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浮気に不倫、そして倦怠期…ミスチルのダウナー系ラブソングを肴に酒を飲め。

世間一般の「ミスチル」へのイメージとはどんなものだろうか。
優しいとか、暖かいとか、切実とか。
あるいは、桜井さんのくしゃくしゃな笑顔とか。
 
そういうイメージかもしれない。
 
さて、そんな方々には意外かもしれないが、
ミスチルには浮気や不倫などの「道ならぬ恋」、
あるいは恋の終わり、倦怠期といった「恋愛の楽しくない部分」を歌った
いわゆるダウナー系ラブソングというのが数多く存在する。
 
そしてそのどれもが、異常に出来が良い。

 
多くのコアなミスチルファンは、そういった曲が大好物だし、
さらに訓練されたファンになると、曲を肴に酒を飲めるようになる。
 
ミスチルのラブソングはいいぞぉ…(ニチャア)
 

世間一般からするとタブーとされている不倫や浮気も、
桜井さんの視点を介すると、
「不倫にも、それはそれで素敵な瞬間があるかもしれない」
と思わされてしまうのが不思議なところだ。
 

はっきり言って、歪な関係の男女関係の歌を作らせたら、
桜井和寿の右に出るものはいない。
 
今日みなさんにするのは、そういう歪んだ癖の話になります。
 
「純愛ものしか勝たん」という純朴な皆様におかれましては、
今すぐにブラウザバックをおすすめします。
 
「最近は専らNTRばかり嗜んでおりまして…」
という紳士淑女の皆さんは、このまま居続けてよろしい。



0.はじめに


さて、そもそも櫻井さんも、最初から拗れていたというわけではなかった。
 
初期の頃は、「抱きしめたい」「Replay」といった、
初々しくピュアなラブソングも書いていた。
 
そういった初期の名曲も、もちろんファンには愛され続けている。
 
流れが変わったのは90年代中期以降。
アルバムでいうと「深海」のあたりである。
 

初期の問題作、「深海」。


 
当時桜井さんは
「もう自分に純粋なラブソングは書けなくなった」
といった趣旨のコメントを残している。
 
おそらく彼のプライベートに起きた、とある事件がきっかけと思われる。
何があったかは、各々ネットを見て欲しい。
 
その事件に関する議論はひとまずここでは置いておくとして、
ともかくそれ以降の彼は、堰を切ったように
一筋縄ではいかない歪なラブソングを量産してきた。

 
以下より少しだけ、紹介しよう。
共有して、共感して、色々思い出して、
一緒にメンタルをぐちゃぐちゃにしましょう。

1.クラスメイト


「Cross Road」「Innocent World」収録のアトミックハートからの一曲。
収録順がこの2曲に挟まれているので、必然再生数が多くなる。罪深い曲。

耳あたりも良いので、一瞬「爽やかなラブソングなのかな」と錯覚するが、
その歌詞を紐解くと、正真正銘の歪んだ恋の歌であることがわかる。

"後ろめたさで かすかに笑顔が 沈んじゃうのは仕方ないけれど"

"ごめんよいつも 困らすばかりで しばらくは彼の話はやめとこう"

クラスメイト/Mr.Children

ご覧の通り、相手がいる女性と惹かれ合ってしまう歌である。
 
"僕"に相手がいるかは不明だが、少なくとも彼女には相手がいる。
でも、彼女の誕生日には、迷わず僕を選ぶことから、
お互いに惹かれ合っている関係ということがわかる。
相思相愛といえるだろう。
 
ただ、「彼女には別に相手がいる」その事実だけが、
この逢瀬に「後ろめたさ」という苦味をもたらす。
 

お互いに惹かれていることは明白なのに、
もう一方の関係を壊すわけにはいかない。
世の中は、往々にしてそんなシチュエーションに溢れている。
 
余談だが、この歌詞↓だが、
 
「しばらくは彼の(=別れの)話はやめとこう」
 
というように、ダブルミーニングになっている。
さりげなくこういうのを差込んでくる辺りは、桜井さんのお得意芸。


さて、負の恋愛ソングにも色々あって、桜井さんが描くのは
何も不貞の歌ばかりではない。
 
次に紹介するのは、恋愛の冷めきった関係を描いた曲。
収録アルバムは、中期の名盤「IT'S A WONDERFUL WORLD」。

個人的にも大好きな一曲だ。

 

