なぜビジネス書の著者が神保町の書店『ほんまる』に棚主として出店したのか
書店の棚主になりました!
書店の名前は『ほんまる』です。2024年4月27日、神保町にオープンした白くてオシャレな店舗。
この『ほんまる』、シェア型書店といって、棚の1つ1つを月額制で売っており、棚主は好きな本を販売することができるのです。
そこの棚主となりまして、私は自分の本を並べることにしました。
それがコチラ。
で、なぜこの棚主となったのか。理由が山ほどあって、ちょっとまとめようということでコチラに書かせていただく次第です。
ちなみに理由は大きく5つありました。
では、まず1つ目から。
理由①経営者の想いに賛同
そもそも『ほんまる』を知ったきっかけは、「テレ東経済ニュースアカデミー」という番組です。
“直木賞作家の今村省吾さんが書店経営を手掛けている”、というのは何かの媒体で見たことがありました。ただ、そのきっかけや想いについては知りませんでした。
今村翔吾さんは、「全国で本屋さんの数が減っていくのを座して見ているわけにはいかない」ということで、自ら書店経営を手掛けていました。それが、大阪の「きのしたブックセンター」や佐賀の「佐賀之書店」です。そして今回、シェア型書店として神保町に『ほんまる』をオープンさせたというわけです。
番組のなかで今村翔吾さんが「書店業界はヤバい」「もう正攻法では無理」と語りながら危機感を募らせ、「小さな一歩から業界を変えたい」「この『ほんまる』から反撃の狼煙を上げていきたい」と、自身の印税も投じて書店を立ち上げたというのです。
そんな経営者としての今村翔吾さんの想いに強く賛同し、応援の意味も込めて出店しようと思いました。これが1つ目の理由。
ちなみに、「テレ東経済ニュースアカデミー」の動画は公式にアップされていたので貼っておきます。再販制度のことや出版点数の問題など、かなりコアな部分にも触れているので、非常に面白いです。インタビュアーの豊島さんもすごく優秀。
理由②コンセプトも素晴らしい
前述の動画でも語られていますが、書店が劇的に減っている昨今。毎月50店舗のペースで書店が姿を消していると言われ、全国の自治体の約3割には「書店がない」という状態なのです。
インタビューで今村翔吾さんが「もう正攻法では無理」と語るように、書店はただ本を売るだけでは難しくなっています。で、この『ほんまる』は、まず書店になりたい人に棚を売っている。月額4000~9000円程度のサブスク形式で棚を貸し出しているのです。
これがシェア型と呼ばれるモデルで、棚主は『ほんまる』経由で新刊を仕入れて並べることもできれば、自身が持つ中古本を並べることもできます。そして、本が売れたら『ほんまる』の手数料は5%だけ。
自分は8360円/月のプランを選択しましたが、じゃあ本の売上だけで月に8000円もの金額がペイできるのかというと、なかなか黒字にはならないでしょう。
しかし、『ほんまる』としては場所の価値を高めることにより、「その棚を借りることが、借り主さん個人のブランディングになる」と説明します。
では「場所の価値を高める」というのはどういうことか。
『ほんまる』は店舗も棚もロゴも、あの佐藤可士和さんがトータルでデザインしています。佐藤可士和さんがトータルプロデュースしている店舗に月に数千円で入居できるなんて、なかなか無い経験でしょう。確かにこれは1つの付加価値です。
なお、今村翔吾さんと佐藤可士和さんが『ほんまる』の設立秘話を語っている公式の動画もありましたので貼っておきます。
さらに、「ゆくゆくはコミックマーケットみたいに、棚主さんが一堂に会するイベントも開きたい。そんな機会をガンガン増やしていきたい」とも説明されているので、オンラインサロン的な展開も期待できるのかなと思います。
そんなコンセプトも素晴らしいな、ぜひ参加したいな、というのが2つ目の理由です。
理由③自著の紹介がしやすい
自分自身、文庫や新書を含めビジネス書を12冊ほど出してきましたが、前述した通り出版業界には「出版点数が多い」という問題があります。
現在、日本では毎年7万点もの本が出版されているというデータがあります。 これを365日で割ると、1日あたりおよそ200点が出版されている計算。
そうなると、新刊を出しても棚にいつまでも置いてもらえるわけではありません。初速が伸びなければ、書店員さんの判断ですぐに棚から入れ替えられてしまいます。
なかには「すぐに消えちゃったよ~」と嘆く著者もいますが、書店員さんも次から次へと送られてくる新刊を並べるのに必死ですから、仕方のないことだと思います。
幸い、自分の本は店頭で大きく展開してもらったり、王様のブランチでランキング入りしたりと露出が多かったこともあり、割りと棚に長く置いてもらえる本が多くて、本当にありがたいことです。
しかし、それでも2024年の現在も置いてもらっている自分の本は、数えるほど。12冊出した本のうち、どれをどの書店に置いてもらっているのか、自分でも定かではありません。
