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扉の向こう側

海沿いのレストランでの待ち合わせ。現れた彼女はヒジャブをつけていなかった。イスラム教徒の彼女は普段、宗教上、頭にヒジャブという布を巻いているのだが、今夜は違う。親や知り合いの目がないこの夜の街は彼女を大胆にさせるのだ。

夕食を終えた僕たちはバーストリートへ向かった。

ネオンが夜の街を色づかせ、観光客で賑わっている。両サイドはBARが連なり、客引きが驚く程多い。どこも同じような価格帯のこのこのバーストリートでは、客引きの腕が重要だ。

僕たちはなんとなく気に入った店に入ってみた。彼女は安いからという理由で苦手なビールを頼み、無理して二口ほど飲むと、苦い顔をして「もういらない」と僕に渡す。

この時はまだ知らない。彼女が今夜、今まで見たことのない光景を目の当たりにすることを。

1件、そしてまた1件とBARをはしごしていく。
視界がぼやけ始め、音だけを頼りに次の店を探していると、一風変わった店の前に行き着いた。

店の入り口には煌びやかな装飾と重厚な扉がそびえ立ち、外から中の様子は見えない。「とりあえず中を見てみよう」彼女がそう言うと、僕たちは扉の向こう側へと導かれる。

重厚な扉とカーテン二枚をくぐり抜け見えた光景は、ステージ上、全裸で踊る綺麗なレディーボーイ達。

ふと彼女を見ると、脳に稲妻が走った如く驚愕していたが、それと同時に彼女の胸の中に眠った強い好奇心が露呈する。

彼女は目を輝かし、しばらくショーに夢中になっていた。頼んだリンゴジュースの減りは遅いが、時の経過は早く感じた。

レディーボーイ達は皆、工事済みだ。あそこがない上に胸は自然で、見た目はまさに女性そのものだ。

コンセプトがソフトSMなのか知らないが、時々全裸のレディーボーイがステージの上からガキ使でお馴染みのあのしなる柔らかい棒で体を叩いてくる。客席にも同じ棒が置いてあり、客もレディーボーイを好きなだけ叩けるようだ。欧米人観光客がレディーボーイのケツを楽しそうに叩く姿を見て、イスラム教徒の彼女は失笑していた。

イスラム教徒の彼女にとってこの光景は間違いなくタブーだが、今まであらゆるものを抑圧されてきた彼女の目は輝いていて、自由に近いものを感じているのを僕は隣で強く感じた。

そして帰り道、彼女は呟いた。

「暮らしの中での不自由は一切なく、自身がムスリムであることに誇りを持っている。だけど時々、自由なあなた達が羨ましいわ」と。


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