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カップ焼きそばが食べたい②

ペッ!、、、ペリーッッ!!!


フタをめくる鋭い音が台所に響き渡った瞬間、状況は一変した。


隣に住む幸せカップルに、今から私がひとりで晩ごはんにカップ焼きそばを食べようとしているなんて知られたくない。
何とかしてこの忌々しいフタの開封音を黙らせなければ。


カップ焼きそばのフタを対角線に半分めくる辺りがゴールだとすると、現状はまだスタートから3分の1すら進んでいない。
残りをどう乗り切るか。
空腹であまり回らない頭を使って必死に考える。


そうして閃いたのが「音による打ち消し作戦」であった。
これは色んな音を同時に発生させることで、フタの開封音をそれらの音に紛れさせてしまおうというものであり、構図でいえばエロ本をレジに持っていく時に一般雑誌で挟み込むのと同じである。

自分のナイスアイデアに感動しつつ、さっそく思いつくまま手あたり次第に音を立てはじめた。

電子レンジ「ブォオ―――ン」
換気扇「ゴォオ―――」
水道「ビシャ――ッ!」
テレビ「アハハハハー!」
動画「〇〇やってみたー!!」
ハードロック「Hey!!!!〇X?"$'%&&((=XXX―――ッッッッ!!!!!!!!!」


ものの数分で部屋は完全なカオス状態に陥った。
多種多様な音が混ざり合うことで、まさかこれほどの異常性が出てしまうとは。
やらかしておきながら、小心者の私は分かりやすくオロオロした。


もし、普段おとなしく暮らしている隣人の部屋から急に支離滅裂な音が聞こえてきたら?とても恐ろしいだろう。
私は隣のカップルを怯えさせているのかもしれない。
彼らの幸せな日常を脅かしているのかもしれない。


そんなつもりはなかったのに何故こんなことになってしまったんだろう。
私はただ、カップ焼きそばが食べたかっただけなのに。


哀しきモンスターのような暗い気持ちで、改めてカップ焼きそばを手に取った。
色々あってもう取り返しのつかない所まで来てしまったが、何にせよこの忌々しいフタさえめくってしまえば、また元の平穏な日常に戻れるのだ。
これでやっと解放される。


支離滅裂な音が鳴り響く中、ダメ押しでペットボトルの詰まったゴミ袋を片足で激しくこねくり回す。
「グワシャガコガコ!!」
もはや家族にも見せられないような姿で、意を決してカップ焼きそばのフタに指をかけた。

「ブォオ―――ン」「ゴォオ―――」「ビシャ――ッ!」「アハハハハー!」「〇〇やってみたー!!」「Hey!!!!〇X?"$'%&&((=XXX―――ッッッッ!!!!!!!!!」「グワシャガコガコ!!」


ペリリリリリィィィィィィィ―――――――ッッッッッッッ!!!



ぜんっぜん、歯が立たなかった。




【後述】
「隣に住んでいる無職独身一人暮らしの中年女性は、普段おとなしいのに急に様子がおかしくなるヤバい人だ」
隣のカップルにおそらくそんな風に思われてしまったことは、カップ焼きそばを食べようとしていることがバレることよりもずっと大きな痛手となりました。
こんなことなら最初から意味のないプライドなんて捨てるべきだったと思いましたが、食べたカップ焼きそばは全て忘れるほど美味しかったです。

最後まで読んで頂き、どうもありがとうございました。

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