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父の帰宅 06

ヒサコさんが帰国したその日にマサは谷口病院にヒサコさんと向かった。マサはこの時点でも薬以外の方法はないか医師に訊ねている。医師は現状でアルバイトすらできないことを憂慮してとにかく今は薬でパニック発作を抑えて最低限の社会生活を送ることをすすめた。そして一日二回分のコンスタンが処方された。マサが薬に抵抗があることを考えてこの量にしたのだろう。

マサはコンスタンを服用したがたいして効果はなかった。ある程度薬の成分が血液中に維持されないと薬は効果を発揮しない。効果が現れるまで個人差はあるが数日から数週間はかかる。ただマサにとって薬を手に入れたという安心感は大きかった。

マサはここで覚悟を決めた。マサは今まで怖くてその疾患の詳細について知ろうとしなかったが、パニック障害について納得行くまで調べ、自分が信頼できる医師に出会えるまで病院を探し続けようと決心した。このマサの覚悟は半端なものではない。マサは一度決めると絶対に譲らない。

マサは図書館でパニック障害について書いてある本でパニック障害について詳細に調べた。まずパニック障害という病気がまだ完全にどういうメカニズムで起こっているのかはっきりしていないということが分かった。そして仮説としてノルアドレナリン説、セロトニン説、ギャバーベンゾジアゼピン説があることが分かった。

パニック障害とストレスとは関係は一般的に明らかではないが、多くの患者は、幼少時生命を脅かされるような体験をしている人が多い。さらにパニック障害者の患者は幼少期(一五歳以前)に両親のどちらか一方と別れて暮らさなければならなかった人が多い。この本の著者のクリニックを訪れたパニック障害の患者のうち二〇%の人が両親のどちらかと分かれて暮らした経験がある。

また幼少期以後も受けた激しいストレスが、何年か後パニック障害の発症に影響しているという事実も明らかであるということ。その中には暴力的虐待も含まれる。性格としては、まじめ、ひたむき、凝り性、気にしやすい、臆病、自分から身を引くという配慮性、素直、ことを構えることを好まないということがあげられる。

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