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【TRAIL LOG】(ほぼ)飯豊連峰全山縦走

山歩きが好きな自分にとって、想い出深く、「一番好きな山は?」と聞かれるとよく答えるのが飯豊連峰だ。
福島・新潟・山形の県境を跨いで鎮座するこの山域は、標高2,000m前後の標高にも関わらず、その壮大な自然の景色と、山深い雰囲気は各アルプスにも引けを取らないと思っている。

今回は海の日の連休を使って、念願だった南北の主脈線を繋ぐ、所謂「飯豊全山縦走」にチャレンジしてきたので、振り返ってみる。

計画

飯豊連峰は南端にある飯豊山から、北端の朳差岳(えぶりさしだけ)まで南北に渡って50kmほど連なっている。飯豊山の主要な登山口である「川入」から入山し、朳差岳を越えて大石ダムをゴールとした。

南から北へ50kmを2泊3日で歩く計画

アクセス

飯豊を歩く上で一番頭を悩ませるのがアクセス。
普段は自分も自家用車で登山口まで行き、ピストンや周回で山を歩いてくることが多い。
今回は大石ダムに下山後、公共交通機関を使って川入まで車を回収するのが現実的ではなかったため、以下のような方法を取った。

〇初日 自宅(車)~郡山駅(郡山駅西口駐車場 3日間駐車で2,600円)
    郡山駅~山都(やまと)駅(在来線1,690円)
    山都駅~川入(飯豊山アクセスバス1,000円)

〇下山後 大石ダム~越後下関駅(タクシー4,000円弱)
     越後下関駅~坂町駅(JR代行バス240円)
     坂町駅~新潟駅(在来線858円)
     新潟駅~郡山駅(高速バス3,200円)

ネックは初日のスタートが9:30と遅くなってしまうことと、下山後に郡山駅に戻れるのが20:00ごろと遅くなってしまうことだったけど、時間的にも金銭的にもこの方法しかなった。

DAY1

自宅から郡山駅までは車で2時間弱。駐車場は駅に隣接しているのでありがたい。郡山駅で今回のバディと合流し、川入へ向かった。

日本海に停滞している前線の影響で東北地方や新潟は雨の予報。
当然のようにどんよりと曇に覆われた山々を見ながら、電車に揺られた。

郡山駅から4時間以上かけて最寄り駅の山都駅に着いた。想像よりは雨が弱かったものの、どんよりとした天気だった。
駅の目の前に停められていたアクセスバスに乗車する。客は自分たち2人だけ。「今回誰とも会わないかもしれないですね」そんな話をしながら登山口へ向かった。

郡山から電車を乗り継いで山都駅へ
小雨が降り頻る中、歩き出す

川入に付き、レインを着込む。登山口までは舗装路を30分ほどかけて歩く。
登山口脇の駐車場には車が数台泊まっていた。入山している人は多くないようだった。時間もないのでサクサクと進む。

川入の登山口

登山口から最初のピーク地蔵岳まではだらだらと長い樹林帯を進む。
風もなく、蒸し蒸しとした中、歩いていく。2、3人下山されてくる方とすれ違ったけど、静かな時間が続いた。

ガスに包まれた登山道
長い樹林帯歩きが続く

地蔵岳からは三国岳へ向けて岩場が続く。幸い風も弱かったので、難なく通過できた。

三国岳山頂は風が強く、三国小屋に入って休憩することに。
管理人さんのほか、4人組のパーティが休憩をしていた。悪天候のため、4人組は本山ではなく、手前にある切合小屋までの計画に変更する話をしていた。行動食を食べ、管理人さんに挨拶をして先へ進む。

三国小屋直下の細尾根
三国岳避難小屋

三国岳からは小さなアップダウンを繰り返して切合小屋を目指す。このあたりからようやく飯豊山の山容が見え、その景色にテンションが上がるところだが、厚い雲に覆われその姿を拝むことはできない。

稜線にある切合小屋周辺に入ると西風が強く身体を打ち付ける。細かな砂が飛んできて痛いほどだった。
この時期にはテントが並ぶテント場もさすがに一張りもなかった。

暑い雲に覆われれ先は見通せない
静まり返っていた切合小屋
初日はここに泊まる人も多い

小屋の前で休憩をさせてもらい、管理人さんからこの先風が強くなるよと声を掛けていただき、意を決して出発した。

ここからは稜線が続き、強風に吹かれながら進むことに。
特に細尾根の御秘所では風が強すぎて、何度も暴風態勢をとった。
雨こそほとんど降っていないものの、長時間風に吹かれたことで、体力が奪われ、集中力が切れやすくなっていた。
初日の行程は12kmで獲得標高差は登り1,900mくらいとさほどハードではなかったが、風によって確実に体力は奪われていた。

