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LARPにおける体験、そしてライブアクションとは

■そもそも「体験型」では何を体験するのか

 僕は体験型コンテンツを作成している。体験型コンテンツと一口に言っても脱出ゲームや謎解き、イマーシブシアターなど、幅広いエンタメが包括されているのだが、僕はLARP(ラープ。ライブアクションRPG)という遊びを中心に活動している人間だ。
 LARPとはつまり何であるか、といったことを語る前に、まずは大元である『体験型コンテンツ』という言葉について少し考えてみたい。そもそも『体験型コンテンツ』とは一体何を体験するものなのか?

 最初にまず答えを出すとするなら、これは「物語の体験」であると言っていいだろう。
 どのような体験型コンテンツであれ、参加者は「物語」を体験する。実際物語の中に参加者を取り込んでしまう構造のものもあれば、参加者は物語の始まりから終わりまでをただ傍観するタイプのものもある。どちらだったにせよ、参加者には何らかの「物語」が提供されることになるのだ。

 「物語」とは特定の人や物、場所、もしくは出来事について、その側面ないし全体を表現するもののことを言う。
 
「物語を体験する」とはつまり、普段ならば触れることのできなかった何かの由来や成り立ち、歴史に触れることだ。

 非常にわかりにくかったと思うので、『エイリアン』という映画を例にしよう。
 宇宙船ノストロモ号の乗組員達は、船内に侵入した謎の生物に襲撃される。次々犠牲になる乗組員達の恐怖と恐慌、ヒロインがついにエイリアンを撃退したときの解放感。自分が宇宙船に乗っているわけではないが、そこで繰り広げられる「物語」に触れることで、あなた自身もまたハラハラドキドキする──これが「物語を体験する」ということだ。

■体験型コンテンツの深み

 映画や演劇も、もちろん体験型コンテンツの一つだ。
 だが現在僕達が「体験型コンテンツ」という言葉を用いるとき、映画や演劇とはまた少し異なった味わいのコンテンツを指すことが多い。具体的には謎解きや脱出ゲーム、マーダーミステリー、TRPGやイマーシブシアター(これも演劇の一つではあるのだが、敢えてここでは区分している)、ARGなどを指すことが多くなる。
 では映画や演劇と、僕達が言うところの「体験型コンテンツ」の間にはどんな差異があるのか。

 もちろん、様々な違いはある。だが敢えて言うなら「当事者性の存在」が最大の差異だろうというのが、僕の(今のところの)見解だ。
 ここで言う当事者性とは、平たく言えば「あなたがいてくれてよかった」という祝福を意味した言葉だ。たとえ参加者が百人いようが千人いようが、「あなたがいてくれたから今回の物語は完成した」と伝えられるような、そんな余地のあるものを、僕達は好んで「体験型コンテンツ」と呼称している。

 僕達は物語をただ受け取るのも大好きだが、参加するのはもっと好きだ。いつだって自分のものではない物語に参加し、その行く末に関与したいと願っている。これはもう人間の本能みたいなもので、制御したり操作したりできるようなものではない。
 遠い国で起きた悲惨な事故のニュースを見れば悲しくなるし、パンダの赤ちゃんが生まれたと聞けば思わずニッコリしてしまう。自分には何の関係もない誰かの「物語」に、僕達の感情はどこまでも揺り動かされる。
 その「感情の振幅」をわかりやすい形でまとめ上げ、娯楽として楽しめるように工夫したものこそ「体験型コンテンツ」なのだ。

 物語は見聞きするだけでも勿論楽しい。
 だが、参加できたらもっと楽しい。
 昨今言われるところの「体験型コンテンツ」は、この「楽しい」をうまく取り入れて作られており、多くはゲーム的な要素を持ち合わせている。
 制限時間があり、一定のタイムラインに沿って物語が進行し、参加者は様々なものに干渉(インタラクト)することで物語の経過や結果を左右する。大概の場合においてコンテンツのスタート直後、物語は穴あき状態だ──情報は分散し、その収集と整理が参加者に任せられる。
 映画や演劇であれば、脚本の流れを観客が操作することはできない。だが体験型コンテンツにおいて、観客は自分の見たい物語を選択する権利を有している。

 提供側が用意した物語をただ傍観するのではなく、参加者が登場人物の一人として振る舞うことも、体験型コンテンツの特徴と言えるだろう。その結果として、参加者ごとの物語が完成する──他の誰かと同じ作品を遊んだとしても、「自分が参加したときだけの体験」を得ることができるのだ。
 これこそが前述した「当事者性の存在」「あなたがいてくれたから、今日このような結末を迎えることができました」という物語からの祝福であり、体験型の深み──あるいはキモの部分と言える。

