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「自然の中で気持ち良く過ごせる人になりたい」という思いが、都会暮らしの私をキャンプにハマらせた

初めてのキャンプは、友人家族に誘われてのグルキャン。しかも常設テント&夕食BBQ・朝食ビュッフェ付きという、いわゆるグランピングだった。

手持ちのギアは、夫が学生時代から持ち続けてきた、カビ臭い一人用の寝袋ひとつ。なぜこんなものを持っていたのかと聞くと、一人暮らしを始めた当初、ベッド代わりにしていたからとのこと。まさかの室内用だったようだ。

寝袋さんよ、十年以上の時を経て、ついに本来の役目をまっとうするときがやってきたよ。年季の入りすぎに不安を感じたが、持ち主が自分で使うと言っているから良しとしよう。

子どもと私が使用する寝袋は、ホームセンターで購入。ついでに、セールで格安になっていたビーチチェア2脚と、ウォーターサーバーも手に入れた。

最後にLEDランタンふたつをアマゾンでポチッと注文し、3年前のGW、我が家はキャンプデビューを果たした。

夫婦ともども、登山やハイキングなどを嗜む家庭で育ってきたが、テント泊の経験はなかった。けれども夫には、若いころの室内寝袋生活の思い出がある。「寝袋にくるまってりゃ眠れるでしょ」と、楽観的に構えていた。

一方、当時の私は、「鍵もなく、チャックで簡単に開閉できる布製の物体の中で、安心して寝ていいんですかね?」とか、「風がビュービュー唸ってますけど、このテント潰れませんかね?」とかで、いちいちナーバスになってしまうシティーガール。

友人たちと過ごす時間は楽しかったが、各家庭のテントに戻り、夫も子どもも寝静まると、ちょっとした風の音や、テントの横を通る人の声、ランタンの光などが気にかかり、眠りに落ちるには相当の時間を要した。


翌朝、元気に早起きした子どもたちにつつかれて起きた。多分、深くは眠れなかった。まだ横になっていたいけど、子どもたちは一刻も早くテントから出たがっている。渋々テントのチャックを上げた。

すると、朝日に照らされた、一面の緑が目に飛び込んできた。広くなだらかな丘に生い茂った、新緑の草木の眩さに心を奪われる。昨夜、怯えた外の闇は、こんなにも清々しく、気持ちの良い場所だったのか。

周囲のテントの住人も、皆、思い思いに朝日と戯れていた。のんびりコーヒーを飲んだり、飼い犬と遊んだり、早朝の虫探しに真剣な子どももいたり。

いいなぁ、と思った。

自然の中で、私もそんなふうに過ごしてみたい。

感じていた警戒心は、自然の中での振る舞いや、過ごし方を知らないことへの怯えであると気づいた。

キャンプは、自然と人間を守るルールに沿って行うものだ。立てる位置を事前に検討しておけば、テント内のプライバシーは保たれる。風の音に耳を澄ませれば、音の鳴り方や吹く方向から、危険の有無も判別できる。

都会暮らしでは培わなかった営みに身を置き、キャンプの流儀を一つひとつ知っていくことで、自然のダイナミズムを恐れるのではなく、心地良く感じる自分になれるのかもしれない。

緑に透過された朝日の美しさ、絶えることのないせせらぎの音、雄大な山並み、大きくひらけた空を多彩に変化させるマジックアワー、満天の星空。

あらゆる姿を見せる自然の美しい情景に出会うには、自然を知ろうとする心と、楽しむための適切な準備が必要であると知った、キャンプデビューであった。

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その後、テント、タープ、クーラーボックスと、少しずつギアを揃え、フリーサイトデビューを迎えたのは1年後のGW。それ以来、山、川、湖、牧場と、さまざま足を延ばしてきた。

いまだに初心者ギアで凌いでいるので、無理のないよう時期や場所をしっかり選んで行くのだが、天候への対処にはよく「しまった」がある。

今夏は、台風の合間を縫って山に行った。台風なので雨対策に気を取られていたら、風対策が疎かになっており、深夜にタープは倒れるわ、テントは盛大にしなるわ。今やテントでグッスリな私も、久々に眠れなかった。

「電源サイト」という存在を知らないままに、テント内気温3度の北軽井沢で、暖房器具もなく、修行のような2泊3日を過ごしたとき以来だ。帰宅後、つらい環境から開放された私と次男が発熱したのは、忘れられない思い出。

あのときはありったけのカイロを身につけ、次男を抱きしめ、キンと冷えた静かな夜が終わるのをじっと待っていたっけ。隣を見ると、体温高めな夫&長男は、例の寝袋さんに包まれてグーグー寝ているもんだから、なんだか頼もしいなと思ったのも懐かしい。

だが、今回は、四方八方から来る風の轟音と、命があるかのようにしなるテントを見上げて、さすがの夫も気が休まらず、眠れなかったようだ。

ちなみに長男は、朝までスヤスヤ。鈍感力、頼もしい限り。


天気が回復した朝。

奇しくも、キャンプデビューの日に抱いたのと、同じ思いに駆られた。

朝日に光る美しい木々。煌めく水面。恐れ慄いた夜が嘘かのように、自然は穏やかな姿で佇んでいた。

キャンプ

自然とは、不思議なものだ。「畏敬の念」という言葉がピッタリだなと思う。人は求めるものは何でも手中に収めて、コントロールしたがるけど、自然だけはそうはいかないぞと、身をもって思わされている。

この考えというのは、「日本的アウトドアの実践」であるらしい。私の自然観は、日本人の自然観であると、学ばせていただきました。

キャンプの楽しみ方が、自らの在り方や、日本人の性向にまで及んでいたなんて驚きである。なんて奥深いのだろう。だからこそ、何度も向き合いたくなって、何度もキャンプへ行きたくなるのかもしれない。

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ところで、最近のキャンプの盛り上がりは、「おしゃれ」というブランディングも大いに影響してそうだ。ギアのかっこいいデザインが、所有欲を掻き立ててしまうのもわかる。

でも結局、我が家の第一線で活躍しているのは、最初にホームセンターで購入したものたちだったりする。

セール品のビーチチェアは、トランクの場所をとるのが悩みのタネだが、破れないし、強風にも煽られないし、追加購入したおしゃれなヘリノックスより使い勝手が良くて手放せない。

同じくセール品のウォーターサーバーも、コンパクトにならないのは不満が残るが、部活用で保冷力が高く、湧水を汲める場所では最高なのだ。

良いものは大切に使い続け、必要と感じた装備を足していくという作業も、本質的な自然の営みに触れているような気がする。

道具を自ら生み出してしまう上級者の方もいらっしゃるが、初心者キャンパーはまだまだその域には到達しない。徐々に知って、倣いながら楽しんでいけたらというのが、今後の目標である。

ちなみに、二十年選手になりかけている寝袋さんは、我が家のキャンプの歴史を知る生き字引として、まだまだ活躍するようである。スゴイ。


長男の通塾や、次男のサッカーチーム入団によって、日程調整が難しくなっているのが寂しいところ。行けるタイミングを逃さないよう、私は家族のスケジュールにいつも目を光らせている。

あー、早くキャンプ行きたい。

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