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オムニ化実例③中川政七商店 ミッションドリブン経営とオムニ戦略に学ぼう

おはようございます。ドドル・カンマネ あおけんです。

さて、コロナが長期化する中で、オンラインへのシフトが急激に起こっていますが、数字としてそれを捉えている記事があったのでご紹介。

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eMarketerというサイトの記事ですが、数十億のトランザクション、3.2万以上のブランドのECでの売り上げの傾向を分析したとのことで、その結果、4月の一日の平均売上は前月(3月)と比べて39%増加しているということ。

上のグラフの色分けでいうと黄色が必需品で、黒が必需品でないもの、そしてブルーグレー(?)がNew Essentialsと彼らが定義づけている(パンデミック下で)家の中で心地良く過ごすためのアイテム、例えば、ヘルス&ビューティー系商材、おもちゃ、それと仕事を家でできるようにするアイテム群で、このカテゴリーがやはり一番伸びています。

個人的に思うのは、仕事については、家でできるじゃん、と気づいてしまう状況があちこちで生まれているので、このシフトは止まらず、今後の我々の生活は、仕事は家でやれることは家でやる、必要であれば、オフィスに行く、ということになりそうです。

これによって前の会社では導入されていましたが、固定費の圧縮も兼ねて、人に特定の席を割り振らずフリーアドレスで全員が入れない規模感のオフィスを構える企業が増えるでしょうから、オフィスビルの開発・運営をしているようなビジネスは厳しい局面を迎えるのではないでしょうか。

逆に言うと、東京を筆頭に大都市に集中する理由が薄れるので、ECの物流網さえちゃんとできれば、自律・分散、地方再生へつながる太い流れができたとも言えます。短期的にはたくさんの方が亡くなり、悲劇しかありませんが、中長期的に見たら、行き過ぎた資本主義と環境破壊をコロナが修正する、という変化なのかもしれません。♯神のみぞ知る

さて、次からは昨日に続いてオムニ化の実例をご紹介。今回は、300年以上も前に創業された中川政七商店です。

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他社にマネのできないミッションに寄りそった経営判断

中川政七商店は1716年、享保元年創業。享保と言えば、享保の改革を行ったのが徳川家康のひ孫である吉宗。そんな頃からある会社なんです。

その中川政七商店が脚光を浴びている理由をモチベーションクラウドが行ったセミナーで語っている13代目(!)中川政七社長のお話から探っていきましょう。

まず、2002年から2017年までで売上が4億から52億円、店舗も3から50店舗と10倍以上の成長を実現しています。ベンチャーではなく、300年続く老舗中の老舗が最近の15年で10倍以上ですから、ここは何をやったのか興味深いですね。(※現在ホームページで確認すると店舗数は62まで増えています)

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元の数字が小さかったとも言えるんですが、やっぱりビジョンですね。正直な話、売上目標を立てて、ここまでいくぞ!と進めてきたわけではないので。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンが決まったことが大きかったと思います。ここまで順調に進んでこれたのはやはり、ビジョンがあったからです。

やはりビジョン、ミッションドリブン、大事です。そのビジョン実現のため具体的には2つ、小売業への進出コンサルティング事業を柱にしているということです。なぜ小売業への進出をしたのか、社長は次のように語っています。

工芸に関して言えば、出口(表現の場/売る場)をいかにしてつくるのかというところでした。小売は、簡単に儲かりはしませんが、ブランドとしての認知を確立していくためには、儲かる儲からない以前に、小売はやらざるを得ない
10店舗になった時点で、システム投資ができるようになり小売対応ができるようになり、店長も社員化できた。利益が出るようになったのもこの頃です。一方で、2008年あたりから、業界的に中川政七商店が儲かってるという噂が流れ始めて、小売は儲かるという目論見の元、かなり多くの企業が小売に進出するようになりました。でも、実際は製造業の会社がやって簡単に儲かるものではない。競合他社は結局、1〜2店舗出してみるものの、儲からない実態がわかると小売から撤退して行きました。

ビジネスモデルの2大要素のひとつ、持続的競争優位性の話は以前転職でなぜDoddleを選んだかという記事でも書きましたが、儲かるとわかっても、なぜ他が真似できないのか?という状況をいかに作るがが大事で、この中川政七商店のケースでは、最初は儲からないけどやらざるを得ない、というミッションドリブン思考がそのマネのできないポイントです。一見経済合理性を無視した経営判断だが、そのミッションに忠実にあきらめずに続けた姿勢が成功の扉を開いていることはとても興味深いです。

そして、もうひとつのコンサルティング事業。これも非常に興味深い経営判断がなされています。

この中川政七商店のコンサルティング事業は自分の競合にあたる企業に行っていて、そしてたいして儲からない、と言います。競合に?儲からない??なぜ、そんなことをわざわざするのでしょうか。ここも見事に経済合理性を欠いています。それについて社長はこう語っています。