■なぜLARPなのか

 LARP──ライブアクションRPGは、体験型コンテンツの一つだ。最も近いものはTRPGだろう。多くに固有のシナリオが存在し、参加者はシナリオごとの世界観に沿って登場人物を演じる(サバゲー的要素が主体のコンバットLARPというものも存在しているが、本稿では触れない)。
 画像検索をすれば、特に海外でのプレイ風景が多くヒットするだろう。鎧やローブを着て、実際の森や城を冒険している画像が見つかるはずだ。国内ではこういったファンタジーな世界観で楽しむLARPの他、クトゥルフ神話TRPGのような現代ホラーを題材としたLARPも開催されている(一応「ノルディックLARP」と呼ばれる教育・学術系のLARPも存在してはいるが、一般の顧客がこれに触れる機会は現状ほぼ皆無だ)。

 ここで「ファンタジーやホラーなら、TRPGや他の体験型コンテンツでも十分楽しめるよ」と思う方もいるだろう。
 まったくもってその通りだ。
 だが僕はLARPを、ライブアクションRPGという遊び提供している。そして、多くの人にこの楽しさを知って欲しいと願っている。ならば、LARPを選択する理由も提示しなければならない。

 なぜLARPを選ぶのか?
 実際の身体を動かしてキーアイテムを操作するなど、身体性の高い体験は、確かにLARPの強みと言えるだろう。だが謎解きや脱出ゲームにもこの要素は含まれている。
 マーダーミステリーは今や爆発的な人気を獲得しつつあり、TRPGもかつての不遇が嘘のように隆盛を極めている状況だ(最近始めた人にはわからないかもしれないが、TRPGには冬の時代があったのだ)。イマーシブシアターも最近は多く作られるようになってきた。『PROJECT;COLD』や『神椿市建造中』のように、企業が本腰を入れて開発したARGもある。
 それらでは駄目なのか。
 なぜLARPなのか──LARPの強みとは何か、そもそもライブアクションとは何なのか。様々な体験型コンテンツと比較したときに、LARPにはどんな違いがあるのだろうか?

 上述したとおり、生身の体を動かすことは、決してLARPの特権ではない。特定のエリア内に配置された、多数のアイテムに干渉することも。それらは脱出ゲームにおいて基本中の基本、ゲームデザインの核となる部分だ。
 シナリオを通して情報が分散し、それらを収集することで全体の輪郭を浮かび上がらせる手法は、謎解きで広く用いられている。
 キャラクターを演じることはマダミスやTRPGでごく普通に行われているし、物語の分岐は最近のゲームならば当然のように実装されているだろう。Netflixでは物語選択式の映像作品すら配信されている時代だ。
 音楽や映像を用いた視覚(聴覚)効果は、2.5次元舞台において目を見張るような進化を遂げた。映画館もただ見るだけではなく、4DXなど五感体験を提供するようになっている。
 ARGはTwitterやDiscord、YouTubeなどオンライン環境の整備と発達により、多くの人間を巻き込み長期間開催することが可能になった。
 近年、体験型コンテンツは大幅にアップグレードされ続けているのだ。

■LARPならではの強みとは──際立つのは「主体性」である

 こう見ると、LARPだけの強みなど存在しないかのように思える。
 物語の登場人物となり、他の参加者やキャスト(スタッフやNPC──ノン・プレイヤー・キャラクターの略──など、呼び方は様々だが)と交流しながらシナリオを進行させるというゲーム形態も特徴的ではあるものの、LARPだけに許された特権ではない。むしろ他の体験型コンテンツは、それらの要素を積極的に取り入れつつある。
 では、わざわざLARPを選ぶ意味は存在しないのか。
 LARPは他の体験型コンテンツの廉価版でしかないのか。
 答えは否だ。僕がLARPイベントの制作者だから言っているわけではない。参加者としても、LARPを選択する意味と価値はある。

 では、他の体験型コンテンツと比較して、LARPならではの強みとは何か。
 僕が考えるに、恐らくは「主体性」だ。

 ここで言う主体性とは何か?
 体験型コンテンツにおいて、僕達は物語における登場人物の一人となる。端役だったり主役だったり、それはコンテンツごとに様々だ。とはいえ基本的には「主人公」としての役割を振られることが多い──イマーシブシアターなど、一部のコンテンツではあくまでキャストが「主人公」であり、参加者は「その他の登場人物」を務めているが。
 しかしそれらのコンテンツにおいて、「主人公」が持ち得る権限は意外なほどに少ない。用意された物語のルートを辿り、規定のエンディングを迎えることになる。もちろんルートもエンディングも複数用意されているが、あくまで制作者側が用意したものだ。
 誤解を招かないように言っておくが、これは当然のことであって、決して欠点ではない。構造的にそうなるというだけの話だ。

