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政教分離と宗教の自由

 こんばんは。今日も一日お疲れさまです。某宗教団体の名誉会長が亡くなり、総理大臣がインターネットに追悼のコメントをして話題になった。官房長官が記者会見で、岸田文雄首相が発表した追悼コメントは、個人として哀悼の意を表するためだったと説明し、政教分離の観点から問題視する指摘があると問われると「公明党創立者である池田氏に対して、個人のSNSアカウントやウェブサイトで弔意を示した」と述べた。宗教団体幹部の死去に伴うコメント発出例として、昨年12月の前ローマ教皇ベネディクト16世逝去時を挙げている。これが政教分離に反するかどうかでSNSで話題になっているので、簡単に政教分離についておさらい。

政教分離の原則

 政教分離の原則は、信教の自由の保障し、民主主義を確立させ、国家の堕落を防止するためといった理由が挙げられます。国家が特定の宗教と結びつくと他の宗教に対して差別が起こる可能性があることや、国家が正しい判断ができなくなるおそれがあるという考え方からきていて、宗教は絶対的価値観によって成り立つものである一方、民主主義は相対的価値観によって成り立つものであり、宗教の価値観と民主主義の価値観は一緒には成り立たないという考え方からきています。政教分離の原則は、制度的保障と言われ直接個人の権利を保障しているものではなくて、政教分離の原則という制度によって間接的に信教の自由を保障しています。

日本国憲法 〔信教の自由〕
第20条
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権 力を行使してはならない。 
② 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第89条
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

日本国憲法

政教分離違反になる場合「目的効果基準」

 国家の行為が政教分離違反であるか否かを判断する際に採用される基準として「目的効果基準」と呼ばれるものがあり、目的と効果の2つに着目して政教分離に反するか反しないかを判断しています。
・その行為の目的が宗教的意義を持つか
・その行為の効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為ではないか
この2つの基準を最初に示したのが「津地鎮祭事件」です。

津地鎮祭事件(最判昭和52.7.13)
【事案】
三重県津市は、市体育館の起工式を神社の地鎮祭に市長は神職への謝礼、供物代金等の費用を市の公金より支出。それを問題視した津市市議会議員は、憲法第20条、第89条違反であるとして、市長に対して損害補填を求める訴訟提起しました。
【争点】
・憲法における「政教分離」の意義とは何か
・憲法第20条3項により禁止されている「宗教的活動」の意義とは何か
・本件起工式が憲法第20条3項により禁止されている「宗教的活動」にあたるか
【結論】
政教分離原則は、制度的保障の規定であり、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しようとしている。政教分離は国家と宗教が関わり合いを持つことを全く許さないとするものではなく、その関わり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らして相当とされる限度を超えた場合に許されないものである。(制度的保障)
行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいう。(目的効果基準)
起工式の目的は専ら世俗的なものであり、その効果は神道を援助、助長、促進し、又は他の宗教に圧迫、干渉を与えるものとはいえないため、憲法第20条3項により禁止される「宗教的活動」にはあたらない。(目的効果基準)

津地鎮祭事件(最判昭和52.7.13)


 津地鎮祭事件の他にも自衛官護国神社合祀事事件、愛媛玉串料事件など多くの政教分離が話題になった裁判があったが、その他についてはまた機会があれば触れていきたいと思う。

他国の政教分離

 「信教の自由は、良心の自由とともに、近代憲法史における精神的自由の基盤をなすものと理解されている。宗教的自由が確立される発端は、宗教改革によって与えられたもとされ、宗教的自由の憲法的保障は各国によって異なった形態をとっている。
 

アメリカ

  アメリカでは宗教の自由が各邦諸憲法典の人権宣言を生み出す大きな原動力になったとされ、1791年に成立したアメリカ合衆国憲法修正 1 条によって「連邦議会は、国教を樹立し、または宗教上の行為を自由に行うことを禁止する法律を制定してはならない」と規定し、政教分離と信教の自由を保障している。

フランス

 フランスにおいて宗教の自由は、1789年の人権宣言10条で認められたが、政教分離の原則については、1905年の政教分離法によって初めて承認された。現行憲法では、「フランスは非宗教的共和国 である」(2 条)として憲法上政教分離が承認されている。

ドイツ

 ドイツでは、1919年のワイマール憲法で「信仰および良心の完全な自由」 ならびに「妨害されることのない宗教的行事の自由」(135 条)を保障し、「国教会は存在しない」(137 条 1 項)として政教分離を定めている。また、 公法上の団体とされる宗教団体は課税権を有する(137 条 6 項)など、一定の権限を宗教団体に認めている。現行のドイツ基本法は、信仰の自由を保護するとともに、政教分離に関するワイマール憲法の規定を構成部分するとしている。

最後に

 政教分離となると「信仰の自由」や「宗教とは何か」といった部分まで触れなくてはならないので、まとまらず…。ただ、日本では神道や仏教を中心に様々な宗教が併存してきています。このような宗教事情のもとで、国や自治体がある特定の宗教と結びつくと、国がその特定の宗教を推しているような状況になるために、その宗教以外を信仰することが困難になることから、政教分離の原則をしっかりと守り、一人一人の信教の自由を確実に保障することが大事です。今回の件は弔意を示しただけなので直ちに特定の宗教を促進するとは思えませんが、国のトップが誤解を招くような行動をしたことは否定できないと思われます。難しいね政教分離。

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