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クリエーターの心得: 目の前の「正解」

デザインについて語ろう。


青い鳥という劇作品がある。2人兄妹のチルチルとミチルが、夢の中で夜の女王の宮殿や贅沢の女王の宮殿、過去や未来の国を訪れ、幸福の象徴である青い鳥を探す。話の最後に、目覚めた二人は、幸せはそもそも外の世界にあるものではなく、自分たちの家と家族とともにあることに気づき、青い鳥も屋根裏部屋の鳥籠の中にあった知るという物語だ。


時に、求めている本質や正解は、外の世界や、違う世界にあるのではなく、目の前にあることがある。


例えば、自転車のデザインの歴史に、正解はどこにあったのか、の青い鳥の物語を見ることができる。

自転車の起源は諸説あるが、1813年にドイツのカール・フォン・ドライスによって発明されたドライジーネが確認できる起源とされている。ペダルはなく、足で直接地面を蹴って走る乗り物だった。

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"Wooden draisine (around 1820), the first two-wheeler and as such the archetype of the bicycle" (c) by Gun Powder Ma under CC BY-SA 3.0.


ここから様々なアイデアが付与され、ペダルがついた自転車が考案された。(過去には、マクミラン型というのが1839年に考案されたという主張があるが、確たる資料が存在するものをあげると) 1861年にフランスでベロシペード(ラテン語で「早足」)というものが作られる。以下は、大量生産モデルのミショー型と呼ばれるベロシペード。

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ベロシペードはペダルを前輪に直接つけて漕ぐ乗り物となり、ドライジーネとは違って車輪は大きくなり、足は直接地面につくことがなくなった。

そしてなぜか起源のドライジーネの車輪のサイズからはどんどん外れていき、大きくなる方向へデザインは進化していく。

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1870年には前輪の巨大化は頂点に達し、ジェームズ・スターレーがペニー・ファージングという乗り物を考案する。あまりにも普及したため、ペニー・ファージングの別名は、オーディナリー(通常の自転車)になった。

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しかし、前輪の巨大化は当然のことながら、極端に重心位置が高いため安定性が悪く、転倒や落下のリスクの高い、危険な乗り物への変貌を招いた。

それを憂いたヘンリー・ジョー・ローソンが、後輪をチェーンで駆動する新しいタイプの自転車、その名も、オーディナリー(通常自転車)に対する、セーフティー(安全自転車)を1877年に発明する。しかし、なぜか今度は後輪が大きくなってしまった。

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その後の1885年に、オーディナリーを発明したジェームズ・スターレーの甥である、ジョン・ケンプ・スターレーがローバー・セイフティー・バイシクル(ローバー安全型自転車)を発明する。これが、モダン自転車の第一号となる。自転車(Bicycle)という名前はこのローバー・セイフティー・バイシクルの前後で、名前として定着するようになる。

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紆余曲折を経て、ようやく車輪のサイズが前後ともにだいたい同じ大きさに戻ってきた。

しかし、まだ面白い展開がある。子供が自転車を習得するために、昔は、補助輪(training wheels)というものがよく使われていた。

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"A boy riding a bicycle with training wheels" (c) by Dawn Endico under CC-BY-SA-2.0

自転車技師のシェルダン・ブラウンは、補助輪は正しい自転車の操縦を学ぶ障害になると指摘。プロフェッショナルサイクリストのデレック・バウチャード・ホールは、バランス・バイシクルこそ、自転車の操縦を学ぶ正しい手段だと語っている。

バランス・バイシクルとは、これだ。

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"Toddler on metal balance bike" (c) by Dbratland under CC-BY-SA-3.0

つまり、起源のドライジーネである。

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実は正解は目の前にあった。青い鳥はここにいたのだ。

時に、求めている本質や正解は、外の世界や、違う世界にあるのではなく、目の前にあることがある。いかに、目の前にある本質を見逃さないか。あるいは、外の世界に求めた後、いかに、また家族のもとに(原点に)戻ってくるか。それは非常に重要な心得となる。


「最も愚かなネズミは、猫の耳の中に隠れようとするかもしれない。しかし、最も賢い猫しか自分の耳の中を見ようとはしない」


余談:

以下は、デザインシンキングに関する記事。「イノベーションも高度ないかなるテクノロジーも、それを生み出していくためには、設計、開発、統合という全ての段階において人と人の交流とインタラクションこそが必要」ということについて述べている。


自転車の歴史を見たあと、機内安全ビデオの変遷を見ていると、今後どのような展開をしていくのかとても気になる。


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