風で舞う砂が身体にあたって痛い
チングルマに癒される
歩いてきた道
強風の中、稜線を進む

テント場に着くとさすがに一張りもテントはなく、テント場脇の水場で水を汲んでから本山小屋へ。
小屋に入ると管理人さんが驚いたような表情で出迎えてくれた。
どうやら今日上がってくる客がいるとは思っていなかったようで、あきられ半分、温かく迎えてくれた。

本山小屋
小屋を広々と使わせていただいた

掃除が行き届いていて、綺麗な小屋は最大50名は泊まれるそう。
2人で広々とスペースを使わせていただき、濡れたものを干して着替えを済ませた。携帯の電波が微妙に入ったり入りなかったりで、明日の天気とにらめっこしながら、夕食を取った。

風の強さは弱まることはなく、時折小屋が揺れ、轟轟と小屋に吹き付けていた。

DAY2

3時に起床したが、風の音は相変わらず。
管理人さんにもここから先は稜線が続き、風が危ないよとお声掛けをいただいた。
撤退するにしても山頂直下の稜線や細尾根を歩くことになるため、先を進み、行けるところまで行こうという判断をした。

4時に出発。ひとまずの目標は頼母木小屋とした。
本山小屋から飯豊山山頂までは20分弱の稜線歩き。西風が向かい風となって、進むのを阻んでいる。もちろん視界はきかず、白い深い霧に包まれていた。

虚無の飯豊山山頂
何も見えない
コバケイソウ
美しい稜線歩きは叶わず

風にあらがいながら山頂に到着。ここから御西小屋へ伸びる稜線は見事なのだが、もちろん見えない。止まっていても仕方ないので先を急ぐ。

40分ほどかけて御西小屋に着いた。管理人さんは不在だった。
ここから飯豊連峰最高峰である大日岳も当初の計画には含まれていたけど、往復3時間かかり、視界もきかないことから、スルーすることにして、北へ向かう。
ここからは飯豊連峰の中でも「北飯豊」と呼ばれるエリアに入る。
何度も訪れたことがある飯豊でもこの北飯豊は歩いたことがなく、楽しみにしていた道だった。

咲き誇る高山植物
キンバイ?
御西小屋
癒してくれるのは花だけ
名前はわからず…

御西小屋から目指すは最初のピーク烏帽子岳。この区間がこのトレイルでも最も困難な道のりだった。
所々に残っている雪渓が氷のように固まっていて、とにかく滑る。
平坦ではなく、斜度のついた雪渓が登山道に斜めに残っている箇所が多く、スパイクやピッケルといった冬山装備を持たない自分たちにはとても歩行が難しく、尾根に上がって背丈以上もある藪をかき分けて進んだり、急斜面を滑りながら降りるようなことを繰り返した。
事前に雪渓が残っているという話は聞いていたが、ここまで危険な状況とは想定していなく、体力というよりも精神的に大きな疲れとなって残った。

大体この景色
残雪に気を取られる
雪に見えても実際は氷のようにツルツルしている
融雪も進んでいて、所々踏み抜く
揚げたてのようなゼンマイが多く自生していた

昨日から吹き続いている風に加え、雨も降ってきて、あっという間にびしょ濡れになった。
烏帽子岳から30分ほどで梅花皮小屋に到着し、少し休むことにした。
この小屋にも管理人さんは不在だったけど、飲み物の無人販売があり、ありがたくコーラを補給した。
2階に先客がいて、この天気の中、隣の門内小屋から移動してきて、そのままこの梅花皮小屋に泊まられるようだった。
それぞれ来た道の状況の交換をしながら談笑した。
※下山後にGPSアプリYAMAP上でこの方からメッセージをいただき、翌日無事飯豊山に登頂され、下山できたようだった。さらにその飯豊山がその方の百名山の最後の一座だったようで、とてもうれしくなった。

梅花皮小屋
中はとても綺麗だった

梅花皮小屋で休憩させていただき、次の目的地門内小屋へ。
北飯豊最後の高いピーク北俣岳(2,024m)を越えればあとは下り基調になるので、幾分気が楽だった。
息を切らし北俣岳へ登頂すると、元気な学生の一団がいて、なんだか元気をもらえた。
ちなみに、初日からこのタイミングまで、相方との会話で「晴れていたら最高っすね」という話を数え切れないほどしていた。なにかの合言葉のようになっていた笑

北股岳山頂
晴れてれば綺麗でしょうね…
門内岳山頂

門内小屋に到着すると先客がいて、彼は今日の朝に飯豊山荘から入山してきていた。下界は晴れていたようで上がってきたらあまりにも風が強く、面を食らっているようだった。
そんな話をしながら、ラーメンを作って食べていると、いかにも猛者というようなハイカーが入ってきた。
半袖短パン。見るからに筋肉隆々の筋肉を身にまとった彼は、なんと飯豊山へ10数回登っているベテランの猛者だった。
9時間もかかる梶川尾根のルートをわずか半分の4時間ちょっとで駆け上がってきたようで(しかもテント泊装備)あったが、涼しげな顔をしていた。