 だがLARPにおいて、参加者達は極めて豊富な──ときに物語の根幹さえも揺るがしかねないほどの──権限を許される。シナリオを用意されはするが、参加者達の行動によって、様々な展開が生まれる。この展開は規定のものもあるが、その場でGM(ゲームマスター。イベントにおける裁定者、司会のようなもの)がアドリブで作成することもある。参加者達が自由に行動するが故に、用意したシナリオを飛び越えてしまう可能性があるのだ。
 エンディングさえ、参加者によって大幅に変化してしまう。ある意味で、LARPの参加者はゲームプレイヤーでありながら、物語に対して極めて主体的な立場──言ってしまえばシナリオライターの立ち位置を許されるのだ。もちろんそれなりの制限はあるし、何もかも無軌道に振る舞えるわけではないけれど、行動の幅は他の体験型コンテンツと比較しても驚くほどに広いと言える。

 TRPGにもこの主体性は存在する。参加者はシナリオに沿った様々な出来事を体験する一方、全く予期しなかった展開に巻き込まれることもある。
 LARPとTRPGにおける最大の差異は、大規模な群像劇型のシナリオによって顕在化する。
 TRPGでは、GMを入れても大抵5~6人で遊ぶことが多い。CoCではタイマンシナリオと呼ばれる、GMと参加者が1対1になるようなシナリオもよく遊ばれている。
 対してLARPはGMだけでも5~6人、参加者は20人以上になるようなシナリオがある。どころか、海外の大規模イベントでは千人規模のものも存在するのだ。
 それだけの人数が、各々の物語を紡ぎ、イベント全体の行く末を左右することができる。この極めて高い主体性こそ、LARPの強みと言えるだろう(同時にLARPの弱点でもある──この話はまた別の機会に持ち越すが)。

 少し補足しておくけれど、GM1人、プレイヤー5~6人のLARPも当然存在している。そのような小規模のLARPにあっても、独自の主体性は保たれている──参加者の自由度を担保するものこそ、「ライブアクション」とわざわざ銘打たれている要素だ。

■ライブアクションとは──身体で「演じる」意味

 ライブアクションRPGにおける「ライブアクション」とは何か。
 一般に、LARPは身体を伴う遊びだ。深い暗闇や謎の囁き、水の冷たさや暖炉のぬくもり、石床の硬さなど、五感を刺激する仕掛けが施されている。
 更には「本を読む」「手紙を書く」「手足を動かす」「呪文を唱える」「液体を混ぜ合わせる」など、様々な動作を参加者に求める。
 これら一つ一つは、決して目新しい要素ではない。むしろ僕達が普段の生活でも感じていることだ──同時に普通すぎてスルーしていることでもある。
 この「普通すぎてスルーしていること」に改めてスポットライトを当て、新鮮な身体感覚を呼び起こすことこそ、「ライブアクション」と呼ばれる要素が果たす重要な役割だ。

 LARPとTRPGにおける最大の差異もここにある。
 TRPGにおいて「参加者(プレイヤー)」は「物語の登場人物(キャラクター)」を演じる。このとき、プレイヤーとキャラクターの間には明確な隔たりがある。
 だがLARPにおいて、この隔たりは極めて薄いものになる。もちろんLARPにおいても「プレイヤー」は「キャラクター」を演じるし、別人として振る舞うことになるのだが、LARPは実際の身体感覚を伴う遊びである以上、どうしても「プレイヤー」自身の感覚が強く表に出てくるのだ。
 わかりやすく刺激を受けることができる、と言い換えてもいい。
 
TRPGにおいて洞窟を探検する際、湿気や冷気はあくまで頭で想像するものだ。だがLARPでは本当に洞窟に行って、寒かったりじめじめしていたり、なんだか気持ちの悪い生き物が蠢いていたり、そういった刺激を受けることができる。

 これも誤解されたくないので言っておくが、LARPと比較してTRPGにはリアリティがないとか、そういうことを言いたいわけではない。「ゴムボールは柔らかいけど鉄球は硬い」ぐらい単純な、構造の違いでしかない。
 そしてこの構造の違いは、LARPの弱点でもある──はっきり言ってLARPは準備コストの高さが尋常じゃないのだ。先程僕は「洞窟に行く」と簡単に言ったが、日本で洞窟遊びなどしようものなら、どれだけの事前準備が必要になるか。安全対策、使用許可、移動コスト(費用と時間)、スタッフを用意するならその人件費……まだまだ他にもあるだろう。
 TRPGならば洞窟だろうが、溶岩の流れ落ちる火山だろうが、不気味な飛行船だろうが、場面設定は自由自在だ。参加者の想像力が羽ばたく限り、どんな世界でも目の前に出現させることができる。

