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道【エッセイ】

 日課としている八千歩ウォークの、ルートAの道を、頭に描く。
 防衛省近くの自宅を出てすぐの、横断歩道で、立ち止まる(その信号は、なぜか赤のときが多い)。渡る。右手に、よく利用するカットサロンがある。担当のIさんの姿が見える。
 スタスタと速足で歩く。五分位で牛込柳町の交差点。その近くに、イベリコ豚専門のレストランがある、はずが、なくなっている。窓に「テナント募集」の大きな貼り紙が。どうしたのだろう。人気店だったのに。あのマスターに何かあったのだろうか・・・。
 交差点を左折し二五〇歩の所に、鰻屋がある。一度行ったが、その後は行っていない。鰻重は、鰻とごはんを、きっちりと箸で四角に切ってすくい、ゆっくりと、口に運ぶ。それが、鰻を食する私の流儀。が、その店のタレは、「ツユダク」気味で、くずれるのだった。なので、三千歩と少し離れるが、江戸川橋の老舗「はし本」を、贔屓にしている。
 その交差点の大久保通りの右手、離れた場所に、時々パトカーが止まっている。右折禁止の交差点なのだが、違反する車を「張って」いるのだ。なんとも、セコイことよ。
 スタスタ歩く。右側にスペイン料理店がある。が、開いている日よりも閉まっているほうがが多い。やる気あんの、と思ってしまう。
 スタスタ。左側に「草間彌生美術館」がある。いつも入館待ちする欧米人を見る(五百歩早稲田よりには、漱石山房記念館も、ある)
 スタスタ。早稲田通りを渡り早大正門通りまで来ると、だいたい十五分なのだが、想像の中のせいか、少し速足だったようだ。ではもう少し、スタスタ。すると、新目白通り。渡って五十歩。神田川が流れている。その遊歩道は、時期には桜の名所のひとつとなり、一番好きなベストルートの、道だ。
 と、そこで、「〇〇さん、終わりましたよ」の、MRIの検査技師の声が、聞こえた。
 狭い筒の中に十五分も入るとなると、閉所恐怖症としては、パニックになる。なので、筒の中に入っていることを紛らわすために、ウォーキング・ルートの道と、その並びの店や場所を、頭に描くことにしているのだった。

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