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「ワーケーション発言」を巡って定義や背景を整理してみる。

7/27の菅官房長官の「ワーケーション」発言についてyahooニュースではいろいろコメントがついています。

ちなみにNHKはこちら。

コメントや反応を読んでみると、菅さんの造語とか、急に出てきたと思われる節もあるので誤解がないように自分なりにまとめておきたいと思います(もちろんコメントや反応のなかにはきちんとこれまでの背景を指摘しているものもありました)。

ちょうどワーケーションについての書籍、論文を執筆・校正中ということもあり、その中からワーケーションについて、特にその背景を紹介したいと思います。

すでに出版された拙著『モバイルメディア時代の働き方』(勁草書房、2019)でも取り上げましたが、いろいろ調査・研究をするなかでワーケーションの自分なりの定義はこうかなぁと思います。

ワーカーが休暇中に仕事をする、あるいは仕事を休暇的環境で行うことで取得できる休み方であり、働き方。また、仕事に効果があると考えられる活動を伴うこ ともある。(=日本型ワーケーション)

もちろん、小説家が温泉宿で執筆に励む、芸術家が島で制作する、など「ワーケーション的形態」は洋の東西かかわらずはるか昔から存在します。ただ現代的な意味で源流をたどると、2010年辺りからデジタルノマドたちが実践しはじめ、ブログ記事などにはあがってきていました。お硬い系のメディアで確認できるのは2015年にWSJに掲載された「This Summer, How About a Workcation?」という記事です。これを皮切りに、徐々に浸透し始めたと言えるでしょう。

(欧米の)ワーカーにとってのワーケーションの目的は主にリフレッシュや療養(Retreat)、サーフィンなど自分の趣味(Activity)、家族との時間(Family Trip)といった休暇の要素とビジネスでのネットワーキングやソフト開発、社員のための研修といった仕事の要素があり、ワーカーたちはこれらの要素を組み合わせてワーケーションを行っていると言えるでしょう。

日本においてワーケーションが注目されるようになったのは2017年から2018年にかけてです。その背景を見ていきましょう。

日本の状況としては、2017年には「人生100年時代構想会議」が設置されたり、副業・兼業が徐々に認められだし、増加していきました。2018年に制定された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は個人単位で徐々に広がっていた多様な働き方を行政レベルで推進していくことになります。

2020年に開催予定であった東京オリンピックでも交通機関の過剰な集中が予想される中で、混雑緩和のためにテレワークの柔軟な働き方に注目が集まる中でワーケーションが取り上げられはじめました。

日本におけるワーケーションの社会背景として地方創生という文脈もあります。2015年度から総務省が実施した「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」などで各地域がさまざまな実験をしていくなかで、和歌山県はワーケーションをコンセプトに取り組みました。またワーケーションという言葉自体は使っていないものの、リゾートテレワークという言葉で長野県なども取り組んできました。2019年には「Workation Startup!」が開催され、そこで「WAJ: Workation Alliance Japan(workation自治体協議会)」が設立され65の自治体が参加しました。

また2018年には総務省が「関係人口創出事業」をスタートさせたことで各地域で関係人口をキーワードにさまざまな動きが活発になりましたた。東京をはじめとした都市部から離れ、一定期間を地域で働きながら過ごすワーケーションは地域創生や関係人口創出に有効なアプローチとしてにわかに注目を集めるようになったと言えます。

企業ではJALがやはり2018年頃から有給休暇など労務管理の面から導入しはじめました。その後、BCPや生産性、リフレッシュなどの面も含めて徳之島やハワイなどでも実証実験を行っていきます。前述の「workation startup!」では協力企業として日本能率協会(JMAM)、三菱地所、NECソリューションイノベータ、日本航空、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、東京急行電鉄株式会社・伊豆急ホールディングス、J&J事業創造の8社が参加しました。コンテンツ、移動、観光、情報通信などさまざまな面からのビジネスチャンスとして捉えられることからここで挙げた企業以外も続々と参画してきます。

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ここまで見てきたように、日本におけるワーケーションはデジタルノマドやフリーランス、社員などワーカー個人の働き方のひとつのあり方というよりも、企業やとりわけ観光業の振興や関係人口の創出を目指す地域が主導しながら推進する制度や取り組みであることが特徴と言えるでしょう。

これらを踏まえると、今回の発言はこのコロナ禍においてワーケーションをGoToキャンペーンなどによる地域の観光産業と密を避けるテレワーク促進のためには一挙両得なアプローチだと思ってのものだったと思いますが、感染拡大防止のために特に都市部から地域への「移動」を避けるという視点からはちょっとタイミングが悪いとも言え、二兎を追うものは一兎をも得ず、になりかねません...

ちなみにウェブを中心にいろいろなところでワーケーションの定義が試みられています。このあたりも日本と若干の違いが見え、興味深いです。例えば

A workation is a vacation that allows you to work remotely while integrating elements of leisure that let you unwind, relax and be more productive. 

これは割りとオーソドックス?なものですね。ただし「puroductive(生産的)」もしっかり入っているところがミソかな、と。

Workation, (noun) – a working vacation, where you go to an exotic location and complete specific tasks or accomplish a goal before you leave. In between work sprints, you vacation. Workationing isn’t about taking a vacation from work. Workationing is about fully immersing yourself in your work while also building in ways to pamper yourself and unwind so you can be even more effective and productive.

こちらの定義ではよりストイックに?仕事に集中し、より生産的になることが強調されます。

もっといろいろと英語圏のデジタル・ワークと観光研究などの関連からデジタルノマド研究の文脈も紹介したいのですが、マニアックになるので今回はこのあたりで。

最初に日本型ワーケーションの定義を自分なりにしてみましたが、議論が空中戦になることで、とんでも?な実践が生まれたり、ここまでさまざまな地域や企業などで実践してきたことが空回りしないことを祈ります。

※コロナ禍時を踏まえての新しいワーケーションについての論考などはnoteマガジンにもまとめていますのでそちらもお読みいただければ。



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