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粋【エッセイ】六〇〇字

 一人でレストランに入るのは、苦手だった。とんかつとか、牛丼とか、ラーメンなんかのようにカウンターの店は別だけど。テーブルにポツンと座っているのが、落ち着かない。お連れも、お友達もいない孤独な男って、感じで。カウンターなら、文庫本を広げながら食べるのは、サマになる。けども、寿司屋では、無粋だろうし。フルコースを食べながら、本を読んでいる姿は、逆に、目立ってしまう。
 特に、接待で使っていたような、馴染みの店。「いつも、何人かでいらっしゃっていたのに、会社潰れた?」なんて、心配させることになるかもと、余計なことを考えてしまう。
 ただ、「孤食」で人気の「孤独のグルメ」。コロナ禍で推奨される作法であるし、苦手意識も少し、和らぐ。松重豊演じる井之頭が一人店に入り、無言で食べる。よくそんなに入るなというくらいに、大口を開けて、パクパクやる。人の目なんて、なんのその。商談のついでに、その地の名のない店で、食する。
 そうか、出張のときは、一人で店に入っていた。出先だと思えばよいのだな。一人旅でも、観光客って顔していれば、平気だったし。
 最近、海外の旅番組もよく観る。すると、ワイングラスを渋く傾け、ナイフ、フォークを品よく使って食事している、孤高の老人が映ったりする。先立たれた妻とか、若い日々の熱き想い出に浸りながら、という感じで。何度か見かけると、そんなシーンに馴染む年寄りもいいかな、と思えるようになってきた。

※画像は、アマゾンビデオ『鑑定士と顔のない依頼人』のシーンから。

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