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テオ

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真夏の日本、とある町が舞台の小説です。
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【小説】『テオ』第5話

【小説】『テオ』第5話

 俺は思わず、息を呑んだ。
 その絵に描かれている人物は、テオそのものだった。
「あいつが、絵から抜け出してきてたってことか……?」
 とてもにわかには信じられないが、テオが絵の中の人物だと考えると、全ての違和感に納得がいくのだ。住所や電話番号を教えてくれなかったのも、小学生のままの姿を目撃されていたのも、長袖のシャツを着ているのに暑がる素振りを見せなかったのも、全て。
「……そういうことになるね

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【小説】『テオ』第4話

【小説】『テオ』第4話

 しばらくして、インターホンの音が響いた。
「はーい」
 竹村が玄関に向かう。そして戻ってきた彼の後ろには、一人の女性の姿があった。
 黒い髪を肩の辺りで切り揃え、白い半袖のブラウスにベージュのスカートを身につけたその女性は、居間を見回して目を輝かせていた。
「うわぁ、凄いねここ! 雰囲気あるなぁ……あ、どーもどーも。お邪魔しまーす」
 女性は俺たちにぺこりと一礼した。
「こちら、急遽来ていただい

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【小説】『テオ』第3話

【小説】『テオ』第3話

 井田の家は、文具店がある通りの裏道をいくつか曲がった先に佇んでいた。二階建ての日本家屋で、築地塀と黒っぽい瓦屋根、そして敷地内にそびえる大きな松の木が重厚な雰囲気を醸し出している。ここに来るのが久々なせいか、知っているはずのその外観に思わず息を呑んでしまった。
「やっぱりすげぇな。築何年?」
「うーん……たぶん、70年は経ってると思う」
「新しくしないの?」
「ところどころ業者さんに頼んでリフォ

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【小説】『テオ』第2話

【小説】『テオ』第2話

 二日後の午前十時。蝉の声が響くなか、俺たちは母校である露原小学校の校門前で集まった。当時小学生だった俺たちが初めてテオと出会い、知り合ったのもこの場所だ。
「テオが初めてここに来た時びっくりしたよな。いきなり話しかけられたもんな……僕も一緒に混ぜて欲しいって」
「あいつ、気がついたらその場にいるんだよな。そんでその後、みんなで近くの公園行って遊んだりしてさ」
「そうだっけ? 二人ともよく覚えてる

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【小説】『テオ』第1話

【小説】『テオ』第1話

 八月某日、午後八時。自分の部屋を掃除していると、本棚の奥から小学校の卒業アルバムが出てきた。うわ懐かし、と呟いて、俺は思わずページをめくってしまった。
(確か俺は……二組だったな。ああそうだ、竹村も同じクラスだったんだ)
 自分の顔写真が載ったページの中に親友の笑顔を見つけ、自然と口元が緩む。
 小学生の頃、俺は友達とよく一緒に遊んでいた。住所や電話番号を教え合って、夏休みになるとお互いの家に遊

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