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コーヒー農園での仕事と現地のおばちゃんたちとの会話〜ベトナム旅行記(5)

中部高原地帯に位置するベトナム・バオロクの気候は、過ごしやすいという印象を持っている。2022年の6月に訪れた時にも、初夏であったにも関わらず、たしかに日中はとても暑いのだけれど都会のホーチミンに比べて湿気が少なく、僕はTシャツの上からもう一枚シャツを羽織っているくらいだった。今回の訪問時の2023年1月も、日中には長袖のTシャツを着て、朝晩にはさらに一枚のウィンドブレーカーを羽織ってちょうどいい気候だった。

朝食においしいフォーを食べて、さらにバオロクでToiさんのコーヒー豆を扱う人気カフェGOT coffee でコーヒーを頂いた僕たちは、Future Coffee Farm(以下、FCFと書く)に戻った。

前回のnoteに書いたように、関西からFCFに向かう飛行機が遅延したとのことで、先にFCFに到着していた僕たちは彼らをダラット空港へ迎えに行くまでに予定よりも時間が空いてしまった。FCFのオーナーのToiさんは農園に戻ってすぐに、仕事に戻った。僕はその跡を追い、この空いている時間に僕にも何か仕事をさせて欲しいとToiさんに頼んだ。僕の今回の訪問の大きな目的は、繁忙期の農園という絶好の時期なので、現地のワーカーさんたちと一緒に混ざって仕事させてもらうということなのだ。

Toiさんはそういう僕にニコッと笑って、Toiさんの自宅の裏側に設けられられたコーヒーチェリーやコーヒー生豆を乾燥させるアフリカンベッドのある場所へ連れてってくれた。そこで何やらワーカーのおばちゃんに僕のことを伝えてから、僕の肩をぽんぽんと叩いて去っていった。僕をおばちゃんたちに任せてくれたのだ。

仕事に戻ったToiさん。ワーカーさんに指示を与えている。

リーダー的な存在のおばちゃんが僕に一個のカゴを渡してくれて、身振り手振りでどんな作業をするのかを教えてくれる。はにかみながらの笑顔で一生懸命教えてくれる姿に、ほんの少し緊張していた僕は少し心がゆるんだ。余談だけれど、ベトナムの人は、とても優しい人が多い。日本に住んでいると、ベトナム人の犯罪のニュースなどが多いので、ベトナム人に対してネガティブなイメージを持つ人が多いかもしれない。たしかに良くない人もいるのだけれど、それは日本人でも同じことだろうと思う。どこに視点の重きを置いて、事象を眺めるかによってそのイメージは変わってくるものだ。少なくとも、僕はベトナムの人から不快な想いをさせられたことはほとんどなく、むしろ好印象を抱くことの方が多い。一緒に仕事をさせてもらったおばちゃんたちは、とてもシャイな感じを受けたけれどとても親切だったし優しかった。

チェリー選別をするワーカーのおばちゃんたち

教えてもらったやるべき作業は、コーヒーチェリーの品質をチェックして、品質の良くないものは取り除いていくという作業だった。FCFのコーヒーチェリーは「完熟しているもの」だけにこだわっていて、それがFCFのコーヒーのおいしさの大前提となっている。FCFのコーヒー豆を取り扱うものとして、それはもちろん知っていた。でも、そのレベルの高さまでは理解できていなかった。

熱気がすごいし、細かい作業なので、とても大変な仕事。
でもおいしいコーヒーのキーとなる作業。

このコーヒーチェリーの品質をチェックするという作業が、とてつもなく大変なのだ。

なぜか?

FCFのコーヒーチェリーは、木から採取されるときにすでに「完熟」しているものにこだわって採取されている。

完熟しているチェリーたち

この場所でのチェックとは、完熟しているものから、さらに完熟度の高いものだけに選別していくという作業だったのだ。簡単に言えば、朱色のチェリーはダメで、真紅のチェリーが良品ということになる。僕は、おばちゃんたちの作業を横目に、見よう見まねで作業を行っている。これは、めちゃくちゃ大変なのだ。やり続けているうちに、だんだん頭がクラクラしてくるし、ちょっとした眩暈すらしている。なんというか、「3Dでずっと眺めていると絵が浮き出てくる絵」というのが一時流行ったけれど、目の前にしているチェリーたちがまさにあの絵のように見えてきて、ちょっと酔うような感じになるのだ。

完熟の度合いで、選別されたチェリーたち

正直に書こう。30分くらいで弱音を吐きそうになってしまった。

「ふ〜」とため息を横になると、ワーカーのおばちゃんたちは、脇目も降らずにチェリーの選別を続けていている。その作業する手は、めちゃくちゃ速い。速すぎて千手観音のように見える。手が止まっている僕に、リーダー的おばちゃんが「手が止まってるわよ!」と笑いながら煽ってくる。僕は慌てて作業に戻る。

このアフリカンベッドのある場所は、温室のようになっているので風は抜けない。空からは太陽光が燦々と注いでくる。冒頭には、過ごしやすい気候と書いたけれど、この場所はとても湿度が高いし熱気もすごい。額や背中にも汗がつたうし、髪の毛も汗でびっしょりとなってきた。おばちゃんたちも、首に巻いたタオルで、汗をふきふき仕事を黙々と進めている。このおばちゃんたちは、この作業を来る日も来る日も続けてくださっている。そのおかげで、4000km近く離れた日本に住む僕たちもおいしいコーヒーを飲むことができているということを、肌身で実感して心の底から感謝した。

黙々と作業をつづていると、通訳のTさんが作業に加わった。
ワーカーのおばちゃんたちと、ベトナム語で何やらおしゃべりをしながら時折爆笑しあっている。やはりTさんはかっこいいのだ。おばちゃんたちと笑い合いながら、何を話しているのかを通訳してくれる。T さん曰く、おばちゃんたちは「なぜ遠いところからベトナムに来てまで、こんな作業を一緒にやってるの?」ということがとても不思議らしい。「こんなにいい季節なのだから、ダラットとかダナンとかに観光をしに行きなさいよ。いい場所よ。」と教えてくれているとのことだった。通訳をしてもらっている僕を見ながら、おばちゃんたちは優しい顔で微笑みかけてくれている。「観光もいいだろうけれど、今僕はこの作業を一緒にさせてもらえることに最高の幸せを感じています。」そう伝えてもらった。

白いTシャツ通訳Tさんが加わったことで、
コミュニーケーションも取れて作業がさらに楽しくなりました。

そのあとも、Tさんとおばちゃんたちの大笑いしながらのトークは続いている。ベトナム人は、Toiさんもそうなのだけれど、冗談好きな人が多い。僕なんかは、どこまでが冗談で、どこからが真面目な話なのかがわからなくて混乱してしまうこともあるくらいだ(笑)

おばちゃんの一人が、こんななぞなぞを出してくれた。

「上の毛と下の毛が、ついたり離れたりするものなぁに?」

僕はしばし考え込んで、「まばたき?目?まつ毛?」と答えた。

おばちゃんは「ガハハ!」と笑って、答えを教えてくれた。
ただの下ネタだった(笑)

そこにToiさんがやってきて「口を動かしてないで、手を動かせ〜!」と笑いながら怒っている。おばちゃんたちは「わかってるわよ〜」とばかりに笑っている。本当に良い仕事場なんだろうな、ということがしみじみと伝わる瞬間だった。

(続く)

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