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映画「ルックバック」のタイトルが「ルックバック」でなければならない理由

※超絶ネタばれあり!!
未視聴の方はブラウザバック推奨。ルックバックだけに。


…さて、では本編。

まず、「look back」 という熟語には2つの意味がある。
①背中を見る
②後ろを見る(振り返る)
この作品にはそれを示唆する描写・演出がたくさん盛り込まれているので、数えてみた。


①観客が藤野の「背中を見る」


藤野が机に向かって漫画を描くとき、我々観客は藤野の背中を見る。

小学校時代、学級新聞の4コマを描くとき
京野と漫画を共作するとき
商業誌デビューし、机に向かうとき

その構図は執拗なほど繰り返される。
人が創作に没入するときの象徴として「背中」を用いている。


②京本が藤野の「背中を見る」


「私の背中見て成長するんだな」と藤野は言う。
実際京本は藤野をマンガの天才と崇め、憧れている。
また、ふたりで漫画を描くとき藤野は机にむかい、京本はローテーブルで作業している。
2人がその定位置にいるとき、文字通り京本は藤野の背中を見続けている。


③藤野が後ろにいる京本を「振り返る」


藤野はただ京本の前を独走するわけではない。
藤野はちゃんと京本を気遣い、「振り返る」。都会に遊びに行くシーンでそれが描かれている。京本にとって藤野は自分を顧みてくれる、かけがえのない存在である。


④藤野もまた、京本の「背中を見ている」


京本の4コマを見たとき、藤野はその画力に打ちのめされる。それは京本にあって藤野に無いもの。二人は互いに無いものを持っており、それを羨みつつも惹かれるという感情を双方が抱いている。
その意味で2人は互いの背中を追い合っている。


⑤観客が2人の出会わない世界線を「振り返る」


物語終盤、京本を失った藤野が部屋を訪れたとき、唐突に時間軸が巻き戻る。我々観客は、2人が出会わなかったifの世界線を追体験する。その現象そのものが「ルックバック=振り返る」ともいえる。

…ただし「振り返る」とは、あくまで再度前を向くことを前提とした一瞬の動作である。つまり、京本が生きているこの世界線が主軸に取って替わることはないのだ。絶対に。それに我々は暗に気づかされる。なぜならこの世界線こそが「ルックバック(=振り返っているだけ)」に過ぎないから。


⑥京本の4コマ「背中をみて」


しかしその並行世界から京本の4コマ漫画が藤野のもとに届くと、それをきっかけに藤野は心を固め、また漫画を描き始める。「振り返る」ことが再度前を向くのが前提の動作であるように、藤野は再び前を向くことができる。

また、並行世界の京本の4コマのタイトルは「背中をみて」。look backの命令形である。4コマの藤野の背中には斧が刺さっているが、現実の世界線の藤野が振り返れば、その後方にはきっと死んでしまった京本がいる。


⑦「Don’t look back in anger」


実は映画・原作ともに冒頭の黒板に「don't」という文字が、最後の藤野の部屋に積まれた本に「in anger」の文字が描かれており、「ルックバック」という作品は、冒頭の「don't」とラストの「in anger」で挟まれていることがわかる。


「Don’t look back in anger」

それは言わずと知れたOasisの名曲であり、直訳すると
「怒りで振り返ってはいけない」という意味となる。

この曲はイギリスではテロなどの追悼で民衆に歌われることがあり、理不尽な暴力に対して、「怒りや憎しみに飲まれてはいけない」という自戒の意味で歌われるという。


また、曲中では「Don’t look back in anger」
のあとに、「I heard you say」と続く。

つまり「『怒りで振り返ってはいけない』そう君が言うのが聞こえた」。藤野の視点で「君=京本」と考えた場合、京本は


1「後ろを見て(私がいるよ)」
2「でも、怒りで振り返ってはいけないよ」


という2つのエールを藤野に送っていると言えないか。
だから藤野は一瞬過去を振り返った後、また前を向くことができる。


…と、最後はだいぶ主観が入ってしまったので、実際のところ作者の意図とは違うかもしれない。


でも、自分にはそう聞こえたんだよな。


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