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投資銀行という仕事はAIに代替されてしまうのか?

2019年の記事だが、10年後「AIに取られる」仕事ランキングなるものがある。投資銀行が「金融系専門職」だとするならば、21%と割と上位にきている。今回、投資銀行バンカーの仕事を簡単にブレイクダウンした上で、AIに代替されるであろう業務、されないだろう業務を整理した。

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投資銀行の仕事のブレイクダウン

まず、投資銀行における主な業務を以下にピックアップした。筆者の主観で抜粋したものなので、網羅的でない点はご容赦頂きたい。

・投資家向けエクイティ・ストーリー作成
・株式の引受
・様々な提案資料作成
・バリュエーションモデル、キャッシュフローモデル作成
・契約書類、目論見書など書類作成・レビュー
・顧客に応じたアドバイス、戦略面の助言、各種の交渉

投資家向けエクイティ・ストーリー作成

エクイティ・ストーリーとは、公募増資などを実施する時に、投資家に対して会社の良い所や投資家が懸念しそうな事項について分かりやすくデータやイラスト等を用いながら説明する資料のことだ。会社説明資料と似たようなものであるが、記載内容は目論見書から逸脱してはいけないなど、いくつか守るべきルールがある。ロードショー・マテリアルと呼ばれることも多い。

投資銀行バンカーとしては、投資家に受けそうな内容で会社の良さが伝わるようあれこれ頭を悩ませる、まさに腕の見せ所となる。

AIに代替可能かという点で言えば、機械的な作業工程については代替される可能性はあるものの、そもそもの方向性や骨子などは発行体(会社)の意向を汲み取りつつ、投資家側の反応なども想定しながら決めていくことになるため、知恵を絞る部分は代替されることはないだろう。

株式の引受

細かい話はここでは割愛するが、株式などの引受を行うには「金融商品取引業」を行う業者として内閣総理大臣への申請・登録が必要であり、誰でもやっても良い業務ではない。

この点は規制が大きく関係していく部分なので、AIで代替できる作業であったとしても、全てが取って変わられることは現実的ではない。

様々な提案資料作成

投資銀行バンカーとして顧客に対し様々な提案を行っている。たとえば、資金調達戦略、株価向上策、株主還元、買収先/アライアンス先候補企業の選定、投資家に受ける中期経営計画の開示の仕方、買収防衛策やアクティビスト対策、などが一例だ。

これはやみくもに提案をぶつけるのではなく、顧客ニーズに沿った内容にカスタマイズしていく必要があり、「そもそもどんな内容を提案するか?」という点に関しては日頃のバンカーと顧客の関係性や情報量の多寡に左右されるので、AIに代替されることはないだろう。

しかし、実際の資料作成においては、たとえば株価チャートやマーケット関連の指標、調査部隊のレポートなどをまとめる・・・といった機械的な部分も相応にあるので、AIが進歩すればジュニアバンカーが担っていた作業の大部分は代替されてしまうかもしれない。

バリュエーションモデル、キャッシュフローモデル作成

いわゆるモデリングと言われる作業だが、Excelで様々な前提条件を入れながら将来のキャッシュフロー計画を作って資金調達のシミュレーションをしたり、顧客から提出された事業計画を基に、割引率を決めてDCFモデルを作成したり、などなど。

新卒で投資銀行の門を叩くとモデル作成は避けては通れない道だ。ジュニアバンカーとしては「スクラッチ(何もない真っさらなExcelシート)からモデル作成が出来る」点は転職市場でも評価が高いと言われている。

ただ、残念ながらモデリングはほぼAIで自動化されてしまうだろう。既に主要な前提条件をインプットすれば、自動的にシミュレーションをしてくれるような代物はあるし、計算式のミスなどヒューマンエラーが発生する確率もAIに学習させていけば下がるだろう。

一点ポイントとなるのは、M &A案件など守秘義務が発生している状況ではモデリングそのものを外部に見せる訳にも行かず、情報流出は致命的になるため、投資銀行各社がどれだけAIなどのシステム投資を今後していくかによって、代替される時期は変わり得るだろう。

契約書類、目論見書など書類作成・レビュー

これはほぼAIに代替可能である。目論見書とは、公募増資をする際に投資家に配布する数百ページほどの法定開示書類だ。他にも公募増資の際にはプレスリリースや引受契約など50種類ほどの書類を、弁護士などの外部専門家のレビューも交えながら作成していく必要がある。

これまで数多の公募増資事例があること、エクイティ・ストーリーを除いて記載内容は概ね似通っていることから、機械学習がさせやすい作業になる。

関連する書類の整合性チェックなど人間が行うと骨が折れる仕事なのだが、これは投資銀行バンカーの労働環境改善のためにも是非AIによる自動化を期待する。

顧客に応じたアドバイス、戦略面の助言、各種の交渉

主にシニアバンカーが担う業務となるが、顧客ごとに抱えたニーズの汲み取り、業界動向や競合他社の状況をふまえた助言、買収候補先企業マネジメントや相手側アドバイザーとの交渉など、時にはロジックだけでなく感情が入り混じる分野だ。

この点は機械学習でどうにもならない部分であり、AIで代替することは難しいだろう。投資銀行の各バンカーが保有する情報の質の差による所も大きく、過去の統計やデータから導けるものが正解とも限らない。

総論

投資銀行と一口に言っても様々な業務がある中で、私なりの視点で今後AIに代替されるであろう仕事とそうでない仕事を整理してみた。

共通するのはそれが「機械的な作業」なのか、「顧客ニーズに応じて柔軟にカスタマイズしていくもの」か、という点だ。前者はAIにより自動化できるだろうし、後者は時に「感情」という概念が入り込んでくるため、代替は難しい。

役職の観点で見ると、ジュニアバンカーが現在担っている作業の大部分は今後AIに代替される可能性がある。

筆者としては、「じゃあ投資銀行なんて行くのやめた方が良い」と言いたいのではなく、ジュニアバンカーであっても、常に頭を使いながら顧客視点で業務を行っていくことが大切であり、代替されない付加価値のあるバンカーになる近道だということだ。

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