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手帳【エッセイ】

 彼女は、秘書役を立派に務めてくれた。出張や一人旅のときも、次々と予定が決まっていないと落ち着かない質なので、分刻みで。
 そんな私が、四十七で興した会社を、六十五を機に整理することにした。念願の「サンデー毎日」ならぬ「サタデー毎日」(翌日が常に日曜日なので、そういっている)が始まった。と同時に、彼女も暇になってきた。
 一時期は、タイムシステムなんて、タイトスカートをはいたキャリア・ウーマン風が流行り浮気もしたけど、結局、元の鞘に。
 いまスマホを使うひともいるけど、デジタル系の商売だった私でも、紙がいい。手書きは、気のせいか忘れない。終えて横線で消すと、「やってやった!」という達成感がある。
 しかし、横線を入れるスケジュールが、めっきり減った。なけなしの行事さえ、コロナ禍でなくなった。趣味のゴルフは、自粛。自分史を残すために文章修行で通ったエッセイ教室、高齢者が多く中止。友との呑み会も、重症化リスクがあるヤツが多いので、実現できそうにない。歯科医院は怖くて行けないので、予定なし。残ったのは、ZOOMを使った英会話レッスンと持病の電話診察のみ。
 書き込みがなくなると、曜日感覚が薄れるようだ。だけど、やっと辿り着いた究極の「サタデー毎日」。そろそろ、縛られることなく気ままに歩いてみよう、と思う。旅は白紙のほうが想定外の発見があって、むしろ楽しい、という。
 「秘書よ、大儀であった」

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