父の帰宅 25
期間:〇歳~五歳
──僕は三九〇〇グラムという大きな身体で生まれました。しかし生後一〇日目ぐらいに幽門狭窄症という腸の病気で緊急入院することになりました。母親が息子がミルクを飲んでも吐き戻してしまうということで産婦人科を訪れたところ、乳幼児によくあることで心配ないですよとお医者さんがいわれている矢先、偶然先生の前で吐血をして、命に関わる状態だったので急遽新幹線に乗って隣の県にある病院までいって緊急手術を受けました。
僕が産まれたときは現在住んでいる自宅で生活をしていました。父親はガラス会社を経営し、母親は祖父が経営するレストランを手伝っていました。僕が生まれてから一、二年は夫婦仲は良かったと思います。
とりあえず僕からみた両親の性格を描写したいと思います。
父親は身長一八三センチ、体重八〇ロキ、体格も筋肉質でルックスも女性にもてるタイプだったと思います。父の育った環境についてはあまり詳しくないのですが父が小学生のときにこんな田舎から東大に入れる子どもが現れたという風なことをいわれていたそうです。
運動に関しても高校時代は野球と陸上でそうとう有名な選手だったそうで槍投げでは一時県の記録を持っていたそうです。しかし勉強にしてもスポーツにしても努力を怠ったので結局どちらも大成しませんでした。裕福な家庭ではなかったようですが、僕が現在一緒に生活している父方の祖母にとっては自慢の息子でした。
例を挙げると父が小学校のときに何かの問題で先生と口論になり、どうしても父は譲らなかったそうです。そして担任の先生が仕方なく我が家へ頭を下げに来たそうです。そのことを祖母はよく得意げに僕たちに話していました。卑しくも教師に頭を下げさせたことが祖母にとっては自慢話になっていました。母親としては叱るべきところだと思います。溺愛という言葉が適当かどうか分かりませんが末っ子の長男なのでそうなってしまったのかもしれません。
しかし父が一〇月頃に帰宅するまで一二年間何の連絡を寄越さなかったにもかかわらず、普段どおり帰宅するかのように部屋に上がりこんできました。チャイムが鳴って祖母が玄関に出て行ったとき祖母の表情だけが見えたのですがそのときなぜかすぐに父が帰宅したことが分かりました。あのときの祖母の顔を忘れることができません。
そしてもちろん母もかなり動揺していました。腹立たしい気持ちも当然そうとうあったと思います。しかし祖母は母が父にお茶を出さなかったことに激怒しました。一二年間家庭をないがしろにして家族に苦痛を与え続けた張本人の帰宅にお茶の前にまず親としていうことがあるだろうと思いました。祖母の性格としては世間体を非常に気にするところがあります。
祖父はなんといいますか飄々と生きている感じがして我関せず的なところがあり息子の教育ということにもあまり関与していなかったのではないでしょうか。僕はこの飄々とした祖父が好きなのですが。祖母の性格と父自身がなんでもできたので唯我独尊でものごとを多角的に見ることができなくなってしまったのだと思います。周りにいた人間からもそうとうちやほやされて思春期を送ってきたと思います。そして父を諭す人間が周りにいなかったと思います。
父はさも何もかも知っているように話し、自分の価値観がすべてだと確信しているように僕の目には映りました。例を挙げるならば父は外国の話をよくしてイタリア人はこうだ、アメリカ人はこうだといった感じで話していて、僕は中学生になるまでてっきり父は色々な外国へ行ったことがあるのだと思っていたのですが実は父がどこかから仕入れてきた情報を脚色して僕たちに話していたみたいです。
僕があらゆる情報を本、新聞、ネットなどでものごとを確実に把握してその情報を基に自分の考えを導き出したいと考えるのはこの父の浅博な性格の反面教師的なところがあります。
次は母についてですが、母の家庭も当初は貧しかったのですが、親戚が事故のために亡くなり保険金の一部を母方の祖父が受け取り、そのお金を元に金融業を始め、事業を成功させて、それなりに裕福な家庭になったようです。僕の目から見た母方の祖父は人格者でした。
金融業のほかにレストラン経営を成功させるなど商才と人望のある人だったと思います。面識はありませんが母方の祖母はその後蒸発してしまったそうです。母親は妹と中学生のときにその実の母親に会いにいったそうですが、そのときもうすでに別の家族ができていて母はそうとうショックを受けたようです。
母の特徴的な性格としては今ではだいぶましになりましたが、昔はかなりヒステリックで感情をうまく抑制できないところがありました。あと付け加えるなら母親の実家がある地域は元部落にあたり貧しい環境の人が多く、いわゆるヤンキーになっていく人がかなりの割合でいました。そんな中で祖父のような裕福な家庭は珍しかったです。
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