんは、いつかそれをもとにして一冊の本を書き上げたいと考えているそうだ。きっとそこには、どうしたって変化せざるを得ない世界にうまく馴染み、自分らしく生きていくための方法が綴られるのだろう。

そのためにも池田さんは、これからも、変化だらけの生活を送る。それを心の底から楽しみながら。

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日常生活で起きたことを、とにかく全力で楽しむ。それが池田さんとお話しして感じたことでした。
でも、それは決して簡単なことではありません。見えないところで努力し、苦労を重ねてきたからこそ、すべてをポジティブに捉える余裕が生まれるのではないでしょうか。
わたしたち松屋も、食の価値観の多様化に応えるため、変化を続けています。変化を恐れず、それを楽しむ池田さんの姿勢に、同じ思いを感じました。

取材:松屋フーズ・五十嵐 大 執筆:五十嵐 大 写真:小池大介 編集:ツドイ