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消費者が無意識に持つ"ゴール"を行動科学で明らかにする

前々回の記事に引き続き、行動科学に基づくマーケティングを題材とした『Marketing to Mindstates』の内容を簡単に紹介するとともに、それらをいかに実践するかについて私見をまとめていきます

前回のおさらい

著者の提唱するmindstateとは、特定の感情が喚起された一時的な心理状態であり、その状態では合理的思考よりも直感的思考が優先されます。

人間はこのmindstateによって選好や行動、価値観が変わるため、消費者がいかなるmindstateで商品・サービスと出会うかを行動科学的に設計することが肝要と述べました。

今回はこのmindstateを使った具体的なアプローチの方法についてまとめます。

行動科学マーケティングの四大要素

消費者の意思決定に影響を及ぼす要因として、著者は以下の四つを挙げています(p.79)。

・ゴール
・動機
・規制アプローチ
・ヒューリスティクス

消費者のゴールと動機を理解することで消費者のmindstateを特定し、規制アプローチ(別の記事で紹介します)とヒューリスティクスを用いてmindstateにアプローチすることで購買につなげることができます。

反対に、mindstateを理解しないままマーケティング施策を講じてしまえば、消費者にメッセージが響かず、"無意識的に"無視されたり嫌われたりする可能性すらあります。

無意識に潜むゴール

人間はどんなときであっても"ゴール"を見据えて行動しています。

たとえば、仕事で大事なお客様からメールが来たとき、ゴールは「お客様が望む答えを返信できていること」になりそうです。長期的に見れば、「お客様と良好な関係を築いていること」かもしれません。このような状況では誰もがゴールを自分自身で認識できそうです。

ただ、先に述べた通り人間は「どんなときであっても」ゴールを持っています。道を歩いているときも無心でスマホをいじっているときもです。この記事を見ている人も「何か新たな知識を得て知的好奇心を満たしたい」というゴールを抱えているかもしれません。しかし多くの場合、常に自分自身のゴールを認知することはできず、多くの意思決定や行動は"ゴール"を意識することなく行われています

身近に潜むゴールの例

自らが問題意識も持っていることに関する広告がやたらよく目に入る(普段は目に入らないのに)、なんてことよくあると思います。

たとえば、車を買おうと悩んでいる人はTVやWebで流れる自動車のCMに思わず目を向けてしまうはずです。この「車を買う」というゴールが認知にまで影響を及ぼしているわけです。

先ほど、多くの場合ゴールを意識することなく意思決定が行われていると書きましたが、意識しなくても自らの認知や意思決定に知らないうちに影響を及ぼしてしまうのです。

また裏を返すと、問題意識がなければ脳は事象(広告など)を無意識にスルーしてしまいます。したがって、消費者の抱えるゴールを理解したうえでマーケティング施策を打つことが重要となります。

ゴールの種類

消費者のゴールは大別して以下の二つであると著者は述べています(pp.91-2)。

機能的ゴール:単なるタスクのようなものであり、感情と結びつきは薄い
高次のゴール:感情的なものであり、消費者のニーズの根源となるもの

体重を減らすことを目標として(機能的ゴール)、トライアスロン参加のために日々トレーニングを積んでいた男性が例として挙げられています。この男性は実際にトライアスロンで死に物狂いでゴールを目指す中で、自分自身に打ち勝ち、自信を取り戻すことが真のゴール(高次のゴール)だと気づいたようです。

ゴールの見つけ方

では、どうやってゴールを見つければよいのでしょうか。

前提として、本書ではcontext(消費者を取り巻く環境)を非常に重視しており、ゴールを見つける際も実際に消費者が意思決定をする場でインタビューすることを推奨しています。

「商品・サービスがなかった場合、あなたはどう感じるか?」など代表的な質問がいくつか掲載されていますが、ここでは省略します。

消費者の"ゴール"をいかにして特定し施策を打つか

ということで、ここからは個人的な意見をまとめていきます。

今回は男性向けのダイエット食品を販売しているECサイトを題材にしてみます。
訪問者の機能的ゴールが「体重を減らす」だとした場合、高次のゴールは「だらしない体だと思われなくたい」というケースと「細マッチョな自分に酔いしれたい」というケースが想定できそうです。

ECサイトの訪問者がどっち派の人間なのか確かめるため、訪問時あるいは画面遷移のタイミングで認知負荷がかからない非常に簡単なアンケートを出してもよさそうです(イメージはYouTubeの動画再生時に聞かれるアンケート)。
ストレートに「だらしたく思われたくない」か「魅力的なボディを手に入れたい」かを二択で聞いてもよいでしょうし、イメージ(画像)を使って直感的な答えから高次のゴールを引き出すのもありかもしれません。

アンケートによってその人の高次のゴールが判定できれば、そのユーザーIDやCookieと高次のゴールを紐づけることができます(前回の記事と同じパターンですね)。閲覧履歴ベースで判定してもよいですが、直接聞いた方が確実です。

次回訪問時、ECサイトのレイアウトをIDに紐づく高次のゴールに合わせて変えることができます。細マッチョ派の人であれば、イケメン細マッチョで画面を覆いつくす...とまでは言わないですが、自らが意識的または無意識的に掲げる理想像が視認できるようなレイアウトを表示すればよさそうです。メルマガなどMAとも連携できればベストですね。

消費者の"ゴール"をいかにして特定し施策を打つか2

Webサイトを開いたらいきなりチャット画面が出てくることありますよね。
サービスや商品のお困りごと解決のために設置されていることが多いように感じます。

何ならチャットで高次のゴールを聞き出せないでしょうか。サイトの性質に応じて、インセンティブ(ポイント等)を与えて答えてもらうのもありだと思います。拡張性を踏まえてチャットボットが聞いてくれるとベストですね。

このとき、単に決められた項目を確認するのではなく、回答内容に対応した質問ができることが望ましいです。「体重を減らしたい」→「体重を減らさないとどのような問題が起こりそうですか?/体重を減らすことであなたはどういう感情を得られますか?」というように。

こう書いてみると、機械学習と人力ロジックで質問文も自動生成できそうです。一人ひとりに丁寧にインタビューしてインサイトを得ることも重要ですが、より少ない手間で消費者の声を収集するのも悪くないと思います。

おわりに

次回はがっつり行動経済学の記事を書こうと思います。それでは。


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