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【2021年版】IT業界で働く人が楽しめる本10選

皆さん、本を読んでますか?文化庁の調査では1ヶ月に1冊も本を読まない人が47.3%だそうです。とはいえIT業界の人は情報収集などで長い文章を読む機会も多く、読書習慣が根付いている人も多いでしょう。

本記事では"IT業界で働く人だから”楽しめる本を10冊紹介しています。スタートアップや、シリコンバレーや、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などに絡むあんな本やこんな本を読みながら、年末年始を過ごしてはいかがでしょうか。
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インスタグラム:野望の果ての真実

創業からは1年半で従業員が13人、しかも売上は0という写真共有SNSをFacebookが10億ドルで買収したニュースも今となっては懐かしい。
創業から買収、そして買収後の内情について赤裸々に語られたのが本書である。
「野望」のために手段を選ばないFacebookと「美学」を追求するInstagramが重なり合った結果として、何が生まれたのか?結果として創業者の2人が歩んだ道は正しかったのだろうか?
「No Filter」という原題は、Instagramにおける「ありのままの写真を」という思想なのか、フィルターバブルで分断を生み出した元凶とされるFacebook傘下となった事実への皮肉なのか。その答えを本書で考えたい。
NewsPicksの本だから無駄に意識が高そう?そんなことはないよ。

デジタルエコノミーの罠

「デジタルやインターネットの普及は、我々に多大な恩恵をもたらした」という意見を、ITに関わる人間が否定できるだろうか?ITがなければ文系&体育会系が跋扈する気合と根性とコミュ力至上主義だったはずだ。
しかし誰しもが自由になれる(と思う)世界になっても、強者が弱者を支配する構造は変わらない。規模の経済によって、大きな存在によって作られた階級格差は覆せない段階にまで迫ろうとしている。莫大な資金とデータと技術を独占する企業が支配する世界も見え隠れしているのだ。

データを利益に変える! データドリブンセールス

うぉおぉぉぇおえおぅ!!なんでこの本を誰も読んでないんだよ、アニキ!しかもAmazonレビューが1つもないぜアネキ!
経済誌のインタビューで「データを活用して企業への利益貢献が~」と、腕組み&ろくろポース&ドヤ顔な写真で語ってるお前!この本に書かれたことを1%でもやってるか!?やってないやつは今すぐジャンピング土下座!この本をたまたま店頭で見かけるまで知らなかった俺もスライディング土下座!仕事でデータ分析やってる奴は目をつぶってでも読め!ボーナスが貰えなかったやつは女房を質に入れてでも買え!10冊買って周りの人間にも読ませろ!そうすれば君の会社も憧れの「データドリブン組織」になるぞ!

電子書籍がない!?細かいことはいいんだよ!(出版社様へ:IT業界で働く人は電子書籍での購入比率が高いので何卒ご対応のほどよろしくお願いいたします)。

TOOLs and WEAPONs テクノロジーの暴走を止めるのは誰か

仰々しいタイトルと世界の大富豪であるビル・ゲイツの序文にビビってしまうが、結局のところ「マイクロソフトはつらいよ」である。「わたくし、生まれも育ちもアメリカシアトルです。マリナーズで産湯を浸かり、 姓はゲイツ、名はビル、人呼んで "ウィリアム・ヘンリー・ゲイツ3世" と発します」とか言いそう。
もっとも作者はビル・ゲイツではなく、法務部門の責任者であり、MSの法務部門と言えば世界で3番目に強そうなイメージがある(ワンツー争いはディズニーと任天堂)。
真面目な話をするとインターネットとモバイルが急速に普及する中で、個人のプライバシーや企業におけるデータの扱いは俄然注目されてきた。法整備は追いつかず、ハッカーにデータを狙われ、ユーザーからは訴訟を起こされて、国からは指導が飛び、ヨーロッパはGDPRで囲い込み、中国は「便利ならガバガバ&監視社会でもええやろ」という大陸的思考で突き進む。
そんな2010年代から現在に至るまでのITを取り巻く法律とプライバシーについて、それこそ過去にアメリカ政府と大乱闘ガチンコ訴訟バトルを展開したMSの中の人が語るわけで、それはそれは面白い。心を入れ替えた(ように見える)"キレイなマイクロソフト"を楽しもうではないか。

職場の科学 日本マイクロソフト働き方改革推進チーム×業務改善士が読み解く「成果が上がる働き方」

「働き方改革」が叫ばれて、誰も知らない「プレミアムフライデー」が制定され、我々は毎日満員の通勤電車に揺られながら、電話とFAXと書類で仕事を進めて、面倒な上司と部下と取引先に挟まれつつ、査定を気にしてセコセコと生産性の低い仕事に甘んじていた。
だが、コロナ禍という危機で働き方が強制的にリセットされた……というのはIT業界人なら実感できるだろう(IT業界以外だと働き方が変わらない人も多いが)。
この手の「改革」は、大抵が経営陣の自己満足に終わるか無能な人事部による無駄なルールが増えるだけだったりするが、本書では「働き方をどう変えるべきか?」「働き方を変えたらどんな変化があるか?」を実際にデータを集めて分析している稀有な書籍である。
一時的な実験やアメリカのIT企業などにおける取り組みはあるものの、日本にある企業(日本企業ではないが日本マイクロソフトは品川に本社機能を集約している)でこうした取り組みを行っているのは珍しい。
それにしても昔に同社に訪問した時は社食が美味しくなかったけど、今はどうなってるんだろう……。

