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【読書感想文】『四畳半タイムマシンブルース』

四畳半タイムマシンブルースという面白い小説を読んだので、簡単な感想を書いてみる。

タイムマシンなのに、出かけて行ったのは「今日」と「昨日」だけ。時空間的に狭い四畳半世界を、想像力を膨らませて面白おかしく描くのが、森見登美彦氏の作品における最大の魅力であると思う。

話は、8月中旬の夏休み。古いアパートに住む大学3年生の主人公(=私)の部屋にあるクーラーのリモコンが悪友のこぼしたコーラによって、故障してしまうことから物語が始まる。そこで、突如として現れたタイムマシンを使って「昨日」からリモコンを取りに行こうと画策するが、それでは歴史を改変しかねない。つじつま合わせに翻弄される主人公たちのコミカルな動きに思わずほくそ笑んでしまう。

昨今の大学生が四畳半でこもっていたりすると、時間を無駄に浪費しているとしてバッシングされがちである。しかし、筆者は作中に出てくる「腐れ大学生」を軽蔑の対象ではなく、羨望の眼差しで見てしまったことに、時代や価値観の変化を感じた。一般の大学三年生なら夏休み期間中はインターンシップなど就職活動を始める人が多いはずだからだ。

おそらく、これからの大学は企業からの要請に対して有益な人材を育てるべく、「就職予備校」としての機能に拍車をかけるだろう。無益な四畳半的生活に胡坐をかいている大学生は、周りから取り残され、異端児扱いを受けることになりかねない。しかし、これからの時代には、周りのスピードについていく能力だけではなく、あえてその場で逆らったり、とんでもない方向に行ったりする能力も重要ではなかろうか。やりたいことができている人を羨望の眼差しで眺めるのは大学生活においてひどく虚しい。進むべきやるべき道があったら、その気持ちをとどまらせておくのはもったいないだろう。ただ、それは四畳半の範疇を超えているかもしれないが。(777字)

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