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画家という仕事、そして生き方③

こちらの記事の続きです。


三角から円環の社会へ

3月個展風景③ドローイング

コロナ禍以降急速に変わっていく社会の中で、同様に人々の価値観や常識もすごい速さで変わっていっているのは誰もが感じていることだと思います。

物質的なものやお金の価値が一番高く、その利益追求のために多くのもの(自然や人の精神性)が犠牲になってきたのが近代社会であり、その歪みを修正し、自然を含めた誰もが無理なく調和した社会を未来社会とするならば、今はちょうどその間の過渡期なのではないかと感じます。

そこへ向かう為に様々な問題が噴出し、それを皆で考えることによって人々の価値観はゆるやかに変わってくのではないでしょうか。

そして、そこには当然それぞれの思考のグラデーションもあって、多種多様な考え方を持つ人が存在することが一番重要なのだろうなと感じるのです。

東日本大震災が起きたときも同じように自分に向き合う機会がありましたが、そこから12年経ち、自分もそれなりに経験を積み年齢を重ね、またそのときとは違った視点で物事を見られるようになっている気がしています。

やはり私も、加茂くんが採用している「堆肥化」や、一般的にも理解され始めている「循環型社会」というような、何かが何かを支配して利益が出るピラミッドのような三角の構造ではなく、全てのものが調和的に存在し、お互いに利益を享受できる円環の構造をどうやって作っていくのかが次の社会への鍵となっていくように思います。

このままでは物理的にも精神的にも全てが行き詰まってしまう。

そんな予感を感じつつも、そうなってきたからこそ「今までの合理性や生産性を良しとする価値観とは違う価値観を選択する。そして選択肢は実はある」ということにも心から納得することができてきているように感じます。

生まれたときから資本主義経済の上に成り立つ社会の中で、そのメリットを享受して生きている自分がそこから抜け出すのはそう簡単なことではないと思いますが、ひとつの指針として自分の心の中に芽生えているそのような想いを大切にしていきたいです。

画家という仕事、そして生き方

東日本大震災、そしてコロナ禍と、想像を超える大災害が起きる度にいろいろなことが起き、それによって人々が持っていたそれまでの常識や価値観がどんどんゆらいでいく様は、双葉郡のかつての土が除染によって剥ぎ取られ、その下にあるまっさらな状態が露呈していく様に似ている気がします。
そこに新しい価値観という土が撒かれていく。
「どんな土を選択するかは実は自分で決めることが出来るんだよ!」
そんなことを加茂くんは作品を通して伝えてくれているように思います。

私の心にも、加茂くんの豊かなエネルギーが沢山つまった土が撒かれたような、そんな気がしてなりません。

画家の仕事は、この様に目に見えないものを可視化させ、人々の意識を更新していくきっかけを与えることが出来る。

加茂くんの作品を見ながらそんなことを実感し、そのような活動を様々な苦労にもめげずに続けている加茂くんを心から誇りに思いました。

そして同時に、自分はどんな意識で絵を描いていくのかということを、引き続き探りながら絵を描いていかなくてはとも思いました。

絵を描く喜び

加茂くんの話の中で私が特に惹かれたとても素敵なエピソードがあるのですが、最後にそれを紹介させて下さい。

加茂くんはジョルジュ・ルオーの作品が好きで、ルオーの描く宗教画の筆致のひとつひとつに作家の祈りが込められているように感じるそうなのですが、2021年に開催された水戸芸術館での展示のための作品に取り掛かっているときに、加茂くん自身も自分が描き続けてきたマチエールの厚みの中に何か祈りのような精神性を感じる瞬間があり、それはそれまで自分がなんとなく好んで描いてきたマチエールが、なぜそのような厚みを必要としているのか?という問いに答えることができる、はっきりした理由を自覚した瞬間でもあったということなのです。

震災後何度も双葉郡へ通い、帰還困難区域の立ち入り禁止区域を示す看板やフェンスといったモチーフを繰り返し描き、油絵具を少しずつ少しずつキャンバスへ重ね厚く盛り上げていくマチエールの中に、自分の復興への祈りを見つけたと。

私はこの話を聞いてとても感動しました。

絵というのはこんな風に作家の思惑を超えて、逆に絵が作家へその理由を教えてくれることがあるということに、不思議な力を感じます。

そしてそれは画家だけが経験できる、絵を描く最高の喜びなのではないかと思うのです。

何か理由は分からないけどとても気になるとか、好きという感覚だけを頼りに行動を起こした結果、その理由が時を経てベストなタイミングで分かる。

そして、それが自分が絵を描く過程の中で起きるというのは、私も同じように経験したことがあり、その繋がっていく瞬間の何とも言えない喜びは、正に創作する者の醍醐味と言っていいのではないかと思います。

加茂くん自身と彼の作品が同じような強く誠実な存在感を放っているのをギャラリーの中ではっきりと感じながら、私は画家にとっての絵を描くことと生きることはやはりイコールなのだなと改めて思いました。

私も自分と自分の絵が嘘偽りなく繋がれるよう在りたいな。そんな生き方をしていきたいな。

そんなことを思わずにはいられない一日でした。

2023年11月 追記

2019年の個展では「風」、2023年3月の個展では「土」をテーマに制作を行ってきた加茂くんですが、今回の個展は「風土」をテーマにしているそうです。
『化石としての風/復興としての土/祈りとしての風土』
この展覧会タイトルが示すものがどんなものなのか、私も実際に体験してきたいと思っています。
個人的に「風」も「土」も時代の変化を表すとても重要なキーワードであると思っているので、偶然なのかもしれませんが加茂くんがそういう単語をテーマとして据えて制作していることに、アーティストとしてのの先見性を感じざるをえません。
社会や個人に関わらず、大きなパラダイムシフトのうねりの中に置かれている私たち。
日常生活を送る上で、こういった同時代を生きるアーティストの示す未来の価値観について知ったり感じたりすることもまた、アートを観る楽しみでもあります。
今回この記事で加茂くんの作品や思想にもし何か興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、是非個展会場に足を運んでその作品を鑑賞されることをお勧めいたします。
絵は現物を見てこそ。
長い記事でしたが、ここまで読んで下さりどうもありがとうございました!

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