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父の帰宅 06

男性患者の場合結婚相手は「姉さん女房」という例が多い。統計では妻より年少の男性患者は一二%であるのに対して、夫より年長の女性患者は二・九%に過ぎない。年上の女性を伴侶として選ぶ意味として、母性を求めている、依存心が強い、男性的ではない、という性格が関係していて、不安を抱きやすいといった体質が関わっている。

さらにアメリカの一流誌が発表した精神力モデルがある。パニック障害者の患者にインタビューした結果得られた、次のような五つの特性を基にしている。しかしこれはあくまで仮説である。

① 多くの患者は幼少期を臆病、神経質、内気と表現している
② 自分の親は怒りっぽい、怖い、批判的、支配的、という記憶を持つ
③ 自分を自傷するとともに、家族に対する攻撃性をみせる
④ 自尊心が低い、配偶者を冷静で温かい、面倒見がよい、助けになってくれる、やさしいと評価する
⑤ 葛藤をおこし、立腹したくなるようなストレスがパニック発作に先行している

マサはこの時点でほとんどのことが自分に当てはまっていると思い込んでいた。確かにこの時点でのマサの性格はこのとおりだった。マサが年上の女性を好むことはマサを知っている人間には周知の事実だ。しかしそれは劣悪な家庭環境のためにもたらされた性格であって決してマサの先天的な気質がパニック障害に結びついているわけではない。

これからマサがとっていく行動、それによって明らかになっていくマサの性格は臆病などころかどんな恐怖にも果敢に挑んだ。本当に自傷的な人間だったらマサのおかれた環境下で育てば、とっくに人生を放棄しているか自殺をしている。しかしマサはただひたすらに回復へと突き進んだ。依存心が強い、マサがPTSDと分かってからマサのとった行動はどんな人間より自立心が強い。

マサはいつもいっていた、今の俺を精神的にみんなが支えてくれるけど物理的に辛いことは俺以外に引き受ける人間がいないから俺は耐えるよ、回復するまでは。わたしはこの言葉をPTSDの人間から聞いたことに感動した。確かにマサ以外にマサの辛さは引き受けられない。マサはそれを自覚していた。

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