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【Day8〜9】「切ないが前に進むのだ。」

2023年9月23日(土・祝)
24:秋分 72雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)🌓月齢8.1  5:29〜17:38

またなぜかKan Sanoさんが「切ないが前に進むのだ。」とつぶやいていた。「」つきで。
あの知らせを受けてからちょうど一週間がたつ。怒涛の一週間だった。

昨晩よく眠れたおかげだろうか。朝起きた瞬間から「うちのテレビって壁掛けできるんだっけ」と考える。念願のターンテーブル設置のためには、テレビをどうにかせねばならない。
wi-fiの引っ越しってどうするんだ。契約した時のことをまったく覚えていない。
週末の朝目覚めた瞬間から、スマホであらゆることを調べずにいられない。
こうして突如、実務に追われ出した。

しかし日々の家事もある。めちゃくちゃある。
気に入っているクッションカバーはほつれている。買い換えるべきか。
こんな時にブラジャーがへたっている。買い換えなければいけない。引越しと関係ない買い物だって、しなくちゃ生きていけない。

午後、夫がジムに出かけた後、ふと思い立って実家に電話をする。
父にはLINEで、金沢でひとり暮らしするかもしれない、とだけ伝えていた。
いつもと変わらぬ父だが、話していると、どこか噛み合わない。
なんと途中まで、私が「実家に戻る」と思い込んでいたらしいのだ。ひとり暮らし、と、2回くらい言ったのに。
人は80歳もすぎると、なんでも自分の解釈で思い込んでしまうのだと思う。まあ、うちの父がせっかちで早とちりなのかもしれないが。

「何言っとるん? 部屋、自分で借りるよ!? 狭い部屋にうちの家具とか入らんって」
というと、ようやくほっとしたようすだった。
「それはにぎやかになっていいわ。街が近いほうがいいなら、ほら、神田とか、入江のあたりがいいやろ、バスもあるし。線路は越えんほうがいいぞ」と、さっさと私が住むエリアを決めてかかろうとする。

「にぎやかになっていい」この言葉を聞いて、安堵した。
妻たるもの夫に帯同するべきという考えは、特にないようだった。
「ついていこうなんて思うな、あっちで迷惑かけたらどうする」と言われ、ひとりとどまることを肯定されたと同時に、私は夫の仕事にとって、ついていったほうが迷惑な生き物なのだな…とも思う。
別にそれでいいし、もう慣れたけども。

夕方、東京にいる間に会いたいと思っていた友人からLINEがくる。うれしい。再来週は名古屋の友達に会いに行くし(のぞみに乗れるようになる前に東京を去れない、と思って、練習がてら行くことにしたのだ)、なんだか急に友達が増えたみたいだ。でも本当は東京にも金沢にもわずかしかない。東京より狭い世界で、これから作っていければよいのだが。

昼食を食べながら、今度は録画していた、能町みね子さんのネコメンタリーを観る。
彼女は自らの意志で「結婚」的な生活をすることを決断し、そのために行動し、猫を迎え入れ、そしていま、縁もゆかりもないはずの青森との二拠点生活をしている。
いつも自分のやたらと強靭な意思で人生を決め、力を抜いて「自然の流れにまかせる」人生などまるで送れない私には、彼女の生き方がとても共感できる。
私も、なんの確かさも持たずに住む場所を決めようと思う。後悔という概念は、たぶんない。誰だってその時よいと思った人生の決断をするだけだ。

クルマの運転をたまたま練習していたらこうなった。広い部屋に住みたいと何年もアファメーションをしていたら、東京では考えられないような広さの物件にひとりで住めることになった(たぶん)。
物事はしかるべき方向にちゃんと流れたのだから大丈夫だ。だからちゃんと眠れるようになる、と思いたい。

もう夕飯を作りたくなかったので、夫と目黒でロシア料理を食べる。目黒まで10分ほど。私、なんという都会に住んでいるのだ。

2023年9月24日(土・祝)

ここ1か月くらい、やたら「香味」を嗜んでいる。
パクチー、すだち、かぼす、柚子胡椒、キムチ。香りの強いもの、少し刺激のあるものが、どうやら心をいくらかよいほうに刺激してくれるようだ。

夫婦それぞれが別の遠方へ、猫を連れての引っ越し。
脳内でシミュレーションをすればするほど大変そうで気が遠くなってくる。

夫といっしょに猫を連れて先に私が引っ越しをし、夫は東京に戻り、さて、家具が何もない。夫と私の引越しのタイミングはどうなるのか。
かといって、夫を先に送り出して、私がひとりで後で引越す自信もない。猫の搬送を手伝うだけのためにわざわざ金沢を往復してくれそうな人のあてもない。
結婚15年、テレビをはじめ、ちょうど買い替えの機会での引越しだ。これから半年間、比較検討してものを買うことがあまりに多くて、本当にできるのかよ、という気がしてくる。
家で仕事をするならPCなども新調せねばならない。モノ選びの難易度が高すぎる。
わずかな時間にも調べ物をしてしまう。テレビは壁にかけずに、壁寄せスタンドを買ってのせよう。
電動アシストつき自転車は高すぎる。しかしドコモのバイクシェアが金沢には多い。なら普通の自転車を買おう。
など、いちおうは、この一週間でいろいろなことが、ものすごいスピードで、自分の中で決まってはいる。そりゃ疲れるはずだ。
「どうしよう」「やっぱり金沢に戻るか」と岐路に立って考えてから、たったの一週間だぞ。

知人がTwitter(と呼びます)で、真心ブラザーズのある曲を、人生のテーマソングだから、この曲といっしょに歩く、とつぶやいていた。
私にとっての人生のテーマソングは、Elvis Costelloの『London's Brilliant Parade』だ。26歳のとき、この曲とともに英国をひとり歩いたとき、私はどこでもひとりで生きていける、とはっきり思ったのだ。
東京でもロンドンでもない場所だが、行くしかないのだ。


すりガラスのため、網戸にしないと外は見えない。
つぎは外をたくさん見せてあげたい。

エアコンいらずの秋晴れの日、窓辺に置いた新しい、木の香りがするデスクで、このnoteを書く。
3階の東向きの窓から見える羽田方面。この風景と風はやっぱり得難い。
でもね、もういい。
東京でも神奈川でも、好きな場所はたくさんある。
でも、もうさすがに、当分いいやと思う。
この不自由な心と体でも、私はじゅうぶんすぎるほど、東京に生きた。

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