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ダンス・ダンス・ダンス(短編小説『ミスチルが聴こえる』)
ミラーボールが、彼女を照らしている。それを見て恍惚な表情になる繁夫は、ずっと前から彼女のファンだという。
「今日こそ、告白するんだ!」
この日、繁夫は一杯の酒と共に彼女に近寄った。
彼女はいやらしい笑顔で、繁夫を舐め回すように見た。そして言った。
「今夜、ホテルに行く?」
繁夫は喜んだ。
「お願いします」
僕は呆れた。なんて単純な男だと。
だけど翌日。繁夫は泣きながら僕に電話をかけてきた。
「あの女、ベッドに入るなり何をしたと思う?」
僕は、イヤらしいこと? とありきたりな返答をしてみた。しかし、繁夫がはっきりとした声で「違う」と言った。
「日本昔話を読み始めたんだ」
「え?」
「桃太郎、金太郎、浦島太郎、鶴の恩返し、猿蟹合戦、花咲爺さん。もう、俺の頭は着物を着た爺さんしか浮かんでねえよ」
それでよ。繁夫は話を続けた。
「最後に全部の登場人物が出てきて、現代社会をおちょくるようにダンスし始めたんだ。この国は狂ってるって歌いながら、みんな踊ってんだよ。もう、意味分からなくて、怖くなって朝方お金を置いてホテルを抜け出してきちゃったんだ」
「もう、深く関わりのない女性に付いていかない方がいいね。用心した方がいいよ」
「ほんと、懲り懲りだよ。もう、あの女には近づかねえ」
「それがいい」
繁夫が電話を切って、僕は彼女に電話した。
「もう懲り懲りだってさ。よかったね。これであいつから声をかけられることはないよ」
彼女は電話越しに、不気味な笑い声を上げて、「ダンスって最高ね」と言った。
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