【緊急】雪山からの即時撤収判断、全員無事帰宅までの記録
幼児教室「慶楓会」では、併設する国立・私立小学生のためのアフタースクール「てんげんじこどものいえ」と合同で、キャンプ・体験活動を年間を通じて実施しております。子ども達にとって、異年齢での集団生活を通じて心身の自立を図り、人間的な成長を図るための豊かな体験の機会を提供することが目的です。
その活動の一環で、毎年12月末はスキーキャンプを実施することが恒例であり、今年も2024年12月26日より、4泊5日の行程企画のもと、準備を重ねてきておりました。教室の幼児たちにとっても、アフタースクールの小学生たちにとっても、冬休みのハイライトとして楽しみな企画です。今回は50名の参加者(小学生40名、幼児10名)と引率スタッフ・リーダー14名、現地インストラクター5名、宿舎スタッフ6名という大所帯で、雪山の美しい景色の中での充実したプログラムが予定されていました。
しかし今回、現地での突発的な緊急事態の発生により、予定を変更して当初の計画よりも前倒して雪山からの緊急撤収を行うことになりました。
この記事では、私どもがどのようにその緊急事態に対処したのかをご紹介することで、キャンプ運営におけるリスクマネジメントの実際を知っていただければと思っております。
また同じようにスキーキャンプを実施している他の団体指導者の方の参考にもなれば幸いです。
発端:1人目の体調不良
12月26日早朝、子どもたちは集合場所の、慶楓会白金台教室に集まってきました。事前のご案内通り、一週間前からの健康チェックと、当日の体調確認、持参薬などの最終チェックなどを実施する受付を行い、皆元気にバスに乗り込みました。
スキーキャンプの開催地に向かうバスの中では、子どもたちの期待に満ちた声が弾んでいました。「スキー、初めてだよ!」「転ばないで滑れるかな?」と笑顔で話し合う姿に、私たちスタッフもこれから始まる雪山生活が安全で楽しい思い出になるよう、胸を熱くしながら子ども達との楽しいコミュニケーションに花を咲かせていました。大自然の中での5日間は、子どもたちが仲間とともに成長し、挑戦する貴重な時間——そのために準備を重ねてきたので、この5日間の行程を無事に終えられるよう、楽しい期待と同時に気を引き締めて、現地での生活を始めました。
現地に到着して1日目は緩やかに活動を開始しながら宿舎の生活の約束事などを確認した上で、滞りなく全てが進行されました
そして迎えたキャンプ2日目の朝は、夜半から降りしきった雪により、ゲレンデには真っ白な雪原が広がっており、今日から始まるインストラクターの先生方のレッスンに胸を高鳴らせる子どもたち、初めてスキーに挑戦する緊張と喜びが入り混じる様子は、私たちスタッフにも感動を与えてくれました。
しかし、朝からメンバーの一人から「熱っぽい」という訴えがあり、全体の行動からは離れて宿で休む選択を取ることにしました。本隊のスキーレッスン中も宿舎で横になり休んで様子を見ていましたが、夕方になって体温を測ると高熱が確認されました。
この時点で、「最悪の事態を常に想定する」という指導者としての基本姿勢に則り、高熱の原因が感染力の高い疫病等によるものであるリスクを考慮して、他の子どもたちへの感染が広がる可能性を想定しながらの対応に切り替えました。
すぐにこの発熱者を宿舎の別棟の部屋へ隔離して、他の参加者との接触を避けつつもゆっくり休めるようにし、加えて保護者へお迎え依頼の連絡をしました。さいわい、夜遅くにはお迎えいただけるとのことで、そのように手配を進めました。子どもたちにも、「一人、熱で休んでいる」ということを伝えた上で手洗いうがいや、アルコール消毒(当会ではキャンプ中はスタッフ全員が常にアルコール消毒液を携行しています)を励行するように伝えました。
夜のスタッフMTGでは、今後、最悪の場合には途中でキャンプを切り上げる可能性もあることを伝え、その場合の動きの想定を確認するなどして、引率者が今後の様々な状況に対応できるよう意識を合わせました。
深夜には体調不良者の保護者の方が到着され、最初の発熱者を少しでも早く親元へとお返しできたことに私たちも安堵しました。
感染の兆し:連鎖する発熱
3日目の日中は特に体調不良の訴えもなく、予定通りの活動を行って宿舎に帰りました。その夕方、私の元に、最初の体調不良者がインフルエンザと診断されたとの連絡が入りました。
この時点で、昨夜のうちに持ち始めた想定の確度が高まり、それなりに高い可能性で緊急の判断をしなければならない事態が生じうるという予測と覚悟を新たにしました。
それから程なくして、「体がだるい」という声が子どもから上がっているという報告が、引率のリーダーからも届きました。すぐに体温測定を指示し、確認すると38度以上の高熱です。