2.渇いたkiss

"日に焼けたショーツの跡を やたら気にしてたろう
あんなポーズが この胸を 今もかき乱しているとは知らずに"
 
"ある日君が眠りにつくとき 僕の言葉を思い出せばいい
そして気分も冷めて 途方に暮れて 切ない夢を見ればいい"

渇いたkiss/Mr.Children

ラブソングにおける切なさとは、「別離」だ。
 
愛しい人との別れ。たとえば、

太田裕美の「木綿のハンカチーフ」では離れ離れになった恋人たちを、
沢田知可子「会いたい」では死別した恋人を。
 
いずれも物理的な別離である。
 
しかし、この曲で描く男女は、物理的には近くにいる。
離れているのは心と心の距離だ。


 
桜井和寿は、相手と心が離れていく、
いわば「心理的別離」を描写することで
恋愛の切なさを表現できる、稀有なソングライターである。
 
さらに言うと、この両者の関係性もポップソングとしては珍しい。
たとえば一方の心が離れるのを止められなくて、もう一方が未練を感じる。
こんな歌は、探せば意外と見つかる。


しかし、灯した火が蝋燭を燃やし尽くし、最後には消えてしまうように、
2人とも、それぞれの気持は時間をかけてゆっくりと冷めてしまい、
もう終わるのを待つだけ。
 
こんな関係性を描いた楽曲は、そう多くない。
 

今も近くにいるからこそ、肌を重ねるからこそ、
手に取るように気持ちが離れていくのがわかる。
 
自分の気持ちも、以前より冷めてしまった。
もはや、向かう結末は一択のように思える。
 
それでも、君の仕草に、僕は
今もまだ、こんなにも心をかき乱される。
 

この切なさ。

さて、最後に紹介するのは最新アルバム、
「SOUNDTRACKS」からの一曲。

3.others

"君の指に触れ 唇に触れ 時が止まった" 

others/Mr.Children


缶チューハイのCMソングとして耳にした方も多いだろう。
 
CMの雰囲気から、余裕ある大人同士のラブソング…かと思われたが、
蓋を開ければ、他に恋人のいる女性と空虚に身体を重ね合うという、
まるで村上春樹の短編のような一曲で、
 
歌詞の全容が明らかになった直後は、
思いがけず擬似寝取り体験をさせられたピュアなリスナーから
炎上…まではいかずとも、ボヤ程度のヘイトを集めた。


ちなみに、ピュアじゃない方のミスチルファン
その様子を肴に缶チューハイ飲んでいたという。ニヤニヤしながら。

まるで近未来の映画のよう アンドロイドが
感情なんかなく ただ互いのエネルギーをわけあうように

others/Mr.Children

otherは「他人」。そして「s」。
 
調べてみると諸説出てくるが、
この「s」はどう考えても「所有のs」だろう…と思う。


I(私)→mine(私のもの)
you(あなた)→yours(あなたのもの)と同じ理屈で、
other(他人)→others(他人のもの) を意味する。
 
つまり、「(君は)僕のものではなく、他の誰かのもの」
という意味と読み取れる。
 
余談だが、アルバムSOUNDTRACKSには、
アルバム、ビジュアル(歌詞)ブック、DVDが同封されており、
それぞれ「OURS」「YOURS」「MINE」というタイトルであることも、
この「s」が所有の意味を示すことを裏付けている。


アルバムの至るところに登場する所有格。


さて、曲を通して浮かび上がってくるのは、
他に恋人がいる「君」と、それを知りながら逢瀬を重ねる「僕」の
気だるい距離感。

状況的には先述の「クラスメイト」と似ている。

異なる点として、othersでは相手の男についての描写がある。
決して直接的な描写ではない。
しかし、僕と彼女が関係を重ねる部屋に残された「彼」の所有物から、
「彼」がどんな人物なのか、否が応でもイメージさせられる。