 LARPイベントにおいて実際に洞窟を訪れるのが困難ならば、TRPGのように想像の力を借りる? 良いアイディアだろう。体育館の照明を落とせば、そこを洞窟にすることは十分可能だ。公民館の一部屋が魔王の城になることもある。
 別の解決方法も考えられる。たとえば屋内にセットを組むことで、凄まじいリアリティを確保することが可能だ。
 これは非常に有効な手段と言える。実際、脱出ゲームでは大規模なセットを組んでスパイ体験をしたり、殺人鬼の潜む廃屋から逃げ出したりするような、ハイクオリティなイベントが国内にも複数存在しているのだ。大阪ならばstudio escapeが、東京ならばオバケンが有名だろう。
 ……ちなみに。
 この手法に関しては、「予算が許すならば」という世知辛い前提条件があることを、決して忘れるわけにはいかない。

 ここで突然手前味噌の話になるが、2022年1月、僕はStage LARP(ステージラープ)という、劇場を使用したLARPを企画した。複数の演劇団体をお呼びして、役者さんにLARPをプレイしてもらい、その様子を観客に見てもらうという主旨の企画だ。
 わかりやすく言えば、LARPのリプレイ動画にしたかった。
 結果はどうだったか。
 成功だったと思う。
 ……だがまあ、うん、余分な臓器の一個か二個は捧げるか……となったのは記憶に新しい。合同会社舞台裏さんには本当に迷惑をかけた。リアリティはクオリティと直結するが、同時にイベントとしての採算性とはトレードオフの関係なのだ(長期間セットを使い続けるならいずれ利益を出せるので、これもまた一概には言えないのだけど)。

 閑話休題。
 ともあれ、LARPにおいて「身体感覚」は非常に重要な要素だ。
 参加者は自身の肌で感じたことをゲームに反映させ、物語を作り上げていく。当日の天気や気温、着ている服、時間帯による明るさの違い──様々な条件によって物語は自由に分岐し、変化していく。
 盛り上がった雰囲気、追い詰められた緊張感、クライマックスの高潮。イベントとしての熱気をダイレクトに感じることができる楽しさと、極めて高い物語の自由度。この両立こそLARPの醍醐味であり、身体を使ってキャラクターを演じる意味だろうと思う。
 自分でありながら、自分ではない「物語の登場人物」。彼(彼女)の感動を、参加者自身もまた肌で味わうことができるのだ。僕達が言う「没入感」とは、つまりこのようなものではないだろうか。

 ちなみに。
 一応言っておくが、オンラインでもLARPは行われている。僕も主催していた。何なら一年近く、24時間稼働のオンラインLARPをやってみた。結果として「なりきりチャットやTRPGのオンラインセッションと、大きくは変わらない」という結論に至った。VRも同様だ(何なら「普通にVRでTRPGをやればいいのでは」とも思った)。身体性を伴うLARPほど、他の体験型コンテンツとの違いを大きくはできなかったというのが正直なところだ。
 単純に僕の実力、発想力不足という可能性もあるので、今後も追求していきたいところではあるけれど。

■最後に

 LARPはそれ独自の楽しみを持つというより、複数の体験型コンテンツを横断するような楽しみを有する遊びだ。
 強い没入感と共に、物語を体験する楽しさ。この感覚は、一度プレイしてみなければなかなか伝わりにくい。

 自分と近く、けれど決定的に異なるキャラクターを演じながら他者と交流することは、それだけで楽しいものだ。コミュニケーションゲームが愛される由縁でもある。
 人間は本来、コミュニケーションに快楽を覚える生き物だ。これは僕達が生まれる遙か以前、言葉も社会もなく、小規模の集団を形成しながら生きていた頃から変わらない。貨幣もない時代から、僕達はモノと言葉をやり取りしてきたのだから。
 実際の身体性を伴った交流を持ち、他者の物語に深く関与し、ときにその物語を自由に生成することさえ可能となる遊びは、現状そう多くない。いずれ増えてくるかもしれないから迂闊なことは言わないけれど、LARPは今その楽しみを味わうことができる遊びだとは言っておこう。

 ただ、ここまで言っておいて申し訳なくはあるのだけど、今現在国内でLARPを遊ぶことは難しい。
 身体性を伴う遊びである以上(そして人同士の関わり合いを重視する遊びである以上)、コロナ禍の影響は恐ろしいほどに強かった。イベント数は激減し、参加機会の低下には目を覆いたくなるものがある。
 だが少しずつ各団体が動き出し、新たなイベントを開催する流れが始まろうとしている。もしどこかでLARPの文字を見かけたら、是非ともそのイベントに飛び込んでみて欲しい。まだまだ荒削りながら、他の体験型コンテンツとはまた違った楽しみが、きっとそこにはあるはずだから。



文・佐賀屋火花
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