見出し画像

映画(その3)【エッセイ】一二〇〇字(本文)

早稲田エクステンション「エッセイ講座」。夏休み前のお題「映画」。(その3)です。今回のアイテムは、『ウエストサイド物語』。あなたなら、どんな「映画」の想い出を書きますか?
今回は、note用の約1200字の原稿を、560字に削ったものを(おまけ)で掲載します。教室で学ぶ身。その削除法が正しいかどうかは、不安あり。師匠に赤字を入れられ、お叱りを受けるかもしれません・・・。

               ※

 55歳で急逝してしまった“ヤツ”のことを、想い出す。
 札幌から北に1時間、北空知の進学校2年の年末に結核を罹患。長期入院し、留年。落ち込んでいた頃、同期の寺嵜てらさきから、札幌で映画を観て、信川しながわのところに泊まらないかと誘われる。入院前、制帽自由化で彼が会長、自分が副会長で生徒会活動をしていた。実現できなかったが、それ以来。彼も、東大入試の中止で一橋を狙ったが、失敗。小樽商大の1年だった。信川は、やはり北大の受験に失敗。札幌で浪人中。3人は、1年のときに同じクラス。それ以来、仲良し三人衆として関係が続いた。信川は予備校の講習があるので映画は観られないが、久しぶりに3人で会おうということに。
 映画は、日本公開から七年後の、『ウエストサイド物語』。初の都会の映画館。始まりから圧倒される。70mmの大画面。口笛で始まり、『ツゥナイト』『アメリカ』のテーマソングが立体音響の大迫力で流れる。マンハッタンを鳥瞰する線画から実景に変わり、ズーム。音が徐々に大きく、クレシェンド。突然、停止。指パッチンに変わり、『ジェットソング』で、ダンスが始まる。
 キレキレのダンスに、大都会を感じた。主役のマリア役のナタリー・ウッド、トニー役のリチャード・ベイマー、アニタ役のリタ・モレノ、ベルナルド役のジョージ・チャキリス。特に悪役リフ役のラス・タンブリンのダンスが、好きだった。それと、リタ・モレノ。大人の女性の魅力に引き込まれた(実は、大学1年から2年付き合った子がリタ・モレノ似だったのだが、この影響があったのかもしれない)。そしてもちろん、監督のロバート・ワイズのカメラワークと、何と言っても、レナード・バーンスタインの音楽。全てが(心の中の)ニューヨークだった。

画像1

 エンドロールにも驚いた。ソール・バスのハイセンスなデザイン。黒いバックに名前が流れる画面とは明らかに異なる。アート性を感じた。終わった後も座ったまま。寺嵜と顔を見合わせ、うなずいたのだった。

画像2

 興奮したまま、信川の部屋で映画のシーンと、その感動を話しまくった。蒲団を川の字に敷き、電気を消したあとも。日が変り、信川はその日も講習があるらしくいびきをかいていた。しかし、寺嵜の話が止まらない。高校時代に好きだった子の話を始める。映画のロマンスに感化されたのだろうか。生真面目で秀才タイプの彼から、そんな話を聞くのは初めてだった。私も映画の興奮で寝られず、話を聞きながら、朝を迎えた。
 その彼は、小樽商大から一橋の大学院に進み、あの日の話に出てきた子とは別の女性と結婚。長崎大学の教授を経て、東京理科大の教授として東京にきたところで、呑み会が復活。しかし、55歳のとき、膵臓癌でこの世を去った。
 再び“ヤツ”と、この映画を観たことがある。逝く一年前、彼の自宅だった。
 あの『ウエストサイド物語』が、スティーブン・スピルバーグによってリメイクされ、ようやく今年の2月に封切られた。映画館では観ていないが、アマプラで購入。旧作と交互に繰返し観ている。彼が生きていたら、一献傾けながら、口をそろえて言っただろう。
「やっぱり、越えられないよな」、と。


『ウエストサイド物語』予告編

『マンボ』のシーンが好きです。リタ・モレノ最高!

(おまけ)五六〇字

 五五歳で急逝した“ヤツ”を、想い出す。
 札幌から北に一時間の地、滝川の高校二年の年末に結核を罹患。長期入院し、留年。落ち込んでいた頃、同期のTから、札幌で映画を観て、Sの下宿に泊まらないかと、誘われる。彼も、東大入試の中止で一橋を狙ったが、失敗。小樽商大の一年だった。Sも北大の受験に失敗。浪人中だった。三人は、一年の組が一緒。以来、親交を重ねる。Sは、予備校の講習があるということで、二人で、観た。
 映画は、封切から七年後の、『ウエストサイド物語』。魅力あるキャストとキレキレのダンス。そしてバーンスタインの音楽。七十ミリのワイド画面と立体音響に、圧倒される。
 下宿に戻っても興奮冷めやらず。気に入ったシーンを喋りまくった。Sが翌日も講習がると寝た後も。Tは、マリアとトニーのロマンスに感化されたか、好きだったという子の話を始める。生真面目な秀才タイプの彼の想いと、映画の興奮とで、そのまま朝を迎えた。
 再び観たことがある。樽商から一橋大学院、長崎大を経て、理科大教授になり、呑み会が復活した後、彼の自宅で。逝く一年前だった。
 今年の二月、スピルバーグ版が公開される。映画館では観ていないが、アマプラで購入。旧作と交互に繰返し観ている。“やつ”が生きていたら、一献傾けながら、口を揃えて言っただろう。
「やはり、越えられないよな」と。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?