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人間的な無表情の方が断然信頼できる。

ベトナム・タンソンニャット国際空港の入国審査は、いつ行っても長蛇の行列ができている。けれど、いざ自分の番になると、早い。チラッとパスポートを確認して、なにやらPCに打ち込んでいるのが終わったら、あっという間に終わり。"ねぇねぇ、もうちょいと相手してよー、寂しいじゃん。"と思わず言っちゃいそうなほど早い。世界最強と言われる日本のパスポートを持っていること、日本人であることに感謝する瞬間だ。

空港の入り口をくぐると、そこはホーチミン・シティ。

前回のnoteにも書いた東南アジア独特のフルーツの発酵したような匂いや、排気ガスの匂いがツンッと鼻をつく。そして、軽やかに、あちらこちらで響きわたるクラクションの音を耳にして、ベトナムにまた来れたんだなぁ、としみじみと感慨深く浸り、そして一気にボルテージが上がる瞬間だ。

ホーチミンシティには地下鉄などの電車がないので、街の中心地まではタクシーで行くことになる。外国人にとって(僕たちにとって)、外国でのタクシーというのはなかなか緊張するのもの。僕もやはり気が張ってしまう瞬間だ。海外旅行あるあるだとは思うけれど、外国人客にはメーターを回してくれなかったり、余計なお金を請求されたりといろんな嫌な目に合うこと可能性が高まる時間だからだ。もちろん、ボラれるといったって、そんなに大したお金ではないのだけれど、ボラれたという事実にどうしたって傷ついてしまうし、嫌な気持ちになってしまう。そんな状態はできるだけ避けたいという一心から、どうしてもその時だけは疑心暗鬼にタクシーに乗ることになる。もちろん誠実なドライバーさんがほとんどなわけだから、僕のそんな"姿勢"というのは失礼極まりないのだけれど、でも同時に自分達も守らなければならないこともまた事実なのだ。

今回は安心度の高い二大タクシー会社であるVina Sun Taxi(ビナサンタクシー)とMai Linh Taxi(マイリンタクシー)のうちのビナサンに乗ることができたので、ホッと胸を撫で下ろしてまずはホテルに向かう。こちらに到着した時刻は午前7時半で空港から出られたのは10時少し前だったので、チェックインの時間までは時間はまだあるのだけれど、荷物だけ置かせてもらってそれから少し遅いブランチと街散策に出かけることにした。

タクシーの中から、ベトナムらしい混雑した道路を眺めながら、沸々とさらにボルテージが高まっていく。ベトナムが初めての妻のhanaは、ぶつかりそうでぶつからない、まさに車の波、バイクの波に、キャーキャー言いながら喜んでいる。このまさにカオスともいうべきホーチミンの喧騒が、一気に気に入ったみたいだ。

圧倒的にバイクの数が多いベトナム。事故が少ないのが不思議なくらいだ。

道路が混雑していたこともあって、空港からホテルまで約1時間くらいかかったけれど(空いていれば30分くらいで着く)、ゆっくりホーチミンの街並みを車から眺めるにはちょうどいい時間だった。ホテルに着くとレセプションには誰もいない。チェックイン時間ではないし、呼び鈴らしきものもないので、しばらくレセプションの前にあるソファで休ませてもらうことにする。少し経つと、客室を掃除していたであろう若いスタッフの女性が通りかかり、僕たちの存在に気がついた。無表情に"予約の人か?"と話しかけてくれた。「Yes.」と答えると、パスポートを見せるように言われ、僕たちのそれぞれのパスポートの写真をスマホで撮った。荷物預かってもらえるか?と聞くと、レセプションの横にあるスペースを指差した。僕たちは、そこへ荷物をまとめ置かせてもらった。ありがとう、と伝えると、彼女は笑顔で"行ってらっしゃい"と手を振ってくれた。彼女の笑顔を見ると、最初の印象よりもとても若く見えた。