まさに競合で、一見すると本当に不合理なことをやっていると思います。しかも、相手が年商1億円以下で赤字企業なので、コンサル費用もほぼもらっていないようなものです。例えば、1社目のコンサル費用は15万円/月。金額だけみると全く商売にはならないことが、おわかりいただけると思います。
実際、ピンポイントで費用だけ見れば確かに儲からないですが、工芸の世界はともかく衰退が著しくて、どんどん潰れていっているわけです。厳密に言えば、中川政七商店はファブレスなので、商品をつくってくれる何百という会社さんがいてこそ、商売ができる。
そう考えれば、潰れていく会社を、放っておくわけにはいきません。だから、再生コンサルのような形で入って立て直しを手伝ってきました。ただ、相手の事業が軌道に乗れば、長い目で見て必ず良い効果があります。
例えば、波佐見焼のメーカーさんもそうですし、燕三条の包丁メーカーさんもそうで、彼らがブランドとしてきちんと認知をされて売れるようになれば、彼らの商品を、中川政七商店で扱うことができる。このふたつのメーカーさんは、ほぼ独占といって良いほどの取り扱いを、中川政七商店でさせてもらっていて、売上にもつながっています。競合を再生させるという一見すると不合理なこのコンサルティング事業が、中川政七商店にとってふたつ目のキラーパスです。

ここで言うキラーパスは「ちょっと真似したところで上手くはいかない」という持続的競争優位性についてのコメントですが、このコンサルティング事業も短期的な利益を度外視して、「日本の工芸を元気にする!」というビジョン・ミッションに基づいた経営判断とそれを継続的に実行していくそれこそ職人の仕事に対する誠実さがもたらした果実と言えそうです。

定期的に社長が交代していくような大企業では決してできないこれらの意思決定については敬服しかありません。これまでどんな企業かわかりませんでしたが、社長さんの話を聞いてファンになってしまいました。

それではここからは、連日登場している書籍「実店舗+EC戦略、成功の法則」から、社長さんのもとで中川政七商店のEC戦略を担ってきた緒方氏のお話をもとに同社のEC展開について探ってみたいと思います。

お客様にとって有意義な仕組みを全社一丸で作る

それでは、僕のメッシュに引っかかったポイントを以下つまんでみます。

・12代目の社長の頃は茶道具が売上の7割、赤字だった。13代目は雑貨部門の黒字化を目指し、経理・生産管理などの業務フローを整え、ブランディングに着手。卸から小売に乗り出す。この13代目の一大立て直し劇で生まれ変わった。さながらベンチャーのような雰囲気で、「創業301年目のスタートアップ
・東急ハンズでオムニチャネル推進やデジタルマーケティング全般を行っていた緒方氏が、その13代目に惹かれて入社。業務範囲はEC以外にも、ウェブ広告、SNS、オウンドメディア運営などデジタルマーケティング領域はもちろん、バックエンドとなるサーバや基幹システム、POSまで多岐に渡る
・EC業務で雇われた人でも、まずやるべきは、他部署や店舗の人たちに本気度を伝え「全社を巻き込む」活動。ECはEC部門だけなく、全社で取り組む必要があると感じてもらう必要がある。お客様にとってECはひとつの選択肢であってどこで購入しようが関係ない。会社単位でどう売上を上げていくか、という戦略の中で、お客様にとって有意義な仕組みをどう作っていくかに尽きる。
写真の重要さを改めて感じる。スマホ時代に画面を覆いつくす写真の影響力は非常に大きく、お客様に対するメッセージングはすべて写真で考えるべきなのでは、と思うほど。鍋などは店頭でサラ置きで販売するので、その場で調理した時の良さを伝えるのは不可能、そんなときはウェブサイトの写真や動画を接客で見せ、実店舗のクロージングでも役立てる。
・現在、写真・動画の制作はほとんど社内で内製化商品の良さを一番分かっているのは自分たち。その良さを十二分に伝えるために「どう表現できるか」のコンテンツ制作も内部でやるべき。我々が売っているのは、モノでなくコトなので。

13代目社長の「日本の工芸を元気にする!」という想いは、緒方さんはじめ社員みなさんによる独自オムニ戦略によって着実に前に進んでいるようです。日本人として応援したい会社が見つかったので、今後も継続的にウォッチしていきたいと思います。

ちなみに余談ですが、先日Voicy(ラジオみたいなアプリ)でキンコン西野さんが、IT業界の寵児であるホリエモンが和牛でビジネスを起こしているのを例にとり、これからは起業ではなく寄業、日本の伝統という力に寄生して事業を起こすのが良いのではといっておられました。

今後、人口面だけとっても確実に衰退していく日本にあって、日本市場だけをターゲットにするには中長期的にリスクしかなく、グローバルにいくとしても、GAFA的なプラットフォーム戦で勝てる見込みはゼロに等しく、だとするとグローバルニッチのポジションを狙いにいくのが勝ち筋で、その中で日本がグローバルに勝てるところ、というところで、西野さんは自分が学生ならIT企業を立ち上げるなんてせずに伝統工芸の職人さんに弟子入りすると思うとおっしゃっていたのが、今日の話とリンクしていて面白かったです。

中川政七商店、グローバルニッチとして世界で躍進、あるような気がしてきました。


ということで、本日のお話は以上です。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

それでは、よい一日を。

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