そのため、新たにお知り合いになった方から「原さんの本、買わせてもらいますよ。どこの書店に置いてます?」とか「近所の書店に無かったので、Amazonで買っちゃっていいですか?」と言われて困ることもチラホラ。
やはり著者としては国内の書店を応援したいのでAmazonよりも可能な限り書店で買ってほしいのですが、どこを案内していいか分からないのが悩みでもありました。
しかし、この『ほんまる』で棚を購入して自分の本を並べておけば、すべて解決するわけです。「神保町の『ほんまる』に全部売ってます」「神保町の『ほんまる』って書店で買ってください」と言えるのは強いな、と。これが3つ目の理由です。
ちなみに自分の棚は、お店を入ってすぐ左の一番端。外からも見える位置です。
棚には自由に名前が付けられるんですが、さすがに自分の名前を出すほどの大先生でもないので、『超速ビジネス原点ブックス』と名付けました。
ビジネスの原理原則的なことを書いた本や、業務効率を加速させる本が多いので、そんな名前にしたわけです。「原点」と「原マサヒコ」で『原』繋がりでもあるので、分かりやすくアイコンにもしてみました。
理由④編集者へのプレゼント
3つ目の理由にも繋がるんですが、自分自身だけでなく『編集者に対して』という面もあります。
著者は一人で本を書いているわけではなく、編集者さんに支えられているからこそ書ける部分があります。時に意見をぶつけ合い、時に励まし合い、じっくりと話し合いながら本を作り上げていく。そうして1冊の本が形になっていくわけです。
そういえば、過去には編集者さんと話し合っている様子を取材されたこともありました。
一緒に作り上げていく本ですから、棚から本が消えてしまうのは担当した編集者さんも悲しく思っているでしょう。まあ、いちいち悲しんでいる暇も無いほど忙しいと思いますが。
しかし、自分が担当した書籍が『ほんまる』でずっと並ぶとなったら、編集者さんも喜んでくれるはず。
つまり、『ほんまる』への出店は、一緒に書籍を作った編集者さんに向けた“プレゼント”という意味合いも含めているのです。「あなたと一緒に作った本、ここに並べておきますね」と。
そんな場所が作れるのはいいなあ、と。それが4つ目の理由。
理由⑤実際の店舗を見て、良かったから
「現地に行き、現場を見て、現実を知ろ」
これはトヨタの現場でよく言われる、三現主義というやつです。『ほんまる』の存在を知って棚主になろうかと考えた私は、「とにかく現場に行こう」と、三現主義よろしく実際の店舗に足を運びました。
大手チェーンに比べると小さな店舗ではありましたが、平日の午後にも関わらずお客さんがしっかりいました。外を見ると、ひときわ目をひく外観に目を止めて興味を持つお客さんも多い。さすが佐藤可士和さんです。
そして客として棚を眺めていると、これがすごく楽しい。通常の書店だと自分の興味のあるコーナーに行くばかりで手に取る本が偏っていたのですが、この書店は棚単位でジャンルが異なるし、なんだったら棚の中でも多様性がある。
1つ1つの棚を眺めるだけでも楽しいし頭が活性化する感じがするんですよね。気が付けば数冊の本を手に取ってレジに並んでいました。
そして対応してくれた店員さんに「棚がすごく楽しいですね」と話しかけ、棚主に興味があることを伝えると「ありがとうございます!」と明るく対応してくれてパンフレットをもらいました。
こうした一連の体験を踏まえ、「ここに自分の本を置いてもらったら素敵だな」「よし、やっぱりここに自分の棚を持とう」と思った次第です。店員さんも素敵な人ばかりで応援したくなるし。これがトドメの理由。
ちなみに、本のブックカバーやしおり、紙袋にも当然ながら佐藤可士和さんがデザインしたロゴが入ってきます。
そして店内には、ロゴが入ったグッズも各種売っているようです。自分は紙袋だけでなく黒のトートバックも買ってしまいました。
以上が『ほんまる』に出店しようと思った主な理由。
さて、今村翔吾さんはインタビューで「『ほんまる』は神保町のみならず、これから全国に展開していきたい」と語っておられました。
確かに、このモデルは全国に展開できると思います。『棚を持つ』というのは多くの人が体験してみたいと感じるのではないでしょうか。
自分のようなビジネス書の著者もそうですが、小説家や芸能人、経営者など、いろんなジャンルの人の個性あふれる棚が増えていくと、書店としての魅力も高まっていくのではないかと思います。
色んな組み合わせと広がりが感じられる新しい書店ですので、皆さんもぜひ神保町の『ほんまる』に足を運んでみてください。“三現主義”でね。
そして、入り口入ってすぐ左の『超速ビジネス原点ブックス』の棚もぜひチェックしてくれたら嬉しいです!
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