海外旅行をした人の日記とかを読んでいると、店員が無愛想だとか態度が悪いとかいう意見を書き込む人が散見されるけれど、僕が感じるのは、彼ら彼女らはとても"フラット"なだけなのだと感じるいうことだ。求められたことを求められた分だけ提供してくれる。愛想を良くするとか、そういうことはプラスアルファの部分だから、そこは各人の性格というかそれだけの話で、求められるとか求められないとかそういうところとは次元の違う話なのだと感じる。おもてなし文化の根付く日本と比較して、他国の接客態度を云々言うのはどこかフェアじゃないような気がしている。

それどころか見せかけの笑顔というか、形式的なマニュアル的な笑顔で接客される日本の接客サービスよりも、フラットな関係性でいられる外国での接客の方が、僕自身は信頼が出来るような気がしている。

話が逸れるけれど、日本の飲食業界は世界的疫病以降、苦戦が強いられていると言われている。それはたしかに「外食が減った」という生活スタイルの変化がもたらしている事実なのだと思うけれど、それと同時に多くの飲食店は以前に比べて「劣化」したことも間違いなく、それに辟易した人たちから多くの飲食店を敬遠するようになったこともまた事実だと思っていて、かくいう僕自身がその一人だ。ここのところ、飲食店に入って、気持ちよく食事出来たのは10件に1件くらいじゃないだろうか。マニュアルに従って、マニュアル通りにしか仕事をしないスタッフ、それすらも出来ないスタッフ、どうやって仕事をサボるか?どうやって早く帰るか?ということに意識を取られているのだろううなぁと、こちらがすぐに勘付いてしまうレベルでの「やらされている感」の中で仕事の仕方の人が本当に増えたように思う。もちろん僕個人の体験であり、大いに主観で語っているのだけれど、率直に言って日本の飲食業界は劣化してしまったと感じている。その大きな要因は利益重視、効率重視の"人を育てる"ということは後回しにしたビジネスモデルにあることに僕自身は疑いがない。資本があるのは大手チェーン店で人が集まる場所に出店がしやすく、集客もしやすく利益も出しやすい。だから、日本を劣化させるビジネスモデルに変更を迫られることもなく、これからもその力を伸ばすだろう。ますますこの国を劣化させながら。僕は一人の消費者として、そういう店は"使わない"という消極的意思表示をしながら、劣化していく我が国に密かな抵抗を試みている。人を育てることができない企業は、自然淘汰されるべきなのだ。経済状態は国のあり方に直結する。とすれば、そんな企業の発展は、この国を衰退させていく大きな要因になってしまう。学校教育も、企業の人材育成も、もう数十年に渡り大失敗をし続けていることの証明が、この劣化してしまったこの国の「ソフト(人)」のあり方が何よりの証明であることに僕は疑いがない。とても面倒な時間のかかることだけれど、そこの改革なくして再起、復活などありえないだろう。大袈裟なようだけれど、私たちの国が再起するには、そういうところから話は始まるような気がしている。マイナーチェンジではもはや無理なのだ。ドラスティックにものを変えて行く。そういう時期に来ているのだと改めて感じる。

と、話は逸れたけれど、笑顔で手を振って見送ってくれたスタッフ彼女を背に、ホーチミンの街に繰り出した。まずは、腹ごしらえ!

日本のちよだ寿司がホーチミンにも!

本場でフォーを食べるぞ!
と意気込んで歩き始めると、ここでフォーが食べられるぞ!とおじさんが呼び止めるので、これも何かの縁と何も考えずにそのお店に入った。

正解だった!

昨夜の飛行機に乗ってから何も食べていないということもあるけれど、とびっきりおいひいフォーだった。ベトナムの料理は、優しい味わいなのにしっかりとコクがある。肉もおいしいし、野菜もおいしい。そしてコスパもとても良い。ホーチミン都心部価格だけれど、これで500円くらいだった。めちゃんま。

腹ごしらえを済ませてから、本格的に街歩きを始める。

それにしてもあっつい。

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