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数学小話#4〜無限ホテルのパラドックス〜

先日あげた「無限ホテルのパラドックス」についての解答解説になります。まだ見てない方は是非ご覧になってからこのnoteを読むことをオススメします。


もしかしたらこの話自体が「パラドックスなの?」って思っている方に対しての説明からしましょう。

これは部屋の数が有限(限りの有る)のホテルが満室であれば、新しく部屋を用意することが不可能はのに対して、今回の無限ホテルは満室にも関わらず部屋を用意することが可能な点が直感に反する、つまり、パラドックスとなっているのです。

有限のホテルで満室の時に部屋を用意することが不可能なことは、有名な「鳩の巣原理」と呼ばれるものと同値と考えられますね。鳩の巣原理だけでもなかなか面白いので、いつか深堀回で話したいと思います。


本題に戻りましょう。
旅人Xと、Yの為に一部屋準備することが可能になったトリックについて述べていきます。それは支配人Zのアナウンスにあります。

支配人Z「無限ホテルにお泊まりのお客様にお願い申し上げます。ただいまお泊まり頂いている客室番号の次の番号の部屋に、各自移って頂けませんでしょうか?よろしくお願いします。」

と言っていましたね。これを次の関数(写像)と捉えることにしましょう。(そこで、自然数の集合を$${\mathbb{N}=\{1,2,\cdots\}}$$と表すことにします。)
$${f:\mathbb{N}\to\mathbb{N}}$$で$${f(n)=n+1}$$を考えます。
この関数$${f}$$の意味は、客室番号$${n}$$番に泊まっている方は客室番号$${n+1}$$番に部屋を移ってもらうということです。($${n=3}$$の時は、客室番号$${3}$$番に泊まっている方が客室番号$${4(=3+1)}$$番に移ってもらうということになりますね。)
この時、関数$${f}$$は全単射となっているのです。「全単射ってなんだっけ?」となる方もいるでしょう。平たく言うと「一対一対応」している、ということです。(全単射、全射、単射についても、深堀回を設けましょう。ここで話すと、長くなりすぎてしまいそうなので。)
このことから、$${\mathbb{N}\setminus\{1\}(\ni f(n))}$$と$${\mathbb{N}}$$の「要素の数」は一対一対応であることから、等しいと言えますね。従って、客室番号$${1}$$番が空室となり、用意することが可能となりました。
同様の操作を考えれば「有限人」の人に対しても部屋を用意することが可能です。($${m}$$部屋用意する為には、$${g(n)=n+m}$$、つまり客室番号に$${m}$$を加えた部屋に移ってもらうようにアナウンスをすれば良いのです。)

それでは、前回最後に触れた「無限人」の人を新たに泊めるにはどうすれば良いかを考えてみましょう。

$${h:\mathbb{N}\to\mathbb{N}}$$で$${h(n)=2n\in\mathbb{E}\subset\mathbb{N}}$$、つまり客室番号を2倍した部屋に移ってもらうようにアナウンスをすれば良いのです。(ここで、(正の)偶数の集合を$${\mathbb{E}=\{2,4,\cdots\}}$$、(正の)奇数の集合を$${\mathbb{O}=\{1,3,\cdots\}}$$と表すことにします。)
この関数$${h}$$もまた、全単射となっているので$${\mathbb{E}(=\mathbb{N}\setminus\mathbb{O})}$$と$${\mathbb{N}}$$の「要素の数」が一対一対応であることから、等しいと言えますね。従って、客室番号が奇数の部屋(当然、無限個の部屋)が空室となり、用意することが可能となりました。

そこで不思議に思う方も居るかと思われます。
「(正の)偶数と(正の)奇数で自然数なんだから、偶数の「要素の数」は自然数の半分になるのでは。。。?」と。でも、それはやはり間違った直感になるのです。もちろん自然数の有限集合であればその直感は正しいのですが、如何せん、「無限」が関わることが人間の直感と上手く一致していないのです。不思議ですよね。なかなか興味深いと思います。

また、今回の解答解説では自然数や偶数などの無限集合に対して「要素の数」と表現しましたが、正確には「濃度」と呼ばれるものが数学では定義され、議論されます。多少は馴染みやすいのかなと思い、「要素の数」という表現を採用しました。


いかがでしたでしょうか?これはヒルベルトが提唱した、現実味には欠けるものの、無限に対する面白いパラドックスであると思います。今回出てきた関数$${f}$$や$${g}$$や$${h}$$以外にも、全単射な関数を上手く定めることによって「無限人を乗せた無限台の乗客」を新たに泊めることなんてのもできたりするのです。そもそも無限人が乗れるバスがどんな構造になっているのか、無限ホテルよりも気になりますが。。。笑

今後も数学小話をお楽しみにしていてください。


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