そんなベテランの方と、もう一人の方と道の状況や、尾根の話、テント場などいろいろな情報交換をさせていただき、とてもありがたかった。

門内小屋
風ニモマケズ
ヒメサユリ
頼母木山山頂

出発前天気予報では、2日目の夕方くらいから天気が好転する予報だったが、そんな気配は全くなく、風は強まり、雨が横殴りで振っていた。
雨が真横から身体に打ち付け、砂粒が当たっているかのように痛かった。

頼母木山などいくつかのピークを越え、この日の目的地頼母木小屋に到着した。14時だった。

頼母木小屋
小屋隣接の水場
濡れたものを全部干す
ゴザがありがたい

頼母木小屋は管理人さん用の部屋の隣に炊事場と、蛇口が付いた水場があり、2階建ての小屋と、綺麗なトイレが完備されていた。

風は弱まるところか強くなっていて、雨も降っていることから、2日目も小屋泊をすることにした。(2,000円/人)

小屋に入ると、ツアーで来ている6人ほどのグループとガイドさん、小屋番らしい人が談笑されていた。全身びしょ濡れの僕たちを見るなり、場所を作ってくれて、濡れたものをすべて干すことができた。

その後も2組ほどハイカーがやってきて、小屋の中は賑やかになり、僕らもビールを飲んだり、ほかのハイカーとおしゃべりしたりとゆっくりとした時間を過ごした。

予報に反し、天気が好転することもなく、強風と雨が降りしきる中、眠りについた。

DAY3

山をやる人の朝は早く、3時にはみんなぞろぞろと起き出して、朝食を摂ったり、出立の準備をしていた。

僕たちも4時前には出発。
最終日はえぶり差、前えぶり差岳を経由して大石ダムへ下山する。
帰りの時間を考えると昼前には大石ダムに到着したかった。

一晩干したことでドライな衣服、靴に身を包んで出発するも、濡れた草花ですぐに下半身はびしょ濡れになった。
雨こそ降っていないものの、相変わらず風は強かった。眺望も望めるはずもなく(今日も)、ひたすら先へ進んだ。

この景色も3日目になると何も感じなくなる
相変わらず風が強い
背丈ほどもある草が多い茂り、服がびしょ濡れに

前えぶり差岳を最後にどんどんと標高を下げる。
標高1,000mを過ぎたあたりで雲が切れ、3日ぶりに青空と太陽を拝むことができた。

陽の光に感謝しつつ、一気に暑さに襲われた。
山頂にかかっている厚い雲が流れていく様を見ながら、下山を急いだ。

雲が晴れた
山の上には暑い雲が

下山している途中にも何組も登山者とすれ違う。
御歳を召したご夫婦もこれから登って、草や木を切って整備するという。
この急登を登って登山道を整備していただいていることに感謝しかなかった。

しばらく急登を下り、ぬかるみや細い巻道などを経て、林道の終点に着いた。

ここからは約8kmにも及ぶ長い林道を歩く。

山を降りてきた
林道終点
長い林道の終わり

所々崩落している所や落石がある道だったけど、日陰もあり、勾配も少なく歩きやすい道だった。

淡々と歩きちょうど12時ごろ、無事大石ダムに到着した。

こうして約45kmの飯豊連峰の縦走は終わりを迎えた。
予想以上の悪天候だったけど、そんな中を歩き切れたことや、山小屋での出会いなど濃密な山旅となった。

大石ダム
旅の終着点
ここからタクシー

飯豊を歩くのはこれで4回目だったけど、まだまだ飽きることなく、ますますこの山域に魅せられた。
また季節を変えて、今度は綺麗な景色も堪能したいと思う。

帰路

大石ダムからはタクシーで最寄りの越後下関駅へ向かった。
運転手さんに駅最寄りの道の駅関川内にある、「天然温泉ゆ~む」まで送っていただき、3日分の汚れを落とした。

天然温泉ゆ〜む
いい湯だった
関川村のメインストリート
雰囲気良き

越後下関駅からはJR代行バスで坂町駅に向かい、そこから在来線で新潟駅へ向かう。新潟駅について相方と餃子の王将で下山飯を食らった。餃子最高。

新幹線で都内へ戻る相方とは新潟駅でお別れ。
自分は車を停めてある郡山まで高速バスで戻った。

これが僕らの飯豊全山縦走(ほぼ)の記録である。
綺麗な景色も、縦走路も、気持ちのいい道もなかった。
ただなんとも形容しがたい充実感と、達成感に包まれ、悲壮感は全くなかった。
この理由はいまだによくわかっていないけど、また晴れたこの山域を歩くという新しい目標ができたので、その時を楽しみにしたいと思う。

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