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初心【エッセイ】八〇〇字

 早大エクステンション「エッセイ教室」秋講座。最終8回目のお題が、「初心」(800字)。
 まず浮かぶのが、「初心忘るべからず」。世阿彌の「花鏡」にある言葉。若年のころに学んだ芸や、未熟だったこと、また、折々での初めての経験を忘れてはいけないという教え。 転じて、習い始めたころの謙虚な初々しい心持を常に失ってはならない、最初に思いたった一念を忘れてはいけないの意。さて、あなたにとっての「初心」は、いかに?
                 ※
 起業から20年目で、スタッフ全員の引き取りを条件に、会社の整理を決めた。
 紆余曲折ありながら、憧れの大学に。が、構内は、拡声器のがなり声と乱立する「立て看」。紛争がピーク。授業は、過激派の妨害や、バリケード、ロックアウトで、多くが休講。
 バイトを始めたのは、5月末。北海道の高校時代を長期病欠で、留年。進学にも、失敗。札幌での一浪目に政治活動に関わり、二浪。もう運動には手をださないと、決めていた。
バイト先の大学近くの店には、学生50人以上がローテーションで働き、まるで部活。私は、「金儲けクラブ」と、呼んでいた。
 が、事件が起きた。川口大三郎君の革マル派による、虐殺である。白けていた普通の学生までもが革マル派を糾弾する運動に。私はノンポリを決め込んでいたが、さすがに足が勝手に動いた。11月13日夜。本部の大隈銅像の前の広場は、自然発生的に集まった2
千人以上で埋まった。級友、バイト仲間も。

 「虐殺糾弾」の「立て看」が鬱蒼と並び、反自治会による演説が流れる。その中、革マル派自治会委員長のTが連れてこられ、演壇に立たされる。我々までもが、大声で委員長を罵倒する。さらに反自治会の黒ヘルが過熱し、広場横の図書館のバルコニーから、革マル活動家を、いまにも落とそうとしていた。集会は何日も続き、Tや幹部は、逮捕された。
私は、「金儲けクラブ」に戻り、授業を犠牲にしながらも、なんとか4年で卒業した。
 卒業後、モラトリアムの20代を経て30代で軌道に乗り、46歳で独立。「クラブ」のおかげか、余生をなんとか過ごせる蓄えもできた。が、学生時代の悔いがあった。整理する2年前から母校のオープンカレッジに通い始め、苦手だった英語も克服。どうにか卒業レベルまでには。政治についても学び直し、世の中の見方、その表現力を身に着けようと、「エッセイ教室」にも通っている。初々しい心持ちで。

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