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ふるさと【エッセイ】八〇〇字

 「出身はどこですか?」「北海道です」
 ここまではいいのだけど、「北海道のどこ?」というのが、困る。「全道です」と言うのはおかしいし。なにしろ、高校まで八か所の町で暮らした。どこが故郷なのか決められないのだ。だから、出身高校と母の実家があった滝川市と、答えるようにしている。
 父親は、農産物の等級を決める役所の技官だった。等級は農家にとっては死活問題になることもあるので、癒着を防ぐため、短期での異動が多くなる。よって、八か所になる。
 ご生誕から小学一年までは、あの『北の国から』の舞台、富良野近郊で育った。ラベンダー畑(当時はない)の美瑛町美馬牛。四歳までいた。ほとんど記憶にない。だけど、駄菓子屋で籤付きガムを立て続けに開けていたところ、母に叱られ、「だって、『またどうぞ』、って書いてあるよ」と、盾突いたらしい。
 五歳から、純と蛍が過ごした麓郷。純たちが遊んだ雪原、白樺林など。大雪山の山並み。秘密基地を作った東大演習林裏の両岸の木々に被われた、小川。想いおこせば、一番ふるさとにふさわしいのかもしれない。だけど、出身が麓郷というのは、他の町に申し訳ない。
 番組が始まったのは、三〇代のはじめ。毎週金曜日十時に、テレビの前に正座し、ティッシュを抱えて、遠きふるさとを観ていた。
 その後、金山ダムの近くの富良野町下金山。愛の別れと書く、愛別。廃線となった札沼線沿線の北竜町碧水、雨竜町追分、新十津川町の下徳富。そして雨竜の隣町、妹背牛と、どさ回り劇団よろしく、道央の田舎をくまなく回った。ということなので、「私のふるさとはどこ? 教えて」と、言いたくなるのだ。
 仮の出身地、滝川は有名とはいえないので、「どこにあるの?」とくる。その際は、「函館本線と根室本線の分岐点で、旭川と札幌の中間辺り」と説明する。それと、「黒柳徹子のお母さん、チョッちゃんの古里」と、松尾ジンギスカン本店がある町。わかりますか?

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