"テーブルの上の灰皿 アメリカ史紐解く文庫本 それはきっと彼のもの"
 
"ベッドで聞いていたblues 誰の曲かも君は知りはしない
 きっと彼の好きな曲"

others/Mr.Children

日常的にアメリカ史に関する文献を読んでいて、ブルースを聞いて…
 勤勉で、教養があって、大人っぽい。
 
こんな男と比較されるのは、さぞ居心地悪いだろう。
 
ただこの男、趣味は良いんだろうけど、なんだかとっつきづらそう。
意識高い大人というか…一緒にいると緊張するタイプ。
 
もしかすると、それは彼女にとってもそうだったかもしれない。
傍から見れば趣味の良い大人。
でもずっと一緒にいると、こちらまで大人であることを強いられるようで、
どうにも気疲れしてしまう。
 
だからこそ彼女も、「僕」との一時に、彼からは得られない
一種の癒やしを感じているのではないか。
それがたとえ、感情などなく互いの身体を求め合うだけの、
一見空虚なものだとしても。

余談だが、「それはきっと彼のもの」という歌詞は
othersというフレーズを強調する憎い演出になっている。

その部屋にある灰皿や文庫本が当然そうであるように、
さっきまで僕と身体を重ねた「君」も彼のものなのである。 


何度も歌詞を引用して申し訳ないが、この曲、
特に光る一節があるので最後に紹介しておきたい。

"愛し愛されてたとしても そう感じられるのは一瞬で
 その一瞬を 君は僕に分けてくれた"

others/Mr.Children

普通、こういった関係の歌だと「満たされない」部分の描写になりがちだ。

たとえば、週末会えないのは、彼(彼女)に、他に恋人がいるから。
もし自分が唯一の恋人だったら、こんな思いをすることはないのに!
というように。
 
しかし、この一節で「僕」は、どちらかというと
自分こそが二人の関係性に入り込んだ「異分子」と自覚している。

だから「僕」は、彼女から何かを与えられることを期待してはいない。
何も与えられなくて当然。だって、君は僕のものじゃないから。
 
でも、そんな僕にも、君は
一瞬の「愛されている」という実感を与えてくれた。
 
「満たされない」自分ではなく、
「与えてくれた」君への畏敬の描写。

 
この「何も求めない」視点を置くことができる特異性、
それをあっけらかんと伝えてしまう描写力。
これこそ、桜井和寿が天才ソングライターである所以だ。

 
また、この歪な関係を描く曲中には
「近未来の映画」「アンドロイド」「25時の首都高」
というちょっと現実離れした浮遊感のあるワードを差し込まれる。

これにより、曲全体をどこか退廃的、非現実的な世界として
描くことに成功している。
 

これ、覚えておいてください。
作品がアート性を帯びると、道徳性は鳴りを潜めます
 

何もかも打ち捨てて自己表現を追究するアーティストに、
「不倫はダメ!絶対!」などとド正論を解くことの無意味さを、
僕もあなたも本能的に察知しているのです。

そんな桜井さんの発想力とテクニックが濃縮された本曲。
実はむちゃくちゃクレバーな楽曲です。


4.終わりに


 
さて、いかがでしたでしょうか。
 
ミスチルのダウナー系ラブソングと銘打って書いてみたところ、
3目の時点で 4000字に達した自分にちょっと引いているが、
それくらいミスチルの楽曲は魅力的、という話である。

というか、まだまだ語れそうである。
なんなら趣味を同じくする同胞と飲みながら語りたい。
朝まで。地獄のようだな。
 

ともあれ、こういった曲については他にもたくさんあるので、
どうか皆さんお気に入りの一曲を探してほしい。
良ければ僕にも教えてください。
 

そして筆者は、記事を書いている内に胸がモヤモヤしてきたので、
ちょっと口直しにFUNKY MONKEY BΛBY'S聞いてきます。

 
それでは!



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↓ミスチルの記事もあるよ。


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