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君が好き(短編小説「ミスチルが聴こえる」)




 清風は青い春を巻き起こして、僕らを一歩前へ踏み込ませてくれる。それは偶然吹くかもしれないし、必然的に吹くかもしれない。だけど、いずれにしても僕は行動しないといけない。何もしないと始まらない。
 今日、僕は君に想いを伝える。

 風は背中を押す自然現象。それは物理的にも、精神的にもグッと前へ進ませてくれる。
 そんな風が吹いている日に、告白しない理由はない。
 好きな気持ち、伝えよう。俺は息を整える。

 とても気持ちの良い風が吹いている。頬を撫でるような感覚。やわらかい風は確実に私を穏やかにさせる。
 こんな日には誰かと手を繋いで歩きたい。でも、そんな青春を与えてくれる男子、私の前に現れたりするのかな。
 私を想ってくれる人、いるのかな。

 放課後、君を屋上に呼び出した。
 君はどんな想いでここへやってくるだろう。
 僕は授業中も、ずっと君のことばかりだ。

 放課後、君を体育館裏に呼び出した。
 君は何を考えながらここへくるだろう。
 俺は授業中も、ずっと上の空だった。

 来た。青春が来た。やっぱり、風は吹いている。
 だけど、私の予想とは少し違っている。なんだか、複雑な気持ち。
 じゃあ、私が想っているのはどっちだろう。

 僕は真剣に考えて書いたラブレターを片手に持っている。
 君は、来てくれるかな。僕の想い、受け取ってくれるかな。
 むず痒い気持ちが心臓に張り付いて、ため息を吐く。

 俺は文章が下手だから、ストレートに言葉で伝える。
 それが一番伝わるだろうし、俺らしい。
 愛を実らせるためには、誠意が一番だって俺は思っている。

 考えてもわからない。私はどっちが好きなの?
「おう、桜。何難しい顔してんだ?」
 この人はいつだってノーテンキ。恋愛とか、知らなそう。

 僕は君が好き。君は僕のこと、好き?

 俺は君が好き。君は俺のこと、好き?

「へえ、そりゃめでたいじゃねえか」
「ねえ、あなたは私のこと、好き?」
「そうだなあ。一緒にいて、気が楽だな」

 僕は君が好き。だけど、君は僕のことが好きではない。
 ラブレターを天に上げ、風で揺らしてみる。
 だけど僕の想いは綿毛みたいに飛んでいくことはなかった。

 俺は君が好き。だけど、君は俺が好きじゃなかった。
 仕方がない。それもまた、青春だ。
 心臓はキュッと締まって痛み出しているが、仕方がない。

 「本当にいいのか?」
 「うん。あなたと一緒にいるときが、一番楽しいから」
 「そっか。それならいいや。それじゃあ、桜のお望み通り、手でも繋いで帰るか」


 「うん」

 
 

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