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ミラー(短編小説『ミスチルが聴こえる』)



 僕は誰だろう? 鏡に映る自分は、間違いなく女性の格好をしている。
 
 物心ついたときから、僕は可愛いものが好きだった。だけど周りの男の子はみんな少年漫画を読んだり、半袖短パンでサッカーをしていた。僕はそこへ混じると途端に違和感を覚えて、中学校に入る頃には完全に距離を置いていた。
 
 不毛な中学生活を過ごしたからか、高校に入って勢いよく自我が目覚めた。あるとき隣の男子を好きになって、可愛いって言われたい、そんな衝動が僕を襲った。同時に、お小遣いで化粧品を買った。最初は肌、次に目、それから唇。僕は月日が経つごとに女性生まれ変わっていった。そして確信した。
 
 自分は、女性だったんだ。
 
 ショックよりも、安心した気持ちが勝った。幼い頃から、鏡を見ると映ってしまう『男の自分』が嫌いだった。もっと可愛く、もっと美しくなりたかった。それが僕にとっての『女性』だったからだ。
 
 今は、限りなく女性の姿を手に入れて、満足している。鏡に映る自分の姿が、ようやく本物だと思える。
 
 カミングアウトは、もう少し大人になってからでいい。今は、綺麗になった自分を褒めてあげよう。
 
 

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