キャンプ中は非日常生活による疲れなどにより、一時的に高熱を発しながらも一晩ゆっくり休めば軽快するということもよくあります。そのため、熱が出た場合にも、はじめは「疲れが出始めた」という可能性も考えるのが通常です。しかし、この時はすでに最初の発熱者がインフルエンザに罹患していたことがわかっていましたので、より慎重な判断が必要でした。
そこで、体調不良者はあらかじめ用意しておいた保健用の別室に集めるよう、リーダーに指示を出したところ、そこから先、次々に他の子どもや、中にはリーダー自身からも体調不良者が現れ始めます。
すぐにスタッフ・リーダーに指示を出し、夕食後の自由時間中であった子どもたちに全ての活動を中止させ、体温測定と健康チェックを実施するように伝えました。するとそこで初めて発熱がわかる子どももあり、活動は即時切り上げ、各部屋の換気、加湿、消毒とマスク着用を指示し、状況から早めに全体消灯・就寝とすることにして、予定よりも30分ほど早く、子どもたちは床につきました。
結果的にその夜までに、発熱者は8名に達しました。
緊急帰宅の決断
症状が急速に広がっている様子を目の当たりにし、いよいよ判断が迫られました。無理を押して、以降の活動を継続することの危険性を考えた結果、現地での活動をこのまま続けることは不適切と判断し、感染の拡大リスクを抑えるため全員の早期帰宅を決断しました。
バス会社へ緊急手配を依頼し、すでに21時を過ぎてはいましたが、保護者全員に対して、翌日1日繰り上げて解散をする連絡を行いました。また体調不良の該当者は、現在健康体の他のお子さんと一緒のバスに乗ることのリスクから、一家庭ずつお迎えが可能かどうかを確認するお電話をしました。
あわせて、もともと現地解散などのイレギュラー希望を伺っていたご家庭に対しても、予定変更に伴う確認のご連絡を一件ずつ行い、ご連絡は深夜に及びました。
そして、体調不良者のうちどうしても保護者の現地までのお迎えが難しいお子さんは、保護者の方の御了承を得た上でスタッフ車両により帰京することとし、解散までの、全体の詳細なスケジュールを組み立て直しました。
この間、子どもたちを支えるスタッフやリーダーたちは、こうした緊急事態にもかかわらず、一心に子どもたちを支えようと力を結集して団結し、対応を重ねました。
子どもたちへの説明とお迎え、帰宅
翌朝、早朝より、複数の保護者の方が現地までお迎えにお越しくださいました。
スタッフたちにも、普段は23時までに全て(保護者報告文の作成や日記の返信など)を切り上げて休むように指示をしているのですが、昨晩は緊急対応で疲労も蓄積している状況でした。そうした中でも、子どもたちを安全に東京へ帰すために力を尽くしてくれたことは、身内ながらも感謝にたえません。
一方で私も、保護者の方が到着されたり、お電話をいただいたりするたびにご対応、ご案内を行い、少々疲れが出てきていました。またこの朝から、これまで元気だった別のスタッフも体調不良を訴え、40度の高熱が出るなどしました。
総合的な状況から、やはり早期帰京の判断をしたことは正解でした。
起床してきた元気な子どもたちには、朝食を前にして事情を丁寧に説明しました。「急に帰ることになって残念かもしれないけれど、みんなが元気に帰るために大切なことなんだ」と伝えると、一瞬戸惑いの表情を見せた子どもたちも、すぐに理解を示してくれました。「早く帰るのは寂しいけど、また絶対スキーに行きたい!」と話す子もおり、こうした状況の中でも不平よりも前向きな気持ちを示す様子に、私たちスタッフの胸には熱い思いが広がりました。
急な状況変化の中でも子どもたちは順次荷物の整理を済ませ、出発に向けた準備を重ねてくれました。その後、バスが到着するまでの午前中の時間を使い、当初予定していたお土産購入の場所を変更して近隣の施設で行い、「家族に何か買っていこう!」と楽しい思い出を少しでも持ち帰れるよう工夫しました。
本来この日に予定していたグループ滑走はできなくなったものの、この日まで3日間しっかりとスキーを滑りこみ、また小学生は前日のうちに検定を実施、幼児はスタッフが後ろから支えて一緒に滑る滑走体験を行なっていたことで、スキープログラムをほぼ全て行えていたことが、困難の中でも幸いなことでした。
その後、全員が無事にバスやスタッフ車両に乗り込み、解散場所へと向かいました。
保護者の方々との連携
保護者の方には、バスの中からも予定到着時刻を随時更新してお伝えし、解散場所には無事に全ての保護者がお越しくださりました。そのおかげで、スタッフの車で移動してきた体調不良のお子さんも、元気な様子で帰ってきた他のお子さんも、無事に保護者の元へと滞りなくお引き渡しできました。
