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アイザック・アシモフと世界最初の産業ロボット Unimate(ユニメイト)

"Unimate" by National Institute of Standards and Technology (public domain)


私ですが企業情報化協会のAI&ロボティクス研究会委員長を長く努めさせていただいております。それもありまして、今まで、ロボットに関する記事をいくつか書いておりますが、

今回は、世界最初の産業ロボット Unimate (ユニメイト)に関する記事になります。

ロボットという言葉をきくと、我々は、様々なSF作品に出てくる人間型のロボットを思い浮かべることがあります。そしてそのようなロボットに関して語るとき、Issac Asimov という偉大なSF作家を無視することはできません。


現代における「ロボティクス(ロボット工学)」という言葉は、Issac Asimov によって1941年に発表された「Liar!」という短編の中で初めて使われました。また、続いて1942年に発表された短編「Runaround」にて初めて紹介された、人間型のロボットが従うべき原則である「ロボット工学三原則」は、その後のロボットが登場するSFだけでなく、実際のロボットの研究開発にも多大な影響を与えました。ホンダの人型ロボットである「アシモ(ASIMO)」は、Issac Asimov の偉大な影響に敬意を払い、その名をつけられています。

人型のロボットだけでなく、アーム型のいわゆる産業ロボットも、その起源は Issac Asimov とつながりをもっています。アーム型のロボットというのは、例えば以下のようなものです。

これは、ジェンガをやるロボットですが、今はここまで精巧な動作によりジェンガという困難なタスクを実行できるレベルに来ています。そんなアーム型の産業ロボット、その最初の製品は、1959年に開発された Unimate というロボットです。

Unimate は、1954年にアメリカの発明家 George Devol によって特許が出願された(1961年に特許取得)機械式アームのデザインを基に考案され、後、ロボット工学の父と呼ばれる Joseph Engelberger によって開発されました。

1956年のあるカクテルパーティーで、Devol と Engelberger は出会い、Devol の自分の最新の発明を Engelberger に紹介しました。その装置のアイデアの斬新さは、Issac Asimov のSF小説のファンであった Engelberger の心をとらえました。彼は、当時、Condec Corp という会社の子会社の取締役をしていたのですが、親会社のCEOに掛け合い、開発資金を提供してもらうことに成功。約2年の開発期間を経て、Unimate #001のプロトタイプを製作しました

Engelbergerは、開発にあたって、ヒポクラテスの誓いにも似た、「人に使役し、人に害をなさない」という Asimov の「ロボット工学三原則」の精神を反映できないかと考え、人の代わりに人にとって危険な作業に従事するロボットの開発に狙いを定めました。彼の狙いは功を奏し、1959年には、ゼネラルモーターズ(GM)の工場で金型鋳造製品(ダイカスト製品)の工程で使用が開始されました。メモリー(磁気ドラム)に記録された指令を段階的に実行し、鋳造された製品を機械から取り出して車体に溶接する、人には苦痛を伴う作業を担当しました。GM社内での評価も高く、それから2年間の短い間に、約450台もの Unimate が採用されました。

Unimate の評判は広まっていき、1966年には、NBC の The Tonight Show という深夜の人気番組で紹介され、全米の人が Unimate を目にすることになりました。スタジオからの生放送で、ゴルフボールをカップに叩き込んだり、ビールを注いだり、番組のバンドの生演奏を指揮したりと、多様なパフォーマンスを披露して視聴者を驚かせました。

人気の高まりとともに、Engelberger は米国外に顧客基盤を広げることを試み、フィンランドの Nokia社に、スカンジナビアと東ヨーロッパでのロボットを製造するライセンスを付与。また彼は、東京で産業用ロボットに興味を持った400人の日本の経営者をオーディエンスとして招いて講演を行った後、1969年に川崎重工業(現カワサキ・ロボティクス)とライセンス契約を結び、アジア市場向けに Unimate を展開していきました。


GM社に話を戻すと、Unimate の活用もあり、GM社の工場は世界で最も自動化が進んだ自動車工場へと進化していきました。1969年には、オハイオ州の工場を再建し、Unimate のスポット溶接ロボットを導入。このロボットは、従来にない生産速度を実現し、1時間に110台の自動車を製造することができ、自動車産業におけるGM社の成長の原動力となりました。ヨーロッパの自動車業界もすぐに追随し、BMW、Volvo、Mercedes-Benz、イギリスの Leyland Mortors、Fiat 等の企業が Unimate を導入して、人間にとって不快で危険な仕事を代行させました。Unimate はその後も20年以上にわたり改良が継続され、高い信頼性と利便性で長く人気を博し、世界で最も普及したロボットとなりました。

Unimate から始まった産業用ロボットは時代とともに高度化し、「水平多関節ロボット」「パラレルリンクロボット」「直交ロボット」、そして産業用ロボットの代表格でもある「垂直多関節ロボット」が登場し、パレットを積み上げる、部品を鋳造する、部品や製品を塗装する等、工場における多様なタスクをこなすようになりました。そして、前述した、ジェンガをやるロボットへとつながってきます。

今日、ロボットの活躍のフィールドは工場を超えて、我々の生活や社会サービスのあらゆる面にまで広がっています。またその形態も、ドローン、UGV 、人間型ロボットへと多彩になっています。


そんな発展著しいロボットですが、同時に難しい課題も見え始めてきました。例えば、近年の Deep Learning 技術のブレークスルーがもたらしているAIの劇的な進化と、多彩かつ繊細な動きを可能とするロボットが統合・融合されることにより、自分で情報を感知・収集し、判断し、行動を行う自律的なロボットも増えていくことが予想されます。時として、いわゆる「トロッコ問題」のような、倫理的なトレードオフに立ち入る決断をロボットに任せていいのかという問題もより議論されるようになるでしょう。それにより、「ロボット工学三原則」もまた参照されることが増えていくに違いありません。ここにおいては、産業用ロボットの原点である Unimate が、まさに人に使役し、人に害をなさないという「ロボット工学三原則」の精神に敬意を払って作られていたのだという事実を、我々は思い出しておく必要があるのかもしれません。

(参考文献: https://spectrum.ieee.org/automaton/robotics/industrial-robots/george-devol-a-life-devoted-to-invention-and-robots


おまけ

Unimate の開発は、今までにないテクノロジーを世に出し、それまでにない未来を見せつけた事例でありました。その後の 1960年代に、コンピューターの進化の方向性を実装して示し、そしてコンピューターネットワークによる人類の知の進化というビジョンまで提示した、Douglas Carl Engelbart の業績にも通ずるところがあります。もしご興味がありましたら、以下の記事も御覧ください。


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