睡眠薬日記7

睡眠薬を飲んだ。

俺の血のことを考えた。血は鉄の味がする。
俺の血には鋼を用いた身体の親父の血が流れている。俺の血には逆境の最中で鉄工として働いた祖父の血が流れている。俺の血にはローマ教皇に異端とされたナザレン教団をそれでも信じる祖母の血が流れている。
俺の血にはパーキンソン病の母の血が流れている。俺の血には草刈機の刃を薄着で磨き火花を浴びる祖父の血が流れている。俺の血には鉄の骨格を持った祖母の血が流れている。
俺の血には修理工の血が流れている。俺の血には頑固で厳しい戰時工場員の血が流れている。俺の血には結核で死んだ大叔父の血が流れている。
俺の血には癌で早死した大叔父の血が流れている。俺の血には体格の良い島根の漁師の血が流れている。

俺と血を分けた兄弟は努力の才能を持った堅牢な血を持っている。
俺と血を分けた兄弟は機運を読んで自らを保つ才能の血を持っている。

俺の血を分けない兄弟は友を作るのに長けている。
俺の血を分けない兄弟は歴史の中に自らを見出し価値を作る力がある。

俺の血は鉄血で、忠義で、敬虔で、暴力的で、不健康で、健全で、堅牢で、厳格で、謀略で、実直だ。

俺の血は真っ直ぐには流れない。交わり、離れながらとめどなく流れる。

どこまで行っても俺の血は鉄の味がする。