1日早い帰京というイレギュラーな事態に対しても、保護者の皆さまからのご理解と協力をいただけたことは、今回の対応を大きく支えてくださいました。突然の予定変更にもかかわらず、快く迎えや連絡に応じていただき、さらに多くの温かい言葉をいただきました。
これらの言葉に、私たちは大きく励まされました。安全を最優先にした判断をご理解いただけたことが、私たちにとって何よりもありがたいことでした。
実際、早い段階でお迎えいただいたお子さんは受診の結果、インフルエンザ陽性であった方もいらしたので、無理を押して続行していたらより感染が広がっていた可能性もあり、それを考えるとぞっとします。
今回の教訓
今回の出来事は、私たちにとって試練であると同時に、運営にあたるスタッフにとっても学びの機会でもありました。自然の中での活動は常に予期せぬ事態と隣り合わせですが、その中でいかに迅速かつ冷静に対応できるか——それが子どもたちの安全を守る鍵だと改めて実感しました。
今回の対応は、我ながらも適切な判断を適切なタイミングで行えたと思っています。対応を振り返り、適切であったと思えるのは以下のことです。
最初の発熱者の発生時に最悪の事態の想定を頭の中に持ったこと
その方の保護者には早めにお迎えに来ていただき、受診を促したことでインフルエンザに罹患しているという診断結果が、早くにわかったこと
そのために、次に起こりうる事態の予測がついたこと
他に発熱者が出た時点で全員の健康チェックを行い、その時点で発熱者の確認ができたこと
よって、早い段階で体調不良者の隔離もできたこと
発熱者が多数見られたときに、繰り上げ帰京の素早い判断をしたこと
したがって、バス会社にも連絡をして緊急で翌日のバス手配ができたこと
判断が早かったことに加え、現地の宿舎スタッフとも緊密な連携があったため、バスの手配が夜遅い時間からでも可能になったこと
判断に基づき、保護者にもその夜のうちに連絡を行い、お迎えに来ていただく依頼ができたこと
そもそも申込時に、緊急時には、宿舎までお迎えに来ていただく可能性があるためにその想定を持っておいていただく説明をしていたこと(これは今回に限らず以前からのことですが)
なにより、保護者の方々の理解があり、急な予定変更にもかかわらず、解散場所までのお迎えにお越しくださるといった柔軟な対応をしていただけたこと
現地で緊急対応中であることを保護者の方も理解してくださり、「うちの子は大丈夫なのでしょうか?」といった個別のご連絡を私共に対して行う方がいなかったこと
そうした無用のご心配を抱かせないよう、解散時刻を早める連絡の際に、体調不良者だけを対象とするメールも合わせてお送りし、個別のお電話によるご連絡前に少しでもご不安を和らげられるようにしたこと
子どもたちの健康と安全を守る判断に対し、元気であった子どもの保護者の方々も、安全優先の判断に対する理解と感謝を抱いてくださったこと
実は私自身は、これまでの教員経験の中でも、修学旅行を途中で切り上げて東京へ帰る判断をするなど、今回の類似ケースの経験はありました。また日頃はもとより、キャンプにおいてはより綿密に緊急時の対応や体制をシミュレーションしており、最悪の場合の行動についても想定していたので、現地では予定変更それ自体には、それほどの大きな抵抗はありませんでした。
しかしながら若手のスタッフにとっては、日程を繰り上げて帰るといった大きめの予定変更は初めてという者もおり、ある意味では経験を重ねる機会にもなりました。
感謝と今後に向けて
緊急事態ではあるものの、現地では悲壮感や落胆といったムード、あるいは慌てふためくといった雰囲気ではなく、普段からの緊急事態への事前想定、これまでの経験値、それらを背景にした冷静な判断が功を奏しました。
またこれまでのキャンプでも、大なり小なり、緊急時にはこのような対応を重ねてきたため、そういった事態にも適切に対応する運営側へのご信頼をいただいていたこともありがたいことです。リピーターの多い当会キャンプの、保護者の理解と信頼が大変厚いものであるがゆえの賜物と感じています。
今後も今回の経験を更なる安全なキャンプ運営に活かしていくことで、保護者のご信頼を元に子ども達の豊かな体験の機会をつくっていきたいと思います。
今回、経験値が高まった引率メンバーも、この経験を糧に、さらに安全・安心で豊かな体験活動を提供していく決意を新たにしています。子どもたちの笑顔と成長を第一に考え、保護者の皆さまとともに信頼を築きながら前進してまいります。
改めて、保護者の皆さまに心からの感謝を申し上げます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。