DXの思考法 日本経済復活への最強戦略

ここ数年の「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」のブームは、あえて語る必要もない。勘違いした施策を進める企業もあれば、便乗して小銭を稼ぐ評論家気取りも多い。が、本書はDXについて真面目に深く考え抜かれた本であり、「本物のDXとは?」と聞かれれば真っ先に推薦したい(料理マンガか?)。
説明には概念や抽象が含まれてしまうが、それを理解できずにレビューで文句を言うのはリテラシーが低い層なので、気にすることはない。日常的にデジタルに触れている立場であれば、曖昧なDXに対して的確に言語化されたことがわかるはずだ。
さすがにサブタイトルにある「日本経済復活への最強戦略」は大げさだが、出版業界ではよくあることなので見逃して欲しい(自分の本のサブタイトルにある「10年先も揺るがないビジネススキルを身につける」から目線をそらしつつ)。

AI世界秩序 米中が支配する「雇用なき未来」

タイトルだけ見ると「AI脅威論」「覇権を握るのはアメリカか?中国か?」みたいな印象だが、実際はシリコンバレーと中国におけるスタートアップの違いや、イデオロギーや国家に左右されないテクノロジーのあるべき姿を語っている真面目な本。
それもそのはず、作者はAI冬の時代にアメリカに留学して、中国のGoogle中国法人やマイクロソフトリサーチ・アジアを設立した生粋の研究者である(現在はベンチャーキャピタルの代表)。どうしてもIT関連の話題はアメリカ・シリコンバレーの立場で語られる場面が多いが、中国かつ中立的な視点による意見は新鮮だ。
AIの歴史や研究者時代の話だけでなく、中国が世界の工場からIT大国に変わっていく流れなども興味深い。
それにしてもAmazonレビューがネトウヨおじいちゃん的なコメントが1件だけなのが勿体ない。AI関連の良書なので、もっと読まれて欲しい。

Numbers Don't Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!

数字という事実から人、国々、食料、環境、エネルギー、交通、テクノロジーにおける現在が見えてくる。特に「Co2を減らしたければ窓を三重にしろ」という提言は面白い。理想やイメージではなく、現実的な手段を用いた問題解決を考えることも立派なイノベーションなのだ。一見すると現状認識をアップデートさせる「FACTFULLNESS」のようだが、本書は数字やデータを多角的に見ながら未来のために取るべき行動を促す点に注力している。
SNSが普及した結果として「個人のお気持ち」ばかり優先される世の中になっているが、数字・データ・事実に基づいた議論が出来なければロクなことにならないのだ。

反省記 ビル・ゲイツとともに成功をつかんだ僕が、ビジネスの“地獄”で学んだこと

「西和彦」という名前に反応するのは、50代以上だろうか?個人的には「週刊アスキーの最後にページでコラム書いてる大学教授」というイメージだ。実際には創業当初のマイクロソフトでビル・ゲイツやポール・アレンに次ぐ立場としてビジネスを展開し、日本のパソコン普及において様々な影響を及ぼしたアスキーの創業者である。マイクロソフトに残ってればIPOで億万長者だったろうし、アスキーも最年少で株式を上場させているので、間違いなく成功者であった。
が、成功者にありがちなクセの強すぎる性格から周囲との衝突を繰り替えした結果、自分の会社からも追い出された筆者は何を見てきたのか(ここまでの経緯はスティーブ・ジョブズに似ている)。その結果はまさに「半生記」ではなく「反省記」なのだ。もっともこれが歴史として扱われる程度に、クセの強すぎる人材が成功する世界ではなくなっているのだろう。

BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相

「指先からの血液1滴であらゆる病気を診断できる」という画期的な製品を発明したセラノス社。ただ一点の問題は、それが完全な詐欺であったことだ。
シリコンバレーで大型資金調達、カリスマ性、若い女性起業家、憧れのキャリア像、アメリカ人にありがちな極端な上昇志向&ポジティブ思考、徹底した秘密主義、メディア映えの良さ、スティーブ・ジョブズの再来と呼ばれて服装は黒のタートルネック、プレゼン上手のストーリーテラーでTEDに登壇、政治家や社長や大学教授など年上の有力者に味方にする人脈力などが、悪い方向に奇跡の悪魔合体を起こし、資金調達の700億円は泡と消えてしまった。
ちなみに、張本人の元CEOはホテルを経営するセレブな息子と結婚というオチ。
ダメなスタートアップにありがちな要素を盛りに盛ったラーメン二郎な展開は面白すぎるが、一気に読むと疲れるので連休中に少しずつ読み進めましょう。

今年もIT業界は色々なことがありました。
年明け頃から「匿名2.0」と呼ばれた自称GAFA社員がExcelのショートカットキーでドヤり、仮想通貨は乱高下を繰り返してごく少数の成金と圧倒的大多数の破産者を生み出し、インフルエンサーとプログラミングスクールは無知な素人をSES沼に引きずり込み、素人を送り込まれた開発現場は人手不足と残業で阿鼻叫喚、みずほ銀行は月1ペースで障害を起こして頭取が退任し、「VR」はなぜか「メタバース」となってガチ勢の遊び場から詐欺師の狩場となり、NFTアートがバブって大金が右から左に流れ込み、Twitterは炎上と揚げ足取りとマサカリの投げ合いが通常運転で、はてなブックマークは限界集落と言われ続けて人修羅だけが生き残る。
そして「プログラミングに数学は必要か?」を議論しながら年を越す皆様にとって、今回紹介した本を楽しんでいただければ幸いです。

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