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怪我の功名【囁きエッセイ】三二〇〇字

 レッドカードからイエローに変ってなんとか入院1か月でシャバに戻された、ワタクシ。これまでの何度かの入院とは違って、全身の皮膚をするりと脱ぎ捨て、ほやほやの皮に覆われつつある感覚なのだ。
 退院して自宅に戻る前に、四谷三丁目の和菓子屋で「元祖イチゴ大福」(脂質制限があるなかで許される嬉しい逸品)を入手。1か月ぶりにコーヒーを淹れ、ベランダに出て大福をほおばり、コーヒーを口にしたのだが、とても苦く感じた。上品な甘みのアンコとイチゴに合わない。翌日の朝のコーヒーも、やはり苦い。試しに(賞味期限はゆうに切れている)紅茶を淹れてみたが、口当たりが良いのである。そこで最近は、紅茶にスイッチしている。程よい苦みが心地よいのだ。
 そもそも甘いものは好きなほうだったのだが、辛口と甘口の両方では肝臓よりも腎臓が心配になるので抑えてきた。しかし、いまは禁酒令。ならば平気だろうと、濃い目にした紅茶と、大福やボタ餅を毎日、口にするようになってしまっているのである。

 病のおかげ(?)か、ほかにも入院前との変化を感じることが、いくつかある。「白髪が減った!」とか、「脊柱管狭窄症の影響が軽減された!」とか、「食事が美味しく、その時間が楽しくなった」とか、「快便である」とか、etc。
 順にささやいていこう。

白髪が減った
 重い病を経験すると白髪が増えると言われるが、逆であった。下の「仮出所」時のキクチ容疑者の写真。黒々としている。むろん病院にはヘアカットサロンなどないので、染めてはいない。光加減もあるが、白いのが少なくなっているのは間違いない。苦しんだ雰囲気を演出したかったのだが…、リゾートホテルから出てきたかのよう、である。


「仮出所」に際し、報道陣の様子をうかがうキクチ容疑者

脊柱管狭窄症の影響が軽減された
 ワタクシの(医学的根拠に基づかない)憶測であるが、体重が10kg激減したことが幸いし、脊柱管を通る神経を外側の贅肉が圧迫し左下肢の痛みを誘発していたのが、贅肉量が減少したことで圧迫がなくなったのではないか。5キロ戻っているが、これ以上無駄な肉が増えてくると、また神経を刺激し痛みがぶり返すことになる。よって無駄な肉を増やさないことが大切になる。したがって今、脂質を抑えタンパク質量を増やすことで(炭水化物・糖質は、大福とぼた餅。💦)、残り5kg分を筋肉でカバーするように食事を調整しているところである。
 この痛みの軽減はなによりもありがたい。せっかく「もうちょっと生かせてやる」となったからには、これからは努めて旅にも出たい。旅先での散策が楽しみになってきている。

食事が美味しく、その時間が楽しくなった
 とにかく、食事の時間が楽しみになっている。大好きだったリブ・ステーキ、豚ロースカツなど脂質が多いものは食べられないが、これまで敬遠してきた鶏むね肉でも工夫次第で美味しく食べられるし、マグロ赤身の刺身や白身魚の焼き物・煮つけなどの好物もある。そして、何よりも「食べられる」ことの歓びを、いま噛みしめている。
 これは入院中の反動なのかもしれない。3週間近く食べられなかった。喉を通らない。なんせ、鼻腔に胆管からの太めのチューブが通っているのだ。食べ物の通るスペースが限られる。ジュースを飲むのがやっと、固形物を入れようなら、吐く。薬を飲み込むのも大仕事になってくる。嘔吐を繰り返すので、2本目のチューブまで入れられることになった。栄養剤を胃袋に送るためである。これでは固形物はもちろん水分さえも満足には通らない。それでも薬だけは免除されない。「どうせなら薬も砕いてチューブに流してよ」と言うが、すげなく却下。
 3週目の1月17日の2回目の内視鏡施術で、ようやく管が抜かれた。奥深い地底の洞窟から地上に出てきたような解放感があった。と、同時に「腹が、腹が空いて来た」と「井之頭」状態。しかし、3週間もまともに固形物を通していないのだから、当然、三分粥から。翌日は、五分粥であったが、頼りない米粒でも噛みしめて味わった。七分粥、全粥の前座を卒業し、真打の“普通のご飯”が出てきたときの感動は、過去の入院生活でも経験がない。
 「マズイ!」病院食ではあるが、三度の食事タイムが待ち遠しくなっていた。食事をしていると、「生きてる!」と思えてくる。「ああ、やはり生きることは喰うこと」なんだな、とあらためて思った。配膳ワゴンが近づいてくる音で、唾液がながれてくる。なんだかの犬みたいなもんである。(量が少ない)病院食をいかに楽しむか。そこで会得したのが、ゆっくり噛んで、噛みしめて食べること。これまでの早飯のワタクシなら5分で完食だが、心がけた。30回以上の咀嚼が厚労省の推奨らしいが、36回。クシャクシャ→×シャ。💦 そして体力の低下で食べること自体に疲労もあり、休みながらだったので1時間はかかっていただろうか。幸い、(血圧は高い方ではなく)塩分制限がなく、普通の味の濃さがあったので噛むことで、さらに美味しく食べられた。
 この影響か、退院後も食事タイムが待ち遠しい。9時にベッドに入ると、朝食に何を食べるかのメモを書く。朝が待ち遠しいのだ。朝食が終わると、昼食、夕食とそのメニューを考えるのが楽しい。食材の買い出しメモを作成するときから食事タイムが始まっている。 
 脂質が少ないメニューを選んだ外食も可能だが、低脂質の料理を作ったほうが安心であるし、早い。それと、その調理自体が楽しくなってきている。(仕込は別にして)1時間はかかっているだろうか。でも、あっという間に過ぎる。何も考えずに手だけを動かし、まるで禅僧のごとくに調理を楽しんでいる。

