見出し画像

上野の女と夢『俺は誰を愛せるんだ?』



あるときあいつは一人の女と会った
女は艶かしい赤い唇を突き出して
「どう?」と聞いてくるから、
あいつは「綺麗」と言ってあげた。

あいつは女と一緒に上野動物園へ行き、
パンダやら象やら色々見た。
途中、仲睦まじい子連れの夫婦がいて、
女は「いいなあ」なんて呟いた。

その後二人は軽く昼食を済ませて、
夏の暑さを回避するという表向きの理由で
近くにあったラブホテルに入った。
空調設備はしっかりしていた。

女はシャワーを浴びて、化粧を直した。
あいつもサッと浴びてから、気持ちを整えた。
女はタバコをふかし、あいつもタバコをふかした。
そして女が言った。「愛は複雑よ」と。

女はあいつと交わった。
しかしそれは、正当ではない方法だった。
女もあいつも、同じものがついている。
それでも、女はあいつを求めた。

「本物の女の子になりたかったなあ」
女の夢は、決して叶うことはない。
だけどあいつは優しいから、
彼を女として受け入れた。

俺はその話を聞くたびに、
女の夢を叶えてやってくれと神に願う。
無論、俺の些細な願いは風に吹かれるだろう。
今日もあいつは彼の姿を隠した女と手を繋ぐ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?