ある日の朝食。タンパク質中心のメニュー。
ノンアルであるが、朝からのビールは罪悪感がある。💦^^

快便である
 快食であるとともに快便にもなった。とにかく通じがいい。1日2,3回。ワンりきみで、一本につながって出てくる。(低水位ではあるが)水面から姿を見せるまでに溜まる。「出たーーー!」と感じたのを100とすると、150は放出されている。しかも、人生のほとんどが緩かった便質が、程よい軟度? 硬度なのだ。あられちゃんじゃないが、つい“つんつん”したくなるほどに形が良い。和式なら、完全にろくろを巻いている。
 この違いは何だ! 入院前と変わっていることとしてあげられるのが、むろん、禁酒。それと脂質制限。あとよく噛んで食べていること(どなたか、どうしてこうなったか推測できる方は教えてくだされ。禁酒効果? だけじゃないよね)。
 とにかく「快腸」なのは良いのだが、ガスの発生もハンパない。腸内が活性化されていることの歓びよりも、場所を選ばず溜っているガスが連続噴射しそうになるのが、現時点の唯一の悩みになっている。

最後に、
(小声で)“ちょいもれ”なくなった
 調理や洗い物の最中、流水音に刺激され、「チョイ漏れ」を経験したことはなかろうか(あるよね?)。老化すると、その頻度が増し、下着を濡らすことになる。そこで今、「パッド」なる代物が売れている。特に、チョイ漏れタイプの10ccは、売り切れになるほどに需要がある(らしい…💦^^)。その症状が、退院してから、ない。

 とりあえず「推定無罪」の身。先がどうなるのか不透明だが、ステロイド剤治療に期待するしかない。やれることは楽しく真面目に実行し、1年後には、せめて、せめて週2日の飲酒日を復活させたい。ただし、禁酒してから知ってしまった甘味、イチゴ大福やぼた餅は諦められない。来季、ピッチャーとしても復活するオオタニさんにあやかって、「二“党”流」と、ぜひとも洒落こみたいものである。

(質問!)
肉料理の湯煎で使ったジップロックは、その都度捨てていますか? もったいなくて捨てられないワタクシなんですぅ…。
ということで、次回は、料理編。

(特大ふろく)
<「復帰プロジェクト」会>

ワタクシの復活のお手伝いいただいた友人たちへのお礼の会
“見目麗しい妙齢の”女性お二人。横のお方は、『学生街の喫茶店』というエッセイでも登場した、学生時代からの親友、安久津(仮名)くん

 入院中(死にそうなときも)からLINEで激励をいただいていた「復帰プロジェクト」のメンバーへのお礼の会。大学からの親友、エッセイ教室で友としておつきあいいただいている淑女、そして(北海道にいる)姪、にメンバーになっていただいている。うち1名はnoteのアカウントの保有者でもあるので、万が一の場合は、連絡が必要な方々にはほとんどが伝わるシステムになっている。毎日、「退院したら、〇〇食べたい!」なんて発信していた。そのひとつとして、「新宿・高野フルーツパーラーでイチゴのショートケーキが食べたい」があった。しかし、脂質制限からすればスプーン1杯分をすくって食べることしかできない。そこで、許されるのは和菓子。よって、新宿通りの並びにある「追分だんご」に河岸を替えて、開催することになった。

「追分だんご」